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進化論~レベル式進化説  作者: ツタンカーメン
3章 迷宮都市
35/65

35 いただきます

「?イタダキマス?」

「これはおれの故郷の習慣で、おれが命を繋ぐために死んでもらった動物、それを狩って提供してくれた人、ここまで運んでくれたひと、そして調理してくれた人に感謝の意を込めるとかなんとか」

「へぇ。いい習慣ね。イタダキマス。これでいいのかしら?」

「ちゃんと食器を置いて、両手を合わせながら言うんだ。……まあ、みんながみんなちゃんとやってる訳じゃないけど」

「そうなのね。イタダキマス」

「ああ。そうだ…………懐かしいな」


最後にいただきますを言ったのは何時だっただろうか。

そもそも、おれは食前の挨拶を日常的にしただろうか。


「レイジの故郷ってどこなの?」

「遠い場所だ。戻れないし、戻ろうとも思わない」

「どんな場所だったの?」

「危険が少なくて、人が沢山いて。秩序を守るためのちゃんとした法と犯罪者を捕らえるための巨大組織がある。腐った人間もいるし、いろいろな問題を抱えてたけどね。……自然の破壊とか」

「自然の破壊?」

「森を更地にするとか、川や海に大量のゴミを棄てるとか」

「それは酷いわね」

「ああ。便利で快適だけど、退屈でクソッタレな世界だった」

「人が、沢山いたの?」


沢山いた。この世界の人口は知らないが、70億を少ないとは言えまい。


「そりゃあもう」

「そんなに多いの?食料問題は?」

「おれが住む地域にはなかったな。自然を切り崩しながら食べて行ってるんだ」

「綺麗な場所?」

「綺麗な場所はあったな。人間の手が届いていない場所だ」

「自然、ということ?」

「人間なんていなくても、世界は美しいんだ」

「そうね」

「本来世界に人間なんて必要なくて、それでも人間には世界が必要で」

「それだと、あなたや私も存在しない方がいいのかしら」

「どうだろう……でも、誰も存在しなければなんの悲劇も起こらないし、そもそも悲しみを感じることだってないんだし」

「……それはそうね」

「喜びや楽しさが無いより、悲しみがある方が辛いだろ?」

「……あなた」

「でも、おれは存在してる。悲劇もある。悲しみも感じる。なら──」

「そうね。……食事にしましょう?せっかくの料理が冷めてしまうわ」

「そうだね。食べようか」


肉厚なステーキをナイフで切って口に運ぶ。ライスはなくて、パンが置いてある。

驚くほど柔らかい肉だった。



「調査依頼?」

「はい。立ち入り禁止の森の」

「そうか……分かった。受けるわ」

「ありがとうございます。助かりますよ…」









(なにかしらあの男は……っていうか高位精霊が住む泉で水浴びするなんて)



これが私とレイジの出会いだった。


気配を消していたのに気付かれたことにも、私が気配を感じ取れないことにも驚いた。

何より彼には精霊が見えるようだ。黒髪の間から覗く耳はエルフのそれではないにも関わらず。

服を着るからと言うので、背を向けたら逃げるし。

いっその事指名手配してもらうか……なんて考えるほどイライラした。


だから道で見つけた時、迷わず声をかけようとした……が、声をかける前に路地裏にもぐられた。


(あら、あの子を助けたのかしら……?悪い人じゃなさそうね)




「げ」

(げ?人の顔を見て、げ、なんて…)



逃げられそうだったので、最強の手札を切った。


「じゃあ、食事を奢るわ」


高級料理を奢ると言うと、見事に食いついてきた。

店長の異様な風貌、いえ、個性的な外見に驚きを表さなかった人を初めて見た。


ドラゴンステーキ?そんなの今日のメニューに在ったかしら?

ない?じゃあダメなんじゃ……いいの?いいんだ……

私はいつも通り店長のおすすめを頼む。

さて、ここからが本題。

聞きたいことが山ほどある。この知的好奇心を満たすためなら大金貨数枚なんて安い安い。


「あなた、エルフね?」


半ば確信を持ってそう言った。

黒髪のエルフは見たことがないが、あの美貌、魔力の多さ、そして何より精霊が見えるときた。

ハイ確定。エルフよ。エルフなのに精霊の住処で水浴びするなんて、これはもうお仕置きが……

ん?エルフじゃない?


「嘘ね」



じゃあこれみて納得しろ?何かしら……んん?

鱗……?竜化?竜人?

幻術かしら。


………………


…………


……



(はあ……つかれた。何よこいつ、ちょくちょくボケてくるからツッコミツッコミしながら喋るの疲れるわ……うん、とりあえずもう一度聞いてみようかしら。自然な流れで)


「そ、それで、あなたの魔法適性──」


諦めろ、と言われた。口が堅い。

そしてようやく料理がきた。


「いただきます」


なんの呪文だろうか。魔力の動きは感じないけれど。

故郷の習慣?聞いたことがないわ。どこから来たのかしら。

遠い場所?曖昧な答えね。戻れない?海の向こうかしら?少なくともこの大陸ではないのだろう。知りたい。ここではないどこかに存在する、私の知らない場所。綺麗なところかしら?

人間の手の……?自然?が?美しい?場所?ということ?


「人間なんていなくても、世界は美しいんだ」


そうかもしれない。


「本来世界に人間なんて必要なくて、それでも人間には世界が必要で」


目が。なんというか、先程までの明るい黒ではなくて、底抜けの黒。

誰に言われずともわかる。この色をもたらしたのは、負の感情。

ダメだ。恐らく彼の心の──敏感な部分に触れてしまった。これ以上会話を続ければ、私の好奇心はきっと彼の心の傷をえぐる。


「それだと、あなたや私も存在しない方がいいのかしら」


自分の存在が消えることを人間は恐れるはず。だからこう言えば話は終わりへ向かうはずだった。


「どうだろう……でも、誰も存在しなければなんの悲劇も起こらないし、そもそも悲しみを感じることだってないんだし」

「……それはそうね」

「喜びや楽しさが無いより、悲しみがある方が辛いだろ?」


決まっている。零とマイナスの大小、優劣など個人の感性など介入の余地もない公理だ。

でも、人生には悲しみもあれば喜びもあって、悲しみを打ち消してくれる喜びもあるはずで。


「……あなた」

「でも、おれは存在してる。悲劇もある。悲しみも感じる。なら──」

「そうね。……食事にしましょう?せっかくの料理が冷めてしまうわ」

「そうだね。食べようか」


きっと彼は、心のどこかが壊れている。心に傷を負い、治さぬままで生きてきた。

放置された傷は化膿し、悪化し、拡大し、増大し、今に至った。


時間は彼の傷を癒さなかった。



……こういう人もいる。

様々な不幸に溢れるこの世界には、こんな人もいる。

ただ……彼が言ったことに納得は出来る。


人間なんて世界から見れば害しかなさない寄生虫。もしかしたら、災害や魔物は世界の自己防衛機能かも知れないね、なんて。


納得はいく。1つの説、1つの考えとして、否定は出来ない。

でも、そんなことを本気で言っている時点で、どこかコワレテいるんだろう。




料理はいつも通り美味しかった。



魔法のことも、精霊についても気になるので、待ちで見かけたら積極的に声をかけよう。

流石に、今この場で根掘り葉掘り尋ねる気は無い。

彼も、隠したがっているようだし。








美味しいご飯だった……合言葉も教えて貰ったしカードもくれたから、金が入ればまた行こう。

ちなみに、合言葉の時にさりげなくカードを見せる必要があるらしい。



「いらっしゃい!サンダーボアの……」

「おっちゃん、それ10本位貰える?」

「お!朝……お!……ッ……朝、いや、あざーす!」

「思い出せそうで思い出せないみたいな顔やめろ。朝は金がなかったからな」

「お、おう……毎度あり」




武器屋。


「すいませーん」

「なんじゃ小僧」

「なんじゃって、武器を買いに来たに決まってるでしょう」

「勝手に選べば良い。決まったら持ってこい」

「はいはい……って、おっさん。おれ、刀が欲しいんだけど」

「刀ァ?あいつ以外にそんなもん使うやつがいるのか……まっとれ、今出してやる」




「あ、これで」

「何故それを選んだ?」


武器作りに人生捧げてそうな強面のドワーフの手前、鑑定したから、とは言い難い。


「なんとなく、惹き付けられたからかな……それに、よく見ればこの中で一番出来がいい」

「気に入った坊主。それを売ってやろう。ちなみにこれ、態々地味な見た目にしたんじゃよ。コイツの良さを見抜けん様なやつに売る気は無いでの」

「いくら?」

「白金k」

「あ、無理だわ。じゃあこっちのしょぼいやつで」

「え゛!?ちょっと待って、別に分割とかツケでもいいんじゃが!値下げ交渉も応じるし」

「うーん……」

「分かった、こうしよう!ンン゛ッ、ゴホン!……それを振って見せろ。それで儂を認めさせればただでくれてやる……フッ、儂は金が欲しくて武器屋やってんじゃねえ。武器を作るのはおれの生き甲斐でな。自分の子供達(武器)にも最高のパートナーを見つけてやりてぇんだ………フッ、儂にとってのカミさんのような……な。…………フッ、こいつらも、いい使い手に使われれば本望だろう……」

「ほいっ!」

「オッケー合格!持っていけぃ!」


新調した刀は、驚くほど手に馴染んだ。まるで10年来の相棒のように。……これはもう運命。




神殿にて。


「すいません。転職に来たのですが」

「転職部屋ですね?こちらになります……申し訳ありませんが、お布施を頂けますか?」


神殿では、何らかのサービスに対して料金が発生することは無い。……無いのだが、お布施という形で金を回収している。

相場は決まっており、半ば常識化しているので、最低限払わなければいけない金額というものがある。

例えば転職なら金貨1枚。第3段階の称号まで鍛えた者ならなんてことない金額だ。

もちろん俺も金貨1枚を渡す。


「ありがとうございます……今日は面白い方が多くいらっしゃいましてね。先程の方なんて……なんと、大金貨を寄付してくださったのです!」

「へぇ、そいつは凄いですね」

「そうなんですよ。他にも、礼拝時に金貨を数枚ご寄付くださる方とか……」


なんだコイツ。さっきからジロジロ人の顔を覗き込みやがって。

あ、視線が寄付した金貨とおれの顔を往復し始めた。


「あ、もう行っていいですか?」

「はい。良い職業が有ると良いですね」


にっこり笑っているのに青筋が立っている。笑い返すと、目元がピクピクし始めた。


──────────

転職希望者二告グ

・今カラデモオソクナイカラ寄付金ヲフヤセ

・寄付セヌ者ハ全部守銭奴デアルカラ軽蔑スル

・オ前達ノ父母兄弟ハ悪イ噂ガ流レルノデ皆泣イテオルゾ(地方ハ広ガルノガ早イゾ)


7代目勇者兼枢機卿 ユウサク・サガラ

──────────


無視だ無視だ。この世界は意外と日本関係のものが有ったりする。

この都市はかなり広いし人口も多そうだが……地方?まさか全国の教会全てにこれがあるのか?

歴代勇者の名言ニーチェとかのパクりとか、勇者が建てた石碑、手紙、発明品、等々。

神殿側もこんなもん、勇者兼枢機卿とやらが死んだら剥がせよ。


【転職可能な職業から転職先を選んでください】


召喚士、剣士、斥候……


(剣士)


【剣士に転職します】

【剣士に転職しました】

【称号:剣士が剣豪に変化しました】

【称号:剣豪が剣聖に変化しました】


【転職可能な職業から転職先を選んでください】

………………

【転職可能な職業から転職先を選んでください】

………………



…………



……



神殿を出る頃には、ステータスに職業の欄が増え、剣士、拳闘士、召喚士、斥候の4つが記入されていた。


剣聖、拳聖、超級召喚士、NINJAの称号が追加されている。


斥候の上位称号は隠形士だったはずだが。



どうでもいいや、早く森に行こう。森に行ってモフモフを召喚するんだ。



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