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進化論~レベル式進化説  作者: ツタンカーメン
2章 りざーどまん
26/65

26 騎士達

「案内ありがとう、タリア」


胸まで伸びる真っ白なひでを撫でながら、禿頭の老人が言った。


「はい。村長」


彼はタリアからおれについて聞いたようだ。

タリアを助けたこと、そして村を救ったことに対する礼の言葉を簡潔に、それでいて深い感謝の念が存分に伝わる様に言うという達人芸には驚きしかない。

村長の娘が運んできた菓子を頬張る。美味い。リザードマンと人間という種の違いがあるにもかかわらず、味覚の違いを意識して作られたその菓子はほんのり甘くて爽やかな味だった。


…はて。好みの味を伝えた覚えはないが。

驚きを見越したように、村長が言った。


「タリアが言ったのです。何を出せば良いか。あれはおっちょこちょいですがよく見てる子でして…昨日今日のあなたと過ごす間にどんなものが好きか聞いたとか」


好きなものを言った覚えはないが、「塩が欲しいな」「パムの実だ。甘くて美味いぞ」「ふかふかの寝床が恋しい」とか色々言った覚えはある。


《そうか》


「空き家になっていた家をさしあげます。貴方さえ良ければ、ずっとこの村に居て下さっても良いのですが」

《折角だが、それは遠慮する……やらねばならんこともあるのでな》


レベル上げと進化。

それは残念、と言った村長は菓子を片手にニコニコ窓の外を見ている。


「この景色があるのも、貴方様のおかげです」


「あ、使徒様!」


なんだなんだ。村人がわらわらよってくる。


―うちの畑の野菜、採れたてで新鮮だぜ。もってってくれ

―あのあの、ありがとうございました!

―こら!お前達はまったく…口の利き方を…

―ドワーフの火酒だ。使徒様、いけるクチかい?


なんだなんだ。この人間達は妙に俺に対して友好的だな。

悪意は感じない。渡されたものにも、毒は入っていない。


(…ま、いいか)


本当は今すぐ、寝たいのだが。


【スキル:[睡眠耐性]を取得しました】

【スキル:[睡眠耐性]はスキル:[状態異常耐性]に格納されます】


眠気が引いた。もう少しだけ、このバカ騒ぎに付き合ってやるか。

この輪の中に居れば、不思議と自分が人間に戻ったかのように錯覚する。

求めたものとは程遠いとはいえ、心地良い勘違い。


「使徒様。使徒様に、あー、お使い頂く、空き家の掃除が…終わりまして、ございます?」

《無理に…というか、そもそも敬語を使う必要はない》

「しかし……」

《勝手に使う分には気にしないが、おれは貴族ではない。そもそも人間でもないのでな。敬語を強制するつもりは無い》


お前の敬語は矯正して欲しいが、という言葉を飲み込んで案内を頼む。

おれの仮住まいは、そこそこ立派な家だった。この村では村長宅が群を抜いてるが、一人暮らしならこのくらいが丁度いい、と思えるサイズだ。


……1人なら。


「使徒様の世話係に任命されましたタリアです」

《チェンジで》


スっとドアを閉めた。

ガっっと足を挟まれた。


《千切れるぞ。抜け》

「怖い!?千切れるって!チギレルッテナニ!?というか千切れるの?千切ることが可能なの?」

《可能だ。退けろ。マジで千切るぞ》

「あ、口調が…素のほうですか?」

《そうだな》

「嬉しいです…それって心を許してくれってるって事ですかイタタタタタ!!」

《そうなるな。3秒以内に足を退けるか足先7センチを失うか選べ》

「退きます!退きますので緩めて!?ミシミシいってる!」

《おう。抜いたら帰れ。そもそも世話係とかいらんし。プラスになるならまだしもお前マイナスだろ》


幸先の悪いスタートの仕方で、村での滞在は始まった。


この時、礼を断って森に戻ればよかったかもしれないと、今ならそう思う。

何故なら。


………



……




「なっ……何故魔物が村の中に?」

「おのれ、魔物め…ここの村人は、魔物に囚われていたということか…気づけなくてすまない。だが、もうだいじょぉォーーーぶっ!!…………私が来たからには、な……」

「団長!毎度のことながら口上が長いです」

《なんのつもりか分からんんが、その程度の人数で挑む気か?俺を倒したければ…そうだな、その347.1875倍は連れてこい》


一応警告。煽りではない。が、何故かこんな口調になってしまう。

コミュ障だからだろう。まあかなり長い間ダンジョンに篭もってたからねー。

すると、メガネの男が言った。


「17の347.1875倍……か」


計算中だろうか。2桁×7桁を暗算するとは、この世界ではかなりトップクラスの知能を持っているようだ。


「「「「………ッ!ッ…………!!」」」」


…………………

……………

…………

遅いな。


「5902.1875人、ですか…大きく出ましたね。仮にこの騎士達と同等の強さを持つもの5902.1875人で挑んだ場合……勝率99.98%。」

《いや、お主を除いた16人の347.1875倍で5555人、だな。……その場合、勝率99.98%。キリッ!》

「魔物ごとこきが調子に…………団長。攻撃許可を…………ん?喋った?」

「はァァァ?ちょっと、どうすんのよ。喋る魔物なんてヤバいじゃない。相当強いわ。きっと……そう思って見てみると強そうな雰囲気……」(コソコソ)

「おおお、落ち着いてください、団長!あれは念話です!」(ヒソヒソ)


どうやらさっきの『……ッ!』で計算していたのはインテリ眼鏡だけで、その他は驚きで声が出なかったらしい。

しかし、村人はたいして驚いていなかったのだが。


「ねえ、どうすればいいの?ヤバそうじゃん」

「だ、団長。喋るとはいえ所詮リザードマン…Dランクならいかに強い変異種でもA程度でしょう」

「そ、そうだな。愚かなことを聞いた。忘れろ。………さて、魔物よ。村人を解放しろ。さもなくば……」

《来ないならこっちから行くぞ》


なんさかめんどくさそうなので、気絶させて村長宅にでも放り込もう。説明が終わったあとに謝罪は聞こう。


「ダメだぁぁ!!こちらから行く!せやぁぁぁ!!」

「ちょ!?団長!話し合……はぁ。またいつもの…………はァァァ!?」


―ちょ、え、団長負けた!?

―……瞬殺。

―だから言ったのに。やめた方がいいって(言ってない)

―算出される勝利確率……0.0088%!!


(マジックハンド)


驚きとは隙だ。おそらく盗賊より強かったであろう騎士達は、その武勇を発揮することも無く崩れ落ちた。






「お、使徒様!そいつらは……あれ、さっき村に来た騎士様方じゃねぇですか。盗賊の一味でしたか、退治してくださり……」

《いや、おそらく正規の騎士だが、襲われたのでな。返り討ちにした》

「なんだとぉぉぉぉぉぉっ!!!???」


(ひぃ、なにこいつ怖い)


もはや狂信。


「…しッ!!!使徒様をッ!!をそ、おそ、おそ……」

《落ち着け。見ての通り傷ひとつない故許してやれ。どうやら村が魔物に占領されていると思ったらしい。つまりはお前達を助けんとしたのだ》

「申し訳ねぇです。取り乱しちまって……しかし、使徒様に暴行を働くなど、未遂といえど許しがたし…ブツブツ……」


その後、何故か瞬間的に村の隅々まで噂が広まり、村民達がおれの見舞いという名目で仕事をサボり始めた。

広間から酒盛りを始め、何故か途中から騎士達も合流し。


「大丈夫でしたか?」

《気にするな。見ての通り傷一つない。そもそも、万に一つもかすり傷さえ負うような相手では………ん?》


物凄い視線を感じて振り返った。無表情、暗い目でこちらをじっと見つめる男。

あ。鎧脱いでたのね。理解理解。


「………仮に。そう、このわたしが仮に遥か格下と見られていても、襲いかかったことは事実……」

《問題ないと言っておるだろう……チワワにじゃれつかれたようなものだ》


友好的にコミュニケーションをとりたいと思っていた時代もありました。

コミュ障が対人会話で創造する『人格』―ござる口調であったり中二病キャラであったり。

おれの場合は、相手を見下すことに特化しているようだ。

実際かなり見下しているから問題ない。


「ちわわ…とは?」

《犬の品種のひとつでな。小さくてモフモフで可愛い》

「ッ……では、一応謝ったということで…」


一応ってなんだ。一応って。


少し遠くで、うおらぁーーという叫び声とガシャーンという破壊音が響き渡った。


「騎士が暴れてるぞ!」

「助けてください!使徒様!」

「おらぁ!誰がチワワじゃぁーー」


暴れてんなー。まあそのうち静まるだろう。


「手がつけられん!使徒様に退治して頂くほか……」

「あーあー、大丈夫ですよー!!チワワが暴れてるだけなんでーー!!別になんてことないだろうがおらぁ!!」

「ちわわってなんだよ!」

「気をつけろ!やはり盗賊の一味かもしれん」

「団長!落ち着いて!取り押さえよう!」

「今の一撃で納屋が倒壊する確率……3.2%」

「ずっと思ってたけど適当な数値並べんのやめなよーー」



しょーもない日常。傍から見ていてなんの面白味もない時間経過。

やかましい。

だが心地よい騒音だ。

人がいる。

それだけで少し、安心できる。

だからこそ危険。

だからこそ不要。


"守るものがある"とは即ち巨大な弱点を持つという事だから。

護るべきもの(たいせつなもの)の分まで被弾し、護るべきもの(たいせつなひと)の分まで危険を犯す。


そして、死ぬ。


アレンの父が、彼を庇って死んだように。


逃げる方法は。

全てを守る力を持つか、守護対象が自衛能力を持つか。


そして、守りたいものを(愛することを)持たない(諦める)か。



(2つ目、だよなぁ)


現実的かつ幸せなのは。



だから。


自分も勝てぬ敵が現れた時、おれは迷わずこの村を捨てて逃げるだろう。

むしろ村人の足を落とし、或いは目を抉り、確実に囮として機能するよう手を加えるだろう。


善を為したいのではない。おれは、ただ悪を滅するのみ。

あと、ムカついたりイラついたりする対象を。


死ぬとわかっていて戦うことは無い。


「しとさまー」


膝によじ登った幼女。


《む。なんだ?アウラ、だったか》

「えへへーー」


すりすり。

すりすり。


「ひんやりーーー!!」


そりゃそうだろう。変温動物なんだから。不便なことに、寒いと動きも鈍くなるのよ。




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