21 第1村人系少女
(んーー、ダメだな。フォレストウルフとハニーベアーの縄張りの中っぽいし)
ここ数日、住処になりそうな場所を探してさまよっている。
サバイバルは素人だからかもしれないが、なかなか見つからない。理想が高すぎるのだろうか。
そもそも"敵性種の居ない場所"というフィルターをかけた時点で森の大半がアウトになる。
音もなく下りてくる巨大グモやキーキーうるさいコウモリなど多種多様な魔物がいる森で無防備に眠る訳にもいかないし、倒しても倒しても湧いてくる魔物を全て駆除する訳にもいかない。
迷宮を出て3日。
3徹で限界が来た。今日は寝ないと。
おれの[状態以上耐性]は毒、麻痺、疫病等の融合スキルだが、睡眠耐性は獲得していないので睡魔への耐性には補正がかかっていない。
安全であれば、快適さは二の次でいい。日も傾いてきたので、そろそろ都合よく空き家が現れたりして欲しいものだ。
(…………いっその事マジックハンドで魔物を絶滅させる……のは無理か。じゃあ辺り一帯を更地にして……いや、木を引っこ抜いて家を作るか?)
そもそも住処に出来そうな場所が少なすぎる。
穴を掘ったり木を組み合わせたりして家を作ることも出来ないことは無いだろうが、確実に何らかの魔物がやってくる。駆除する分には問題ないが、夜中に何度も起こされるのはごめんだ。
魔物は有性生殖で増殖するが、周囲の魔素から生まれることもある。
理由は不明だが、この世界にはそういうシステムがある。
科学で説明のつかないもの。魔法でさえ説明出来ない現象。
この世界では、大して珍しくもないものだ。
(………ん?)
魔力を感知した。普通の草木や土が保有する微弱なモノではなく、魔物や人間、動物が発するモノだ。
人型の生物である、ということしか分からないが、ピクリとも動かない。
瀕死か既に死亡、もしくは寝ているようだ。
(……人間。人族か?エルフではなさそうだな)
ああ。めんどくさい。
なんてめんどくさいものを見つけてしまったのだろう。
倒れていたのは、青髪の少女だった。質素ながらも可愛らしい服を着て、植物の蔓か何かで編まれた籠の横で倒れている。
大きな怪我はないが、靴を履いていない右足の裏に血が滲んでいる。
籠に入っていたと思わしき草が散らばっている。薬草や食用の野菜だ。
薬草をつみに来て道に迷ったかどうかは知らないが魔物に追われて靴を無くしたのだろう。
(………そして疲労か安堵で意識を失ったと………)
選択肢は3つ。
①無視or殺す
②起きるまでバレないように護衛
③「お嬢ちゃん迷子かい??」
①は無い。③も駄目だ。
少女に気取られぬよう注意しながら家へ帰る手助けをする。
最も今日中にはもう無理だろうがな。あたりの暗さからして既に午後7時は回っているだろうから。
さっさと起きろ、という意を込めて木の枝を投げてみる。
………無反応。
(てい。てい。)
小石を投げれば起きるだろうか。頭に当たらないように、腕や足を狙って投擲していく。
なかなか起きない。死んではいない筈なのだが。
ちら、と、傍らに落ちている石に目をやる。30センチ×20センチ×15センチくらいの石だ。
(…いやいやないない)
頭の横にめり込ませるか?と考えかけたその時。
「んん……あれ?おかーさん、まだくらいじゃない……」
(呑気な……)
寝ぼけた少女は、おやすみと言ってまた寝ようとしたが、何かに気付いて慌てて目を開けた。
「森……なんだ、夢か。フフ」
(夢か、フフ、じゃねぇよ!!ふざけんな見捨てるぞ馬鹿野郎)
「え!?夢!?…………うん。夢」
流石にイラッときたので先程の石を投げてみる。ガっ、ガっと2回跳ねて少女の太股に命中する。
「ん……?わ!!森だ!!」
飛び起きて、辺りを見渡し、大声をあげてしまった口を手で塞ぐ。
そっとあたりを見回して、魔物が来ていないか確認する。
「よかった……ど、どうしよう?帰らなきゃ…」
よしっ帰ろ、と小さく呟いて歩き出す彼女の迷いない足取りに胸を撫で下ろす。
なんだ、ちゃんと帰る方向はわかっているのか、と。
気配を消して後をつける。この近くに人里があるのかと考えると、少し楽しみになってしまう。
しかし『1人』でいる『幼』く、『非武装』の人間を魔物達が見逃すはずもなく。
ガサガサと茂みが揺れる。
「ヒッ……………ん?」
なんだ兎か、と胸を撫で下ろす。
おれはその光景を見ながら、茂みから飛び出そうとしていたファングウルフの口を固定し、喉を潰してから頭を貫いて収納した。
出来る限り血を出さず、音を立てず、声を上げさせずに殺す。
自分でもなんでこんなことをしているかわからない。
『首筋にトン』で意識を飛ばして人里まで運べばいい。
見なかったフリでもいい。それならむしろ殺した方がいいかも知れない。
ゴブリンなんかに攫われるよりはいいだろう。
『魔物』として、人間と話も通じず、出逢えば斬りかかられる存在である今の俺が人間とどう接すればいいか。出会わないのが一番だが、もし出会った時、どうすればいいか。
この人生の目標は人間に戻る事と好きに生きる事。
それもふまえて出した答えは『必要ならなんでもする』。
「おお、毒消し草だ」
とてとて歩いて唐突に薬草採取を始める少女を見て、少し不安になる。
ガサガサ…ひぃー……なんだ、兎か。
もしかしてこいつ、適当に歩いているだけなんじゃないかと。
すでに昨日一昨日の探索で遭遇した分と同じくらいの魔物を倒している。その度にうさぎと交換しているのだが、一向に気付く様子はない。
木の上から降ってきたポイズンスパイダーの代わりに兎を木から落としたが、不審に思うことも無く
「この森うさぎ多いなぁ…狩人の人が森に入っちゃダメって言ってたけど、やっぱり獲物を取られたくなかったんだろうなぁ…」
なんて呟いている。違うよー、君が見たうさぎは全部同じうさぎだよー。
「最悪村に戻れなくても、この森なら…」
(よし、次からはうさぎ以外にしよう)
ちょうど使い回したうさぎがぐったりし始めた頃だし。
そっと地面に下ろしたが、うさぎはうずくまったまま動こうとしなかった。
愛らしい両目に、どことなく絶望を含ませてこちらを見ている。
刑の執行を待つ死刑囚のような。抗いえぬ流れに身を委ねるように。
そっと目を閉じて、横たわった。
(………)
数秒。
唐突の奇行に気を取られていた間に、少女はまた新たな魔物を呼び寄せていた。
「ひっ……ハニーベアー……ど、どどどうしよう…」
仕方が無いのでマジックハンドでぶん殴る。都合のいいことに、少女はギュッと目をつぶって
「しっし!!あっち行って!」
と、手を振った。死ぬ間際にあっちいってとは豪気なりとかなんとか思いながら、木々を薙ぎ倒してぶっ飛んだハニーベアーを回収する。
「あれ……?」
顔を上げて、不思議そうに辺りを見回す。一直線に折れた木を見て、小さく呟いた。
(バレたか……?まあいいや。姿は見られてないし…)
「もしかして………私が?」
(は?いや………は?)
すごい、わたしすごい。ぼうけんしゃなろ。とはしゃぐアホの子に忍び寄るブラッドウルフを無音で討伐して、再び歩き始めた少女の後を追う。
気の所為だろうか。森の中心に向かっている気がする。
ああ、気の所為だろう。もしくは森の向こうに村があるのだろう。きっとそうだ。
もしかしたら森の中に集落を作っているのかもしれない。
「ん?あれ、ここどこだろう。迷った」
真眼が、接近してくる魔物の魔力反応を捉えた。
数は2。
ランクB。岩盤熊。
雄は雌といる時、いっそう凶暴になり、雌は子連れ若しくは妊娠中、非常に気性が荒くなる。
無音で仕留めるのは難しい。
「どうしよう…あ!!木に登ったら村が見えるかも!!」
面倒な。
本当にめんどうなものを見つけてしまった。




