16 インテリ系口調スライム
触手を止める。
三本の触手を止めるのに要したマジックハンドは1本。
普段の倍ほどの大きさの手が、指の間の触手を締め付ける。
腕の付け根は体の上。魔力が自分と繋がっている方が操作精度が高い。
この魔法の可能性は無限だ。
壁を作ることも管状にすることも、剣や槍として操る事も出来る。
メタルスライムには、武器での攻撃がほぼ効かないので、マジックハンドだけで倒すしかない。
物質の生成と操作とは、中々に強力な能力だろう。
どんな形状のものをどんな時に生成し、どの様に操るのが効率的か。
それを見極めれば、あるいは最強の能力と言えるかもしれない。
掴まれた触手を戻そうと、更に2本の触手を放ってマジックハンドに打ち付ける。
一撃でかなり削られるが、自分と繋がっている状態ならば瞬時にも幾らでも魔力を―魔力量の許す限り―補給出来る。
切り離して飛ばすには、耐久性に問題があるのだ。
1、2層は、まだ良かった。敵の攻撃力が低かったからだ。
このメタルスライムの一撃では、通常サイズのマジックスピアならば消滅するだろう。
かと言って太くし過ぎれば刺突攻撃では無く殴打攻撃になるし、中途半端な太さでは意味が無い。
消滅するのは、攻撃が当たったところ。つまり、多くの場合穂先から消滅するからだ。
常に魔力を補給し続けられる状態に置けば、供給が途切れるまでマジックハンドは削れない。
代わりに、その分の魔力が減ることになるが。
ボスは掴まれた触手を分離し、鋭く尖った棘を打ち出す。
(そういうことも出来るのか…)
物理攻撃ならばマジックバリアが有効だ。仮に魔法が混ざっていたとしても、マナバリアを同時に張れば問題ない。
ボスの射出する棘は消耗品だ。撃ち続ける訳にも行かない。
触手を振り回し、棘を飛ばして牽制しながら隙を伺っている。
数は1本。その代わり先端に棘がついている。
スピード重視で捕まらないことを第一に考えたような動き。
そもそもマジックハンドの隙を着いたとしても分厚いマジックバリアに阻まれるのだが。
こっちは2本で対抗しよう。
自在に動く鞭が2本。絡まらないように動かすのに集中力が必要だが、問題ない。
やはり数は力。数の暴力はそうそうのことでは敗れない。
マジックハンドの残機はほぼ無限。
対するスライムの体積は有限だ。
負ける要素はない。
............はずだった。
背中側のバリアを貫いて、何かが俺の体にくい込んだ。
見ると、地面に染み込まなかった棘の残骸が、寄り集まり融合し、小さなスライムになっていた。
一瞬気を取られ、次の瞬間に強引にバリアを突破した触手が身体を貫いた。
重要な器官は無事だったようで、死にはしなかった。
先程までとは段違いの威力。
(身体強化......?)
やはり使えたか。
想定内だ。
更に言えば、予定通り。
(さあ、もっと。俺を追い込んでくれ!!!)
スライムは、"捕まらない"戦略から"手数と火力でゴリ押しする"戦略に移行したようだ。
左右から3本ずつ、計6本の触手での猛攻がマジックハンドを一瞬で消滅させる。
バリアに攻撃が当たり始めたら詰みだろう。
薙ぎの合間に突きを多用し、手数を減らすことなく触手同士の接触を防いでいるようだ。
(もっと!!)
生物ってのは『ピンチで覚醒する』もんだろう!?
より深い絶望を!!
強い敵を!!
濃い危機を!!
それを乗り越えた先に、更なる理想が待っているから。
Mではない。どちらかと言うとおれはSだ。
("使う"まで待ってやったぞ.........!!!)
最強という名の、理想の形を。
我が物とする為には。
不意討ちで倒しては駄目なんだ。
罠も毒も、水責め、火攻め、吸魔結晶なんて以ての外。
タイマンはってPSを上げる以外に強くなる方法なんて無いはずだ。
レイジの触手はビッグメタルスライムの触手にことごとく弾かれ、ガンガンと魔力が減っていく。
膨大な魔力も、既にその半分以上を使ってしまった。
(弱いものをいくら集めてもダメだ.....圧倒的な"個"の前に数の暴力は通用しないって漫画で読んだ気がする)
どうすればいい、どうすればいいと悩みながら黒銀の触手をさばく。
形を変えるか?
確かに厚さ0で超音波振動する刃とか、微粒子になって空気中に広がり敵を内側から壊す、みたいな事が出来るものものならほぼ無敵と言っていいだろう。
しかし、マジックハンドで形を作るにはまず、超明確なイメージが必要。
その細部に至るまでを明確に思い浮かべなければ、ろくに形が定まらない。
おれも一時期ガンダムとかゴジラとか作ろうとしていた時期があった。
そして、ものを作るということは当然、木工細工や金細工のように、複雑な形をしたものや小さいものを作るのは難しい。
さらに言えば、作ったものを同時に維持させる必要があるため一度に作れる数は限られてくるし、そもそも多く作っても上手く操れなければ意味が無い。
どうすれば……?
ふと、脳裏に電流が走ったような感覚。
(そうだよ。そっちが強化するならこっちも強化するしかないよ。強化するって言っても物質化しか無いなら濃くするしかない。)
マジックスピアに魔力をこめる。
大きさはそのままに、密度を濃く。
(くっ......制御が、難し....)
制御しきれず、圧縮したマジックハンドがごう、と吹き荒れる。
レイジはマジックバリアで、スライムは触手を地面や木に突き刺して耐える。
(もう一回....)
今度は巨大なマジックスピアを縮めるイメージで。
3倍ほどの大きさだったものが、いつもの大きさより一回り小さくなったところで濃縮を止める。
今にも破裂しそうになるのを押さえつけ、青白く染まった槍を打ち出した。
メタルスライムはポヨンと飛び上がり、盾に変形して地面の突き刺さる。
硬化のようなスキルを持っていたのだろうか。
盾の中心から、おれの体長ほどはありそうな太さの触手を槍のように突き出して。
最大火力の一撃同士が、正面からぶつかりあった。
強烈な衝撃波に吹き飛ばされ、木に打ち付けられる。
(分体まだあったのか!?)
核無しの小さいスライムがチクチク頭を刺してくる。
吹き飛ばそうと振り上げたマジックハンドは、空を切った。
本体を倒せば分体も消えるのか。
【経験値を872獲得しました】
【Lv.10→Lv.13】
【ユニークモンスターの討伐を確認しました】
【討伐したユニークモンスター:ビッグメタルスライム種を召喚可能になりました】
【現時点での召喚は不可能です】
▽
(......)
私は今日も、侵入者を待ち続ける。
今まで1度も現れていない侵入者を。
(ああ...アレか?)
階段を降りてやってきた。つまり、アレは侵入者だ。
今すぐに襲いかかってしまいたい。
そんな衝動を抑えて、私は森へ戻った。
私はボス部屋に監禁されるタイプのボスではないし、それはつまり真のボスではないという事だが、この階層で最強たる私は階層ボスの役目を果たすべきなのだ。
何日経っただろうか。
最近はずっと、アレがスライムを捕まえて虐めているのを見ていた。
(あああああー!!ブルちゃん!グーちゃん!イーちゃん!)
虐められているスライムたち、ブルースライムのブルちゃんとグリーンスライムのグーちゃん、それにイエロースライムのイーちゃんを助けられない歯痒さに、黒銀の体躯をプルプル震わせる。
そしてついに、アレが森に入ってきた。
ポイズンスライムの不意討ちには気付けなかったようだが、その後の対処は見事なものだった。
そろそろ私の出番かな。
意識を戦闘モードに切り替える。
触手の一撃。
巨大な手に受け止められた。
(ほう.....思ったより操作性が高いようですね)
新たに生やした触手でピチピチ叩くが、中々握りが緩まない。
仕方が無いので掴まれた部分を分離する。同時に棘を射出。ダメージは与えられなかったが、それでいい。
この攻撃自体は、本命ではないのだから。
どうやら全方位にバリアを張っているようだが、厚さが違う。
前方からの攻撃が激しいからだろう。背中側のバリアが薄い。
私達スライムは、魔力で視る種族。これ程ビンビン感じる魔力も珍しいが、身体強化をかけているならその一挙手一投足、魔法の発動、軌道、威力、予測される効果範囲、全てが手に取るようにわかる。
そこを、私の作成した分体が攻撃する。
視界の外、意識の外からの不意討ちに、分かりやすく動揺した隙をついて身体強化した触手を繰り出した。
(....仕留め損なったか)
だが重傷だ。ごり押せる。
冷静に敵の操る魔力の塊を視る。
(右斜め上からの薙ぎ払い、その後ろから突き。右斜め下、後ろ....さっき飛ばした槍か。左斜め上、斜め37.5度、これは当たらない――)
(右に突き、手を削って左から、右2で左1を弾いて左3で地面を叩く。衝撃で浮いた石を右3で弾いて左2を――)
(守り一辺倒になって来た……目的は間違いなく時間稼ぎ。何か仕込んできたのか、打開策を考えているのか…)
超高速の思考と本能が危険を告げる。
魔力を過剰にこめた槍。
暴発して吹き飛ばされる。咄嗟に地面や木に触手を突き刺して爆風を受け止める。
2度目。
青白く輝く槍がこちらを向いている。
(まずい、ですね。防御は無理。受け流すか相殺して......衝撃波を受けるための盾を......)
盾状に変形し、核を守る。
(硬化×一点集中強化×全力パンチ!!!)
自身の最大火力を、最高のタイミングで撃った。
槍の穂先が掠るように。軌道の修正がかかるだろうから、予想外のズレ方でなければいけない。
予想どおりのブレではいけない。
予想どおりの回避や、予想どおりの受け流しではいけない。
必ず当たる。回避行動も受け流しもしていない。
そう思っている時に、予想外にズレるから効果があるのだ。
(ぐっ......!!!)
タイミング、威力。全て申し分なかった。
見誤ったのは、あの槍の威力。
ほぼ軌道を変えずに撃ち込まれた槍は、盾を貫通し、回避させたはずの核を巻き込んで私の体に巨大な風穴を開けた。
(見事、です...)




