36 NEW従魔
「すいません、カグヤさん。薬草採取の依頼を受けたいのですが」
「分かりました。……受理完了です。くれぐれもエリクサーの原料とか竜涙花とか取ってこないようにご注意ください」
「見つけたら持って帰りますよ」
「はいはい。期待してますよー」
「ただしその場合闇ルートで捌きます」
「なんでですか!?普通にギルドに持ってきてくださいよ!?」
「担当冒険者が成果を上げれば給料アップにも繋がりますからねぇ」
「そうですそうです……って、それ目当てみたいな言い方やめてください!」
「え〜じゃあほかのカウンター行っちゃおうかなぁ」
「え、え、でもレイジさんは」
「まだ誰とも専属契約してませーん」
「でも……」
「ん。冗談!じゃあいってきまーす。昇格試験は受けないってギルマスに伝えといてくださいね」
「ちょっと!」
おれがいた西の森は立ち入り禁止になっているようなので、東の森へ。
どうも聞いた限りでは、原因は完全におれだ。
魔物の減少?アンデッドの大量発生?不可視で超絶斬れ味な魔力的ピアノ線トラップ?
心当たりしかない。
特にあのピアノ線トラップは、脳の演算領域の過剰使用で頭やら目やらから血をドパドパ出しながら仕上げた最高傑作である。
超絶的斬れ味と高い耐久性を持ち、細すぎて肉眼ではほぼほぼ見え無い悪魔的兵器を隠蔽した魔力で作り上げた……までは良かったが、作るだけで精一杯、振り回すなんて以ての外。
仕方ないので設置型のトラップとして活用した。
その間は、ろくに魔法が使えないという弊害があるが上手く追い込めば実践でも使えるだろう。
作成時には脳溢血や失血死等で何回か死んだが、その労力に見合うだけの経験値は貰えたと思う。
今なら死ぬ前に作りきれるが、時間がかかる上動かすと集中力が途切れ、努力が水の泡になる。
数年かけて極めてきた魔力操作でこれだよ……扱いにくいったらありゃしない、。
……話が逸れたが、森へ行く前に入街税の支払いを済ませよう。
(召喚!)
《ようやくですなぁ》
《見、参!》
オオカミ(♀)にはフェル、スライム(無性)にはフニと名づけた。
のんびりした口調がフェルで、元気のいい声がフニだ。
依頼を受けて街を出た時は、基本的に従魔には自由行動させている。パワーレベリングはあまり意味が無いので、自分でレベル上げしてもらうしかないのだ。
俺の魔力量なら、国の端と端でも念話が届くし、従魔空間に戻れば何時でも目の前に戻ってこられる。
遠ければ遠いほど従魔空間に戻る為に失われる魔力も増えるらしいが、全く実感がない。
「さて。じゃあまず聞きたいんだが…………記憶は、どこからどこまである?」
《我は、人間の村で主が賊共の拷問をした辺りからですなぁ。その後森に篭って、進化したかと思えば人間になるし、喋ったとおもえば口調も大分変わっていたので驚きましたなぁ》
《まーねー。まーねー。2年弱、一言も喋ってなかったんですからね。》
《あの喋り方もカッコ良かったですぞぉ》
《そ、そう?……じゃなくて、フニは?》
《私は迷宮に居た時からですね。ゴーレム地獄の階層からです!》
《そうか……なら、ココ最近事についても知っているのか。因みに、どんな感じで情報が入ってくるんだ?目で見た訳じゃないだろう?》
《目や耳を通さず、直に脳内に情報が送られる、とでも言いましょうか。何も見えず、何も聞こえず、何も感じない空間の中で、あたかも森林サバイバル動画をノーカット4Dで見たような感じ、ですかね!》
《そうですなぁ。初めは戸惑いましたなぁ》
「なら問題ない。基本的な常識はあるだろうし、同じ時間を共有してるなら会話も何とかなるだろ。じゃあ早速本題だが、モフモフさせてくれ、フェル。フニはぷよぷよさせてくれ」
《良いですぞ。我が存在、その全ては主の為にありますからなぁ》
《メタルスライムなのでカチカチヴァージョンも可能ですよ。1部ぷよで1部カチカチとかも。足つぼマッサージは出来ませんが!》
「問題ない……行くぞ!」
魔物とはいえ狼、ならば感触は良くても獣臭いか……と思ったが。
「んんん〜~〜!もっふもふだなぁ、このこの!」
《そうでしょう、そうでしょう》
「そんでもって意外にもいい匂いだな。……何故や」
《今朝までは体がありませんでしたからなぁ。それに、何故か従魔の空間に居ったゴブリン達が香や石鹸の研究をしておりましたから……少し、譲り受けて使ってみました》
《私達がご主人様の従魔と知った時、"これは洗礼だから大人しく臭がられろ派"と"そんなの可哀想先輩の威厳を見せるべき派"の間で激しい戦いが勃発し……最終的に、リーダーのホムラなるゴブリンキングの所属する"そんなの可哀想先輩の威厳を見せるべき派"が勝利し、香り付きの石鹸とシャンプーを分けて頂きました》
「いやそんなのあるなら言えよ。おれも欲しいんだけど」
《分かりましたぞ!》
森にいた時は水浴びか、水魔法の洗浄で汚れを落とすだけしかできなかった。
人間の作る石鹸とゴブリンの作る石鹸か。
どちらがより泡立ち、より香り、より汚れを落とすのか……。
《主ぃ。乙女の肢体を一心不乱にまさぐるとは……責任を取ってもらわねばなりませんなぁ》
「責任?」
《番になっていただきます。見た目が人間に酷似した種に進化した暁には》
《私も~》
「フニは無性じゃないのか」
《たぶん?進化すれば何とかなります!強く望む種族に変化するのが進化なので》
「あーはいはい。おれ好みの美少女もしくは美女に進化したらな〜。あと、優しく包み込んでくれる感じの女の人をリクエストします」
《精進します》
《可愛くて性格ブスじゃない女ですね!分かりました!》
「あ、うん。でも優しい子も1人は欲しいっていうか」
《1人は?》
「そう、おれはハーレムを望んでいる!……というか世の中の男は皆ハーレムを望んでいるんだ」
【それは偏見です】
《おお、何やら聞こえますなぁ》
《これが例のレジェンドレアさんですか》
念話を繋げば誰でも聞こえるのか、おれの従魔だから聞こえるのか……この辺りは要検証だな。
「さて、じゃあ次の質問だが……お前ら、何が出来る?」
《戦闘、ウルフ系の魔物を従えること、モフモフされる事、あとはもちろん騎獣としてもお役に立てます。火魔法がかなり使えるので、例え火の中でも活動できます》
《私は分体での索敵、そしてメタルスライムですので[硬化]すれば鎧や盾にもなれます。より深く意識を繋げれば変形のタイムラグはほとんど無くなります。魔法は使えません!》
「分かった。じゃあ実演してみてくれ。戦闘と騎乗、鎧化だな。……早速来たぞ。オーガの群れか……硬いし一撃必殺系だから……」
《我が参ります》
オーガの数は13。武器は棍棒や斧や哪吒など、武器自体の重みを利用する系統のものばかりだ。
《裂こうと思えばこの程度の皮膚、貫けぬはずも無い……が。主の手前、華麗に見せる必要がありますなぁ》
フェルの攻撃手段は大きく分けて三つ。
爪、牙、魔法だ。
いつの間にか赤黒い爪を生やしたフェルが飛びかかる……スピード系だったな。
相手が俊敏に動き回る時、面での攻撃か防御──マジックバリアみたいな──が無ければ対処は難しい。
そして、オーガ達はそれを持たない。
6つの首が同時に舞い、僅かに遅れて7つ飛んだ。
崩れ落ちたのは同時だった。
《どうでしたか》
「最高。魔法も使わずに、か。じゃあ次フニな。フニは……まあ、とりあえず、そうだな。ちょっとずつ様子見で行こう」
《まかせてください!》
「よし、行こう!乗せてくれ、フェル。フニは鎧化?を」
《承知》
《いきますよ~、あ、どんな感じの鎧がいいですか?》
騎士っぽい全身鎧のイメージをおくる。色はフニの色だから黒騎士だ。
《走ります》
「おっけー。徐々にスピード上げて慣らしていこう」
《毛は掴まないでください。首に抱きつくようにして掴まってくだされば。後日、職人を捕らえて鞍でも作らせましょう》
《私が鞍になりましょうか》
「普通に金払って作ってもらうわ……出来るのか?やってみてくれ」
《鞍のイメージを送ってください!》
騎士鎧の脚甲から触手が伸び、フェルの首や胴体に巻き付く。
前世のポニーキャンプやらテレビの競馬やらで見た鞍のイメージを送って少し待つと、黒一色の鞍が出来上がった。
《フニ殿、もう少し緩めてください、動きづらい》
《それは失礼!これでよろしいか?》
《……ん。いい感じですなぁ。スライムというのはなかなか多芸なのですなぁ》
「おお、やるなぁ。んじゃ改めて出発だ!」
《承知》
柔らかいところは柔らかく、金具に当たる部分は[硬化]で強度をたかめている。
本体と切り離された鞍は一応分体という事になるのだろうが、戻すのも動かすのも本体とあまり変わらない精度で出来るようだ。
気を使ってくれているのか、かなりのスピードで走っている割には、振動があまり無い。
「止まってくれ。あいつで行こう」
グリズリー。通常種。
本来スライムが倒せるような相手ではない。
異世界ものの小説でよくあるスライムは、驚異的な潜在能力を秘めたタイプとどこまで進化しても救いようがないほど弱いタイプに別れるが…………俺の見立てでは前者。
最強になりうる最弱の魔物だ。
《ふむ……巨大》
体長3メートルに達する巨体が、のこのこ出てきた弱小種族を叩き潰すべく腕を振り上げた。
《む……なかなかの剛力。動きも速い……》
野生は出し惜しみをしない。既にグリズリーは身体強化を発動している。
魔法を使う個体かは分からないが……
《身体強化……しかし、守りに入った私の装甲を抜く事は不可能。私はスライム種故に物理攻撃には高い耐性を誇り、唯一の弱点となる核も……》
フニは体が透けてないので、目視では核の位置が分からない。
更に、硬化。
広げた体を硬化すれば盾となり、触手の先端を硬化すれば矛となる。
高い知能を持つユニークモンスターだからこその芸当だ。
(……おれと戦った時、硬化使ってたっけ?)
《こうすれば、問題ない!》
身体の内部、核の周りを硬化させる。体内なら硬化を保ったまま移動可能だし、ある程度の不意打ちなら防ぐことが出来るだろう。
俺みたいに魔力が無尽蔵にあれば、常に全身を硬化させれば済む話だが……
《また右の振り下ろし……いや、先ほどより僅かに筋肉が──》
《先程のような強烈だが若干の溜めが必要で、次の動作に繋がりにくい振り下ろしではない──》
《つまりは……連撃の体勢に入ったか──》
《しかし攻撃対象である私の大きさは精々数十センチ──》
《体長3メートルを超える大熊……四足のときでさえ肩の位置は地上1メートルを超える──》
《更に、前脚と後脚の間に位置する重心をささえるためは前脚と後脚、それぞれ最低1本を地面に着き体を支える必要が──》
《故に左右の連撃が来るのは奴が後脚で立ち上がった場合、もしくはジャンプなどで一時的に──》
《警戒すべき次の攻撃は振り下ろし後の噛みつき、隠している可能性のある魔法、もしくは右前脚が設置した瞬間の──》
《分厚い筋肉、毛皮に守られた内臓に届きうる攻撃──》
《ノータイムでは放てない。ペースを乱して時間を稼ぐか、眼孔から脳を──》
《噛みつきと平手打ち……ならば腹の下に潜れば届かない──》
まさかこいつ、参謀タイプか。
決着は意外にも早く、100数える前にグリズリーは倒れ伏した。
《倒すだけなら、無心で攻撃に耐えながら最大火力の一撃を打ち込めば倒せる相手でしたが…………それは、スマートではない……!》
知性を持つスライム種は搦手がエグイな。
頼りになりそうだ。




