29 ゲシュタルト崩壊(関係ない)
……体が重い。
ふわふわと……
ゆらゆらと……
息を、してない…………?
大変だ……
ここは…………?
ああ……そうだ。
たしか
池に……
(やっば!?)
意識を取り戻し、進化によってもたらされた変化を調べる間もなく、とりあえずは湖底を蹴って浮上する。
ヘドロは無く、しっかりとした大地の感触とともに、体が押し出される。
「ぷはぁっ……あ゛あ゛……何回死んだ?」
【2回です】
「えっと……?」
【夜通し続いた先程の戦いで、日付が変わってから死んだ数が1。よって本日のスケープゴートは使い果たしました】
えー。こんなしょうもない理由で?
進化ぁぁぁ!なんてことを。
スケープゴートの熟練度上がっててよかった。
(そーいや、進化の時に煙が出るのってなんな理由あんの?)
【蛹の役割的なものですかね】
(と言うと?)
【進化は安全が確保された時に行われるので自己防衛のためではありません。が、進化途中のぐちゃぐちゃなキショイ肉塊を隠すために霧を出しています吐き気を催すような名状し難い物体がモゾモゾ動いている訳ですから】
「……おぅ」
深呼吸して息を整える。今日は、もう死ねない。
(どっかに篭って……いや、森を出て見晴らしのいい場所に……)
【因みに、水中にいたので先程は煙が出ていません】
(……おっす)
【誰も通らなくて良かったですね】
"よかったねー"でもきもちわるかったねー"ぐじゅぐじゅー"きもちわるいー"
なにか声が聞こえるが、無視だ無視。
とりあえずステータスは確認するか。
"きこえてるー"むししてるー"
「ステータス」
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レイジ
龍魔人
Lv.1
HP20558/20558
MP???/???
skills
=normal:[痛覚耐性][魔法耐性][状態異常耐性][瞬足][気配察知][危機察知][壁面歩行][隠形][頑強][刀術]
=rare:[鑑定][収納][真眼][転移][感覚強化][部分龍化][魔眼]
=legend:[世界の声][スケープゴート]
魔法適性:無
称号:転生者 魔素の王 機動要塞 攻略者 召喚士 常在戦場
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いろいろ増えた。気配を消す[隠形]、肉体の耐久力を高める[頑強]、刀を操る[刀術]。
レアスキルだと、反射能力や五感を底上げする[感覚強化]、新しく増えたのが手や足など、体を部分的に龍化すると思われる[部分龍化]と、何らかの特殊能力を行使できると思われる[魔眼]。
……ん?
記憶違いでなければ、ネームドモンスターという称号があったはずだが。
スキルや称号は、獲得順に羅列されるはず。
称号が、消える……?
おれの知る限りその様な事例は……いや、ある。ひとつだけ。
称号とは、その者の人となり、性質、強さ、技能、大衆からの評価等を表す記号である。
その者の今を、過去を、そして未来への期待を表し。
変化することもあるが、消えることは無い。
"剣士"は"剣豪"へ。
"剣豪"は"剣聖"へ。
"剣聖"は"剣神"へ。
剣の腕を磨けば称号も昇華され、補正も大きく。
"英雄"は"堕ちた英雄"へ。
"賢王"は"愚王"へ。
性質が変われば称号も変わる。
消えること無く、変化にとどまる。
たった一つの例外を覗いて。
それは、種族の変化によって起こる。
死して不死者に堕ちた時。
蝶の蛹が羽化した時。
単頭竜が多頭竜に進化した時。
大きな外見的変化を伴って、新しい体に適さない称号が抜け落ちる。
では、ネームドモンスターという称号に適さない身体とは……?
モンスター。狭義では、魔素によって強化された野生の獣。広義では異形、つまり人間以外の存在を表す。
ちゃぷ……
そう言えば、今は湖に居るんだった。
波を立たせないよう、体の動きを止めて水面を覗く。
そこに、見慣れたトカゲの顔はなく……
黒目、黒髪。肌色……?
「人間じゃん」
ん……?
「あいうえお」
やっぱりそうだ。
「隣の柿はよく客食う柿だ」
おお。
「公用語……人間の言葉だ」
容姿も言語も人間ならもう人間として通用するのではないか。街へ繰り出しても問題ないだろう。
「ねぇ」
【はい】
「色々すっ飛ばしてない?」
【今更ですね。そもそも地を這うトカゲ時代から色々すっ飛ばしていたあなたが】
「地を這う…………や、でも今回のは流石にねぇ……だって他の候補にエンシェントハイリザードマンエンペラーみたいなやつもあったし」
【いいですか。進化とは、肉体を力に見合った器に変化させるコマンドです。そして、魔力もまた、間違いなく一種の力。無尽蔵の魔力を有するあなたがちまちま進化なんてしていられますか】
「だったらなんでハイリザードマンなんて経由したんだ……」
【流石に限度ってものがありますので。産まれたてのスライムが無限の体力を得たところで、神にはなれません。ものには最低限守るべき順序というものがあります】
「へぇ……やっぱり"神"って……種族として存在するんだ?」
【おっと……あ、それはそうと早急に服を着ることを推奨します。和服が似合うと思いますよ】
「お、そうだな……ところで、神って──」
【ほら早く。変質者の称号が着きますよ】
「今着たら濡れるよな?」
【大丈夫です】
「何故断言た……で、神──」
【称号:全裸の変質者 を取得しました】
「嘘つけ!!え、なになに、言ったら不味いことなの?言ったらまずいことなのかなー?くふふ」
【(・д・)チッ……なんですか、あなた】
「なんだ今の顔文字!?声!!お前世界の"声"だろ?え?顔文字って、え?」
【(激´д`怒)アタマかちわったろか╬(激´д`怒)】
「表情が激怒じゃない!?なんで声で顔文字が伝わるの!?おかしいよ、この世界!」
【(´˘д˘`)クソネミスヤスヤマル】
「寝るな!ったく、何年も声聞いてて初めてだぞこんな……」
【熟練度上がったので】
「あ、そうなんだ。理解理解。ところで、かm──」
【【怒り爆発★】# ゜Д゜)・;’. ゴルァ!!!】
「おい!それどっかで見たことある!Sim〇jiか?世界の声ちゃーん!いや、しめ子ちゃんか?」
【ええそうですよ!あるよ!もういいよ。こっちから言ってやるよ!あるよ!神!種族だよ!ばーか!あと、お前がSim〇ji使ってたからこんな顔文字出てくんだよ!記憶にある映像を表示できるの!】
「いまその事言わなかったよ!?スルーしてあげる流れ作ったのになんで!?」
なんで逆ギレするんですかねぇ……ちなみに、世界の声はオンオフがきかない。
怒りが静まるまでずっとこのままか。
(あぁん……?)
誰か、居るな。
気配を消すのが上手い。
が、完璧ではない。後ろに木の影だろう。
「見ての通り水浴び中だが……なにか用か?」
【何か用か?キリッ】
驚く気配。自分の隠密性にかなり自信を持っていたのだろう。
「5秒待つ。出てこい……さもなくば、敵として……」
【3分間待ってやる…ばるす】
「あなたねぇ!!」
「ぇ?なに?なんで怒られてんの?」
「その湖、精霊の住処じゃない!何水浴びなんかしてんのよ!」
「ぇ。ダメなの?」
「不敬よ!不敬!」
出てきたのはエルフの女だった。すっごい美人だ。鎧姿なので体型は分からない……無念。
あ、いや、分かる……のか?魔力を見れば……
「くっ……無念」
【去勢しろエロガキ】
なんと鎧にも魔力が流れていた。
「?」
「いや、そんなこと言っても、多分みんな水浴びとかしてると思うよ」
「皆がしてたらしていいの?そんなわけないでしょ!そもそも!この森はいま立ち入り禁止なはずだけど……?あなたは冒険者かしら?盗賊かしら?」
「おれが盗賊に見えるか!?」
「立つなバカ!ナニ見せようとしてんのよ!」
「何って……ナニ?や、見せようとしてへんわ!」
【はい嘘ついたー】
さっきからノイズが……。
よし、無視しよう。
「とにかく服を着て、お縄について。話を聞かせてもらうのはそのあとね」
「お縄に……は、つかないけど、そもそも精霊?の、住処なのか?ココ」
「そ、う、よ!!!!あなたには見えないでしょうけど!……ぁれ?」
「精霊……かぁ。え、それってもしかしてカラフルなふよふよ浮かんでるやつか?」
「……ぇぇー。ないわぁー。見えてる?なんで!?」
「さぁ?」
"そうだよー"からふる?"からふぉー"ずっとむししてた"なんで?なんで?"えるふだー"きょうはおもしろいものみたんだよー"いっていい?いっていい?"りざーどまんが"にんげんに!"びっくり!びっくり!"まりょくおいしそう"いいにおい"たべていい?たべていい?"
「はい。ちょっと黙る」
"だまる?"だまるーー!"わかったー"いいよー"
服を着よう。だいぶ昔に手に入れたレアっぽい布があったはず。
「とりあえず、服を着るので。向こう向いてもいいぞ」
「いいぞって何!?」
「見たいんだったら見てもいいけど」
「見たくないわよ!」
うむうむ。なかなかからかいがいがある。……って、これじゃただのセクハラじゃないか。
しかし、登場のインパクトのせいか例の上から目線口調出なかったなぁ……
2年くらい喋ってないので口調を忘れただけかもしれないが。
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NO NAME
服。形状を選択してください。①和服②洋服③漢服④民族衣装(アケイ族、ハツル族、ケアン族、マサイ族……)
性別を選択してください 男/女
[自動修復][快適気温][形状変化(小)][認識阻害]
[使用者固定]
使用者:レイジ
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(和服、男で)
…………
(あの。和服、男でおねがいします)
【自分ですればいいんじゃないでしょうかねぇ】
(あ、はい。すんませんした)
自分でするって言っても……
布に話しかける感じで、①和服、性別男、と念じる。
ぺかーと光って、畳まれた状態の和服と……なんだこれ。
トランクス?下着も出てくるのか。
和服に着いてくる下着はトランクスなのか。
こっちにも[自動修復][快適気温][形状変化(小)][認識阻害][使用者固定]がついている。
【[自動修復]には自動洗浄効果も含まれていますので、洗う必要はありません】
(あり、機嫌直ったのか)
【野生の原始人であるあなたには服を洗う習慣が無いかと思いまして】
ぜんっぜん直ってなかったわ。
「もう着た?」
律儀に背を向けていたエルフお姉さんの問にまだ、と答えて、
(転移)
「……あのー。もう着たよね?振り向くよ?これ出来てなかったら性犯罪者として拘束するから」
……
「はい。もういいよねー……って、あれ?」
"きえたー"ふしぎー"てんいー"
「……つぎ会ったらどうしてくれようかしら」
こめかみをピクピクさせて、冒険者ギルドから調査依頼を受けてやってきたSランク冒険者は呟いた。
「……それにしても、最初から気配が感じ難かったし…消えた時もそう。この私に全く気付かせないなんて……」
その姿を、気配を消して木の影に隠れた黒目黒髪、和服姿の男がじっと見ていた。
(よーしよし。このまま君の街まで案内してくれい)
【死ねよ、ストーカー】
(めんどくせぇなお前な)
何もびくびくすることは無い。命がひとつしかないなんて、本来は当たり前。
とはいえ、今日は、いつもより少し慎重に。
剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣
剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣
剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣
剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣
剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣
剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣
剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣
剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣
剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣
剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣
クフフフフフフッ……どうだ、ゲシュタルト崩壊してきただろう……?




