34 何かの才能がある人はキャラが濃い
今の自分の姿はどうだろう。この辺りでは珍しい和服。黒目に黒髪、一本下駄。しかもこの下駄、歯の部分が10センチくらいあるんだよなぁ。
だからだろうか。先程から道行く人々にチラチラ見られている。
しかし、物珍しげな視線ではない。服装よりも注目を集めるものがおれにあるというのか。
(まあ、イケメンだからだろうな…………フッ)
【自意識過剰ですか?】
(いやいや、客観的に見て、だよ。前世の時よりイケメンだ)
【良かったじゃないですか。容姿が良いというのはハーレムを構成する上で大きな利点です】
(ハーレムを構成するなんて言った覚えないけど)
【世界は全てを知っています…】
(ダウト)
【スキルである私が持ち主であるレイジの考えが分からないはずがありません。心の奥底に秘めた願望まで、全てを知っています】
(……いきなりそんな事言われてもなぁ)
【そうですか。では実演してみましょう。あなたは犬派で大型犬を飼いたいな、と思っている。内心血狼王を早く召喚したいと思っている。小学2年生の頃に、スーパーで人目を忍んで陳列されていたデラウェアを1粒盗んだ事を気にしている。巨乳派で腹筋の筋フェチ、エロ本の隠し場所は数年前に故障したままのエアコンの中、胸派か尻派かでは、以前までは胸派だったが最近では中立の────】
(分かった!分かったから!)
【そんなに慌てなくても、貴方にしか聞こえていませんよ】
何だか非常に機嫌がいい。今朝はあんなに拗ねていたのに、今ではおれを弄ってクスクス嗤うほどにまで回復している。これはこれで面倒臭い。
が、コイツが他人に声を届ける可能性がある限り怒らせることは出来ない。
コイツは本当におれの事を知っている。記憶を覗かれたのだろうか。デラウェアの事を言われれば信じるしかない。
(……ん?あの鎧、どっかで見たな)
【今朝のエルフですか】
(お……やっべぇ。あいつ指名手配するとか言ってたもんな……逃げるか)
取り敢えず近くの路地裏に潜り込む。
と、何故か3人の男に囲まれた少女が居たので、男3人の股間を蹴り上げて救出。
もう少し会話を聞いて善悪判定すべきだっただろうか。
まあ、短剣チラつかせてたし、明らかに女の子の方は怯えてたから大丈夫だろう。
「あの──」
よく見たら、清潔で高価そうな衣服を纏っている。
もしかしなくても貴族かと思って咄嗟に隠れたが……
「あ…行ってしまいましたわ。お礼を言えておりませんのに」
あ、これ貴族だわ。貴族じゃないとしても巨大商会のお嬢様とかなんだろう。
流石に1度助けた人を路地裏に放置するのは嫌なので、通りに出た事を確認して……
「げ。」
「げ、とは何かしら?変質者さん」
「……どちら様ですか?」
「忘れたフリとはいい度胸ね。しょっぴいてあげる。ついてきなさい」
怒っていらっしゃる……言葉遣いも乱暴になって、顔は笑っているが目が笑っていない。
はて、ここまで怒られるようなことをしただろうか。
「え、なんで?……なにゆえ?」
「なにゆえ……?まあいいわ、取り敢えず路地裏で少女を尾行する怪しい男を見つけたから、ということでいいでしょう」
(しまったーーー!素人相手なら本気で隠密する必要ないと思って……)
「はい、さっさと来る」
「誤解だ!おれは」
「何?言い訳?変質者さん」
「変質者って……他人の水浴び覗いたお前に言われたくないわ!」
「のぞ……ッ!それはあなたが勝手に脱いで神聖な泉を汚すから注意したのよ!」
「とにかくしょっぴかれる気はない」
「待って待って、聞きたい事が……」
「話したらなにか得になるのか?ならないだろう。じゃあな」
「え、じゃあご飯奢るわ」
「飯代なんかに困ったことは無いぞ」
「元皇室専属料理人第一席の、1食で大金貨何枚もするところよ。因みに、入るには会員証が必要よ。私は持ってるわ……この街で持ってるのは、私を除けば10人くらいよ?」
皇室。アレンの生まれ育った王国は『国王』が治める地域で、決して『皇帝』では無いのだが……
1食数百万だと?バカバカしい。これは是非とも見極めてやらなければ。
本当にその価値があるのかを……な。
「何してんだ!ちんたらしてたら置いてくぞ!」
「あなた、場所知らないでしょ…なんて言うか、現金な人ね」
「好きに生きると決めたんだ……好きな時に好きな場所で好きな事をする。最高じゃないか?」
「そういう考えが犯罪を産むのかしら……」
「失礼な」
路地裏の地下。
小汚い居酒屋の扉を開くと……やっぱり小汚い居酒屋だった。
「"注文は?"」
「"エールを樽ごと"」
「"席は?"」
「"奥の個室をお願い"」
「"勝手にどうぞ。個室の鍵です。ごゆっくり"」
いいね。スパイ映画っぽくて。
今のは合言葉だな。
「さ、行きましょう」
個室の中は、というか個室が、いや扉の奥は……とにかく、そこは落ち着いた雰囲気の調度品に彩られたレストランだった。
たった1つ、店の雰囲気に合わないものといえば、フリルの着いたエプロンの、巨漢だろうか。
「いらっしゃい。ロザリアちゃん。カードはいいよ。ところで、隣の彼は……もしかしてコレ?やァね。紹介に来てくれたの?」
やべぇ。オカマだった。いや、見た目に騙されているだけで実は女性なのかもしれない。
小指を唇に当ててくねくね蠢く様は……いや、止めておこう。この手のオカマが鋭いのはテンプレだ。
それにしても、この世界に来てからは驚きや喜びが思わず溢れてくることが多い。
……当然か。何もかもが灰色の、あのクソッタレな世界から抜け出したんだから。
こんなこと言ったら駄女神に怒られるかもしれないが。
「そうなんです。僕ら──」
「ちょっと!話がややこしくなるから黙ってて!」
「ロザリアちゃんにも春が来たのねェ」
「ち、が、い、ま、す!この人はただの連れです!」
「分かったわ。好きな席にどうぞ」
「もう……じゃあ、誰もいないんだし真ん中の席を使わせてもらうわ」
テーブル3つの12席。これがこの店の客席数だ。
「ねェ、アナタ……実際どうなの?あの娘と」
「今朝あったばっかりですよ……無理やり連れてこられて」
……無理やりだったかな?良く覚えてないな。
「そう。でも一応言っておくわ……あの娘のこと泣かせたら、地の底まで追いかけてオカマにするからね」
「大丈夫ですよ……彼女がおれに、敵対しない限りは」
「そう……ところであなた、さっきからちょっと堅いわね。普段通りの口調でいいのよ?」
「対価を払うとはいえ料理を提供して頂く身としては敬語は当たり前だと思いますが、あなた自身がそう言うならそうしよう。これでいいか?」
「ええ。さ、あの娘がしびれを切らしてるわ。早く行ってあげて」
こいつもキャラが濃いな。紛れもない男だ……生物学的には。
念の為言っておくが、"見透かした"訳では無い。そんな無謀なことはしない。
「ねぇ、何話してたの?」
「ロザリアとおれの仲について」
「余計な事言ってないでしょうね」
「大丈夫。今朝あったばっかの友達以上恋人未満の……」
「友達になった覚えはないけど」
「妹的そんざ、」
「言ってないでしょ。言っとくけどエルフは耳がいいの」
じゃあなぜ聞いたし。
「お二人さん、ご注文は?」
「ドラゴンステーキ」
「今日のおすすめを頼むわ。あと、果実水を頂戴」
「ドラゴンステーキって……竜の肉はあるけど」
「ならできるだろ。まあ別にステーキじゃなくてもいいけど……ドラゴンステーキ食べたかったなぁ……」
「はいはい。ドラゴンステーキね。メニューに無いけどね。作るわよ」
「よっしゃ!ありがとさん」
「残さないでよ」
「残さないよ。美味しいならね」
「ワタシにもロザリアちゃんみたいに優しく話しかけてくれないかしら」
「いや、美女と男で対応の差が出るのは当たり前だろ」
「ワタシも女よ」
「心は、な」
「むうぅ……男に生まれたこの身が恨めしいわ……こんなイケメンを前にして女として扱ってもらえないなんて」
「いいからさっさと料理しろ」
はいはい。オカマはハケます、と言って厨房に引っ込んでいく元皇室専属料理人の……そういえば名前聞いてないな。
「さて、それじゃ質問に答えてもらえるかしら」
「ああ」
「料理が来るまで、30分はかかるわ。じっくり聞かせてもらうからね」
「あの、できれば簡潔にお願いします」
「出来ればね。じゃあまず……あなた、エルフね?」
「え、違うけど」
「いいのよ。どうせ里の掟を破って勝手に出てきちゃったとかでしょ?誰にも言わないわ」
「違うって」
「嘘よ」
「本当だって。……じゃあ、これで納得するか?」
部分龍化。右腕に鱗と鉤爪を生やして、ひらひら振る。
「竜人……?いや、幻術かしら」
「えっと、どうすれば信じるかな?」
「信じるも何も、見えるんでしょ?」
「見えるって……精霊、ってやつ?この、浮いてて光ってて丸い」
「そうよ。そんなに精霊に好かれてるあなたがエルフじゃないわけがないわ」
"おいしそうー"たべたいー"
「美味しそう、ですって。聞こえたんでしょ?」
「まあ、聞こえはしたな」
「じゃあエルフよ。じゃあエルフだわ。それにほら、エルフの特徴である容姿端麗を体現した様な顔してるじゃない」
「あのさ、」
「その精霊たちに、魔力を分けてみて」
「魔力?どうやって?」
「放出するだけよ。精霊様に捧げますって頭で言いながら」
(精霊様に捧げますー)
"おいしー"おいしーよこれ!"びみなるかな"いとびみなり"おいしいけど"おなかいっぱいにならないね"
「おなかいっぱいにならない……?どの精霊も?」
"おおお!"ひらめいた!"おなかいっぱいにならないってことはー"ことはー?"いくらでも、たべれるってことだよ!"おおおーー"ほんと?ほんと?"いいの?いいの?"ねえー"もっとちょうだいー"
「いやだ。魔力吸われるだけじゃん」
"ちっちっちっ"わかってないなぁ"ちからをかそうー"けいやくする?"できないー"なんでー?"ぞくせいはー?"わかんなーい"むむむ"でもまりょくはちょうだい" えるふさんー"まりょくをおくれよ"おなかいっぱいになったらちからをかしてあげる"これでどう?これでどう?"
「つまり、おれの魔力は美味しいけど燃料にならないから、他の人から貰った魔力を使って役に立ってくれる、ってことか?」
"そうー"さすがー"はやくー"またあのやばいまりょくくれよ、あれやめらんねぇよ"
「うーん、まあ気が向いたらな」
"くれるの?"やくそくー"むやみにせかさない"これもまたこうしょうじゅつ"これもまたへいほー"
「どういうこと?魔力を捧げれば、その魔力で精霊が……あなた、魔法適性は何?」
「それは教えられない。とにかくエルフじゃないことは確かだ」
「精霊の力にならない魔力とやらに興味が出てきたのだけど」
「悪いがこれでも冒険者なんだ。そう簡単に手の内は明かせない……これで納得してくれ」
「……そうね。じゃあ次はあなたの────」
▽
「そ、それであなたの魔法適性──」
「諦めた方がいいぞ」
「出来たわよォ〜ドラゴンステーキと豚煮込み定食」
「定食……?」
「ああ、この人料理の腕は大陸最高レベルなのに自分の料理に適当な名前をつけるの。この前なんて『ナメクジ丼よォ』って言って……」
「え、ナメクジ食べたの?」
「私じゃないわよ……美味しそうに食べてたけど」
「毒とか寄生虫の心配はないわよ」
ナメクジは、殻が退化したカタツムリの仲間だ。ようは貝の一種である。
地球でよく見たナメクジは生食すると寄生虫に侵されるが、この世界ではまず寄生虫というものが少ない。
魔力を持たない野生動物ならともかく、魔力を持つ生物に寄生すれば、濃すぎる魔力に当てられて簡単に死ぬ。
寄生して栄養を吸う事で命を繋ぐ魔物もいるが、ある程度大きい(最低でも成体の鰻くらい)ので、簡単に見つけられる。
魔力の高い生物の体内という過酷な環境で生きるための魔力と体力と大きさ、あるいは特殊能力を持つ必要があるからだ。
まあ、ドラゴンに寄生出来る寄生虫なんて居ないだろう。
グラスを傾けてワインを口に含む……未成年なのに大丈夫だろうか。
そうだ、忘れてた。ちゃんと調理された料理がちゃんとした皿に乗り、ちゃんとした食器で食べるのだから、"いただきます"をしよう。
「いただきます」




