25 始まりの村的な
「え……は!?」
呆然とこちらを見上げたのは一瞬。
すぐに走って行ってしまった。
村人を助けに行ったのだろうか。盗賊を倒せるほどの力は感じられなかったが。
「そん、な……」
おれの言葉の真偽を自分の目で確認しようとしたらしい。
村の惨状に、タリアは思わず目を見開いてへたり込んだ。
《どうする。もどるのか?あの村に》
言外に込められた行けば死ぬぞ、いう意を汲み取ったのだろう。
目を見開いて、笑おうとするような、諦めを含んだような顔で言った。
「…助け……助けて、ください…」
《魔物のおれに、人間の村の救助を?》
「お、おねがいです…お父さんとお母さんと、おばあちゃんが……」
《お前達人族は闇の眷属、不浄なる魔と蔑み、憎む……だがどうだ。今村を襲っているのは人族で、お前が縋っているのは、その魔物だ。調教もされていない、"人間の敵"だぞ》
「あ、あの…」
《面白いだろう。これほど欲にまみれた種族はないぞ。これほど傲慢で尊大な種は他にない》
《同族だろうとなんだろうと、私利私欲のために平気で食い物にする。ゴブリンでさえも、共喰いは禁忌であるぞ》
《お前やお前の両親はどうだろうな?》
「は、はやく、しないと…みんな…」
《先程言ったな。人間になりたいと。だがおれは、人間、特に人族のような身の程も限度も弁えぬ下郎に堕ちるつもりは無いぞ》
《よく見ておけ。人族の汚さを。そして、俺の前で悪を犯した愚か者の末路をな》
「!じゃあ……」
《助けてやろう。悪を見れば、狩らねば気がすまぬ性ゆえな》
《よく見ておけ。罪を犯してはならないというのは理由も要らぬ当然の規則。しかし人間は、それでもなお抑えが効かぬ。ならばどうする?簡単だ。必要なのは罰。悪行の果てに手にする快楽利益の誘惑を上回る圧倒的恐怖を誘う、究極の罰だ》
自分にこれほどの才能があっただろうか。こんな厨二病っぽい文章が次から次へと湧き出してくるなんて。
この話し方に違和感も抵抗も覚えなくなったことに若干戦きながらも、そう言った。
盗賊は20人強か。これなら、誰一人逃がすこと無く嬲れるな。
この前は殲滅を優先したので、誰一人拷問できなかった。
後悔はない拷問が趣味なわけでもないので問題ない。
今日は違う。少人数なら生け捕りにできる。そのあと殺せばいい。
ああ。ああ。想像するだけでゾクゾクする。自分は強いから何をしてもいいのだと、弱者から全てを奪う権利が自分にはあるのだと勘違いした馬鹿を嬲る。
皮を剥ぎ指を潰して目を抉り四肢の先端から切り刻もうか。
それとも宙ずりにしてウルフの群れの放り込もうか。
腹を裂いて臓腑を掻き出し自らの口に押し込もう。気を失えば水をかけて意識が戻れば拷問しよう。残念ながら回復魔法は使えない。
ああ。それから、もうひとつ。
深い絶望を与えるには、あえて希望を与えるのもいいかもしれない。
奪う側で高笑いをしていた屑を、奪われる側に叩き落とす。どんな表情が見れるだろうか。
それを見た村人はどう思うだろうか。
零時とアレン。2人の悪を憎む心が1つの意識に納まった。
ああ。もう使おうか。
未来の事は、未来の自分に任せよう。
(マジックハンド)
悪を前にしても、不思議と憎悪はない。
嫌悪はあるが、ムカデやゴキブリを殺す時のような、ただ"作業"。
もっともそれは、彼らが直接おれに害をなさなかったからだろうけど。
ああ、直ぐに殺してはダメだ。自らの罪深さを五体に刻みつけて逝かせねば。
今回はちゃんと、ギャラリーが居るのだから。
おれの"悪を憎む心"は、憎悪ではなく嫌悪によるものらしい。
これは戦闘ではない。駆除だ。効率が求めれられる"作業"だ。
魔法は解禁(結局封印してないけど)。結局今までずっとマジックハンドを使い続けてきてしまった。駆除が終わったら、今度こそ魔法無しの戦闘訓練をしよう。
「なんだァ?リザードマン??」
「チッ…めんどくせぇな」
「リザードマンって雑魚だろ?ぱっぱと殺って楽しもうぜ」
「一匹で出てくるなんてバカだろ。D級モンスターが調子乗んなよ」
《調子に乗るなよォ。ニンゲン》
どうやら襲撃は終わっていたようだ。倒れているのは男か老人ばかり。村人はどこかに集められたようだ。
盗賊の襲撃は、あたりまえのことだが標的は金目のものだけでは無い。村人は奴隷として売れるし、そもそも金だけの為では無い。女を囚え犯す。殺戮の限りを尽くし、金品のみを奪って去るような盗賊団は存在しない。
「あ……がっ」
とりあえず、捕えた盗賊は首トンで意識を奪いマジックハンドで輸送する。
1人だけ残した盗賊は、一瞬で崩れ落ちた仲間を見て、それを俺がやったと理解したようだ。
同時に、俺が殺す気なら自分は死んでいただろうということも。
《おい、貴様。仲間はどこにいる?正直に答えればお前だけは逃がしてやろう》
これは嘘。
だが、男はのるだろう。そこに一縷の希望を見て。
それを、叩き潰そう。拷問は全員引っ捕らえてからだが。
「村長の家……!1番でかい家で、捕虜をまとめてます!!!俺らはその間の見張りで……助けてくれ!!俺だってこんなことしたくなかったんだ!!」
《まるで人間相手に情を誘うような台詞だな》
「違う……!本当だ!」
《嘘をつくな》
称号:殺人鬼
「と、とにかく、喋ったんだから…」
《嘘に決まってるだろう。馬鹿かお前は》
「ふっ……ふざけんなっ!」
《地獄に落とす。楽に死ねると思うなよ》
「やめろ…やめ、ろ…!!やめr」
《やかましい》
意識が飛ぶほどの首トンを受ければ後遺症が残る可能性が高いらしいが、死にゆく彼らには関係の無いことだ。
村長宅……一番大きな家、か。
(あれのことだな)
そもそも魔力を視れば分かったことだが。いまのは希望を与えて落とす作戦の一環だ。
ドン、と大きな音を立てて門扉を吹き飛ばす。大きめの庭に村人たちが身を寄せ合うように蹲っている。
音につられ、全員がこちらを見た。
ここでいいイメージを取れれば先行きは明るい。助けたにも関わらず「魔物だ殺せ」なんて言って襲いかかって来られると、盗賊ではなくおれが村を壊滅させてしまう恐れがある。
《処刑タイムだ。盗賊共。ほら、罪の精算の時間だぞォ。よく見ておけよ?1度たりとも悪に心惹かれぬよう、こいつらの末路を焼き付けろ》
"悪いことをしてはいけません"
"自分がされて嫌なことは他人にしてはいけません"
説得力の欠けらも無い。
"悪いことをしてはいけません"
"罰を受けるから"
単純で明解だ。罰とは、"報復"であるが、"抑止力"としての働きが大きい。
身を焦がすような憎悪も絶対的な正義感もないが…苦しんで死ね。
理由は、お前らが沢山の人を泣かせるから。そしておれがお前らにムカついたら。
最後に、無価値な屑を有効利用するためだ。
(……マジックハンド)
悪を犯した。それに慣れた。人間という、社会生活を営む種の中で他と共存し得ない欲を満たした。
苦しむ理由は、それで十分。
悪行の罪を償い、人々に犯罪を思い留まらせる。
こいつらに残された最後の利用手段。
「焦炎剣」
技名を叫んだのは1人だけだったが、他にもいくつかのマジックハンドが霧散した。
結果が伴えばカッコイイ…やはり技名は叫ぶべきだな。
《ほう…その剣、魔道具か》
「念話…モンスター…黒色のリザードマン。そしてユニークか…嬉しいね。予想外の収入だ…」
《勝てるつもりか?愚かだな》
「はぁぁああああ!!!」
会話もサインもない連携で前後左右に散開しての攻撃。
(なれたもんだな)
言葉や手振りがないのでは無い。彼等にそんなものは必要ない。
言葉を発し、身振り手振りでの指図はむしろタイムロス。
それほどまでに熟練した連携だった。
(盗賊の強さおかしくない?)
手では無く、無数の鞭の形のマジックハンドで盗賊共を絡めとる。
最後まで粘っていた4人は抵抗が激しいので簀巻き、残りは気を失っている為、頬をペちペちして意識を呼び戻す。
マジックハンドで22の十字を建てて22の盗賊を磔る。
おろしやがれ、だとか、殺すぞてめぇ、だとか騒ぐ活きのいい者もいれば、許して助けてごめんねママなんて呟く馬鹿も居る。
一人目の腹を裂いた。盗賊が持っていた焦炎剣―魔力を流すと刀身が炎を纏うマジックアイテム―を使って、出力を調整することで切断面だけを軽く焼き、少ないダメージにとどめることに成功する。
胃腸を裂いて内容物を掻き出し、粗いやすりの様に作ったマジックハンドで全身の皮を剥ぐ。爪を剥がし指を潰して、叫び声が煩いので喉を焼いた。眼をくり抜いて耳鼻を削いだ頃には既に息絶えていた。
《脆いな…もっと丁寧にしないと…》
5人目だったか、6人目だったかの男が言った。
何故こんなひどいことをするんだ、と。
《世界の為だ。君の為だ。そして、自分の為だ》
救いの手は差し伸べよう。君も世界の一員なのだから。
罪の浄化という救いの手を。
地球でもまことしやかに囁かれていたが、どうやら輪廻転生の考えは信憑性が高い。
罪の重さに応じて転生種族が変わるという話もあるし、少しでも償って行けば良い。
盗賊達はこれ以上罪を重ねずに死ねる。おれは胸のムカつきがとれる。これから先こいつらが襲うはずだった人々は助かる。さらに言えば、これを見た人の犯罪率が低下する(恐らく)。
ウィン・ウィンどころかウィン・ウィン・ウィン・ウィンだ。
こいつらの家族?盗賊になった理由?
知らないなぁ。
巫山戯るな。殺すなら一思いにやってくれ。と喚き散らす。自分には妻と娘が、なんて言うヤツもいた。
《悪が消えて世界は明るくなる。きみたちは悪行を悔いて死ねる。ウィンウィンだろ?》
《俺の故郷では前世の悪行を精算するため地獄で永劫の拷問を受けるという考えがあるんだ。他にも、悪人はミジンコとかに生まれ変わって、善人は再び人として生を受ける、とかな。最終的に悪いことしちゃダメよ、ということに行き着くんだろうが…》
「やめろ……!やめろ、化け物がァ!!!」
グチュ、ブシャァ。
《それは、悪いことをすると罰があるから、という事だ。ようは人間は罰がなければ好き勝手するってこと。……で、好き勝手したお前には罰が待ってる。それを今、ちょこっと減らしていかないか?って事だ。地獄の沙汰も金次第ってのは嘘だからなぁ》
「なに、いって……魔物、が……」
見ろ。この表情を。これが先程まで理不尽を奮った盗賊と同じモノだろうか。
現世で拷問を受けたことで罰が減るかなんて知らない。地獄があるかも分からないし。
ただ、俺がスッキリする事と観客の犯罪率の低下は約束されるだろう。
意識を繋ぎ止めるための会話だし、中身が伴っていなくても構わない。
某アニメでは1000から7ずつ引かせてたっけか。
もう完結したのだろうか、あるいは超意外な『え、コイツとコイツってこういう関係だったの!?』的な驚きが用意されているかもしれない。
続き気になるなぁ……地球に返してくれないかなぁ……
▽
「あ…あの~リザードマン様…」
《む。なんだ?》
「みんなが怯えているので殺気を抑えていただけないでしょうか…」
《ああ。すまんな。ではおれは帰る。あとは自分達でなんとかせよ》
「え……ちょっと、待ってください!!お礼が」
《いらん》
「砂糖をふんだんに使ったデザートとか」
《……ほう》
「様々な調味料を使った料理もお出しします」
《……続けろ》
「ふかふかのベッドとか……」
《そうか》
「すこし、待っていただけますか?」
《ああ……しかし、村民の中にはおれを怖がったり疎ましく思うものもいるだろう。礼を受け取ったら直ぐに―》
「それなら、大丈夫です!」
そういえば先程からおお…使徒様、とか龍神様の…という呟きが聞こえる。
「この村は、かつて1頭の龍に保護された人間が興したものです。栄えたり寂れたりを繰り返して、今はこんな小さな村ですが。かつては1つの国を名乗った時代もあったとか…そういう事で、その龍を龍神様とお呼びして信仰しているわけですが、リザードマンはよく竜や龍の眷属として物語に出てくるので……」
《そうか。そういうことなら、しばらくの間世話になるとしよう》
ここの村人は結構グロ耐性高いな、と考えつつタリアの後に続いて村長宅に入った。
頭を下げておれを崇める村人は、ドアが閉まりきるまで解散しようとしなかった。
「あと、口調変わってませんでした?」
《あれが素だ》




