31 冒険者ギルド
人が多い。この世界にはこんなにも人間が居たのかと思う程だ。
気圧される。というか酔いそう。
道行く人の笑顔が仮面のようにさえ思えてくる。
……あれ……?
人と喋るって、どうすりゃいいんだっけ?
「よう」
話しかけられたッ!どうする?殺すか?
使い古された全身鎧に身を包み、おれより大きな盾を背負っている男だ。
強面だ。非常に強面のおっさんだ。戦えば勝つだろうが怖い。顔が恐い。
その顔でよく他人に話しかけれるよまったく。
「見ねぇ顔だな。それに、その服…。東の……ヒモトの民族衣装か?じゃあ、ヒュウガのやつの関係者かなぁ」
「誰だお前」
「俺を知らねぇってことはやっぱりこの辺の出じゃねぇな?俺はギリル。冒険者だ。この街にはなにをしにきたんだ?やっぱり迷宮か?いいよなぁ、複数の迷宮が近くにあるってのは。お前も結構強いだろ?分かるぜ」
「来た理由か?ここに街があったからだ。しかし、近くに迷宮が複数あるってのはいいな。迷宮に入るための条件みたいなのはあるのか?冒険者ランクD以上、みたいな」
なんだコイツ。初対面に相手に馴れ馴れしく話しかけるとは。陽キャここに極まれりだ。
おれだってちゃんとした会話は出来る。コミ障ではない。
学校の友達や家族のような身内になら話しかけられるし笑いもバンバンとる。
それをコミ障と言うんだと言う奴もいたが、おれはコミ障ではない。
だが、人も話すのが久しぶりすぎて緊張する。
やべえ、緊張で傲慢口調が維持出来ねぇ。
エルフの時も素が出たしな。
案外無理だ。
「条件か?ないな。まあ出入口の警備をしてる騎士と問題を起こさねぇこと、位は必要だが」
「そうか。では、冒険者ギルドの位置を教えろ」
いいぞ。いい感じに傲慢だ。というか傲慢すぎだろ。
少なくとも相手がこんな態度じゃコミュニケーションが上手くいく気がしない。
「さっきからすげぇ上から目線だなオイ。俺はあんまり気にしねぇが冒険者は気性が荒いやつも多い。気をつけた方がいいぞ。冒険者ギルドはこの大通りを真っ直ぐ行けばいやでも目に入る。広い庭のある灰色の建物だ」
なんだコイツ。ストファイ勃発かと身構えたが意外と寛容だ。そんな顔じゃないのに。
「そうか。因みに冒険者同士のいざこざについてはギルドや騎士はどう対応するんだ?」
「そこら辺はかなりアバウトだな。ギルド内でのいざこざは場所を移して決闘させるが、外では喧嘩の原因やら怪我の度合いまで全部含めて、騎士団の独断で判決がおりる。だから騎士団のとはあまり敵対しない方がいいぞ」
「そうか。決闘か……ルールは?」
「双方の合意があれば、何でもいい。が、条件や賭けるものが余りに不公平だと判断されたらギルドが止める」
つまり殺してもいいのか。というか殺せばいいのか。
法律が緩くて命が軽い世界らしい。まあシンプルでいいと思うけど。
「そうか。じゃあなおっさん」
「いや、俺まだお前の名前とか聞いてねぇんだが」
「レイジだ。じゃあな」
やべぇ、もう上から目線口調じゃなくてただの口が悪い田舎から来た子みたいになってるよ。
英雄になってやるとか言っちゃうんだろうな、みたいに思われてそうな。
「よう兄ちゃん!どうだい、サンダーブルの串焼きだ!美味いぜ!」
「悪ぃが持ち合わせがねぇ。美味そうだしギルド行ったら戻ってくるよ」
屋台のおっさんの視線が「持ち合わせがないなんて、田舎からでてきたばっかりなのかな」とでも言っているように感じられるのはただの被害妄想だろうか。
「おうよ!昼前から夕方までやってるからな!」
調味料の類や調理法、調理器具に関しては地球に軍配があがる。圧倒的と言っていい差だ。
しかし、この世界の飯は以外にも美味そうだ。やはり素材の良いからか。
「おお……」
冒険者ギルドだ。
延々続く石畳を行くと、広場が目に入る。
もう少し歩けば、手前の建物に隠れていた灰色の大きな洋館が。
ギルドの周りの広場は高校のグラウンド程もある。
ギルドの裏手には倉庫があるようだ。
しかし、入りづらいな。
広場の外でウロウロしていると"なんだあいつ"という視線が刺さる可能性があるので、少しゆっくり目に歩いて時間を稼ぐ。
(大丈夫だ……例えばこいつ。明らかに冒険者登録に来ましたっていう出で立ちだが、誰も嘲笑ってない。おれも注意を払ってない。そうだよ、他人の目から見たらそんなもんだよ)
歩みを緩めたおれを追い抜いて行った1人の青年、初心者感丸出しの装備の男に注目する。
「おっすガイル!今帰りかい?」
「ばっかお前、まだ昼だぞ?今依頼受けてきたんだよ!夕方までに終わりそうなやつ」
「へええ。毎日精が出るねぇ」
「お前はどうなんだ?今からか?」
「いいや、そろそろDランクに上がりそうなんでね。ここは一つ慎重にいこうとおもって。今日は依頼を見るだけだ。いいのがあれば取るけど、今日は行かない。万全の状態で明日、絶対成功させてDランク昇格試験の受験資格を手に入れようって訳さ」
「そうかそうか!お前ももうすぐDか!」
「おう!何時までも初心者じゃいられいからな!」
(……ほうほうほうほう。)
そうかそうか。
(やべぇ。帰ろうかな)
取り敢えず靴紐を結ぶ振りでもして時間を稼ごうと思ったが靴を履いていないことを思い出す。
建物に入るだけなら簡単だ。扉を潜ればあとは流れる様に冒険者登録まで漕ぎ着けるだろう。
問題は広場の横断だ。
(行くしか無いんだ)
と、言い聞かせて足を運ぶ。
(ふう。なんとか着いたか……)
が、ここで第2の試練が。
(絡まれるんじゃないかこれ。)
この街で和服は珍しいようだし。
筋肉は着いているがごつくは無く、細マッチョとでもいうべき体型なので、服の上から見たら華奢に見えるだろう。
冒険者と言うぐらいだからさっきの盾を背負った筋肉みたいなのがゴロゴロいるだろう。
その中に入っていったらどうなる?
絶対絡まれる。自意識過剰では無い。
酒の匂いがする。冒険者ギルドの中の酒場では、昼間から飲んでる人もいるのだろう。
意を決して、扉を開けた。
以外にもギルドの中は清潔で、酒場も落ち着いた雰囲気がある。
10個の受付があり、1番、2番が依頼用、3~8番が、冒険者用9番10番は空だった。
昼とはいえ、かなりの人数が並んでいる。が、一つだけ誰も並んでいない受付があった。
(なんだあそこは。使用禁止か?いじめか、はたまた嫌われているだけか。というか凄い美人だな。黒猫の獣人か……あ、彼女の事が好きな冒険者が周りに圧力をかけてるとかいうテンプレか?だとすると少なくともBかA、あるいはSランク……)
「こんにちは。ご要件は?」
笑顔が可愛い。
「冒険者登録をしに来た」
後ろの方で、バカだぜあいつとかここのルールを知らねぇのかという声が聞こえるが。
「はい。冒険者登録ですね。それではこちらの紙に名前、種族、職業、レベル、使用する武器やスキル、特技を記入してください。」
「レベル、スキルまで書くのか?」
「はい。偽名を書いても問題はありませんが、パーティメンバーの募集や参加時に不利になってしまいます。因みに、実際より高いレベルや所持していないスキルの記入が発覚した場合、その時点で冒険者登録不可となります。登録済みなら冒険者資格剥奪の上、ギルドカード及びギルドに預けられている資産を没収させていただきます」
「おう。なら大丈夫だ」
レイジ、竜人、レベル1、武器は刀。スキルと特技、職業は未記入のまま提出する。
さっさと教会に行って職業を貰おう。魔物のおれが貰えるなら、だが。
「……よろしいのですか?」
「問題ない」
レベル1は事実だし。実際は龍魔人だが、魔だけ隠せば何とかなるだろう。
スペース入れてるだけですとか言って誤魔化せるだろう。
ステータスも偽装すれば鑑定されたとしても問題はない。
自分の鑑定では人間のHPが表示されないが、鑑定の熟練度によって情報量は変わってくる。
「分かりました。それでは登録試験の方行わせていただきますので、こちらの紙をもって右手奥の階段を降りた訓練場まで行ってください。馬鹿みたいに筋肉が肥大化したエルフが待ち構えておりますが、彼が試験官となります」
「了解だ」
はて、エルフは筋肉がつきやすい種だったろうか。
「おお、登録希望者か!」
「ああ。さっさと試験をはじめてくれ」
「まあそう急ぐな!まずは試験内容だな!冒険者の依頼は肉体労働ばっかりだ!だから、試合形式でお前の力を見させてもらう!」
「死合いか?」
「試合だ!」
「試合の方か。……すぐやるのか?」
「ああ。武器は持っているものを使っていい!無ければ貸出も可能だが……持っているようだな!」
「ああ。問題ないならさっさとやるぞ」
こいつ……強いな。Sランクか?
この時点での鑑定は無粋だろう。鑑定は、勝ったあとでいい。
「よし、どっからでもこい!少々周りがうるさいが」
10メートルほど離れて、試合が始まった。
体を落とす。力を抜いて、下に落下。
その勢いを踵で前に押し出す。
10メートル?ほら……こんなに近い……
「ふッ!!」
「ムッ!」
躱された。
(知ってたよ……そう動く事は)
追撃、追撃。
いくら誘導しても、最後の一撃が決まらない。
そう言えば体術は初体験だったな。
身体強化なし、魔法なしでは彼相手では決め手にかける。
巨体に見合わぬ俊敏な動きで回避、防御され、距離をとられる。
「使わないのかい?刀。それに、身体強化や魔法も。。使えない訳じゃないんだろ?」
「言っただろう。"試合"だと。試し合いをしてるんだよ」
「そうか……ならッ!試してみろッ!!!」
速い。身体強化。
瞬時に魔力が全身余すことなく行き渡り、それでいて練度も高い。
(まぁ、できるんだけど……)
おれは身体強化無し。
毎秒毎秒ゆうに2桁の拳と蹴りが飛んでくる。
それを身体強化なしで守る。
昨日までの殺し合いでは無い。これは試し合い。命が保証されている。
1日に何度か死んでいいとはいえ、許される最後の死を目前にした事も数えきれない。
そして今この瞬間も。
(……よく見て……)
拳を。
そして、その内に秘められた力の流れを。
チョット流れを弄れば、その力は俺へと辿り着かない。
良いね。十分だ。
じゃあ使おうか。
(身体強化)
「おッ……おおっ……」
「攻守交替な」
武術?体術?
やったことは無いけど……効率的に体を動かす事なら、慣れてる。
全ての攻撃を、紙一重で交わされる。
効率的に捌かれているのだろうか。
最小限の動きで回避できる程度には見切られているのだろうか。
余裕の顔で……その実、一欠片の余裕さえ失われたのか。
何も読めない。
屈んでかわし、跳んで躱す。
何時しか後ろへと跳び退るようになる。
追って打つ。
上下方向の無駄な動きを無くした滑るような歩行で。
膝の力を抜いて、前へ倒れる力を利用して進む。
脚を払う。手で地面軽ゥ〜く押して起き上がる……どんな筋肉だ。何故か上半身裸だからよく見える。……こんなのか。
「参ったッ!」
"3"を創り、人差し指と薬指で両の眼球を狙った右手を、寸前で止める。
「……合格だ」
「だろうな」




