11 ホブゴブリン回想シーン
▽
ソレは、ほかのダンジョンモンスターのゴブリン達がそうである様に、淡い光とともに生まれ落ちた。
「グギャ、ゲギィ」
違ったのはその体躯。
通常のゴブリンの約2倍、2メートル近い身長は、暑い筋肉に覆われていた。
手に持った槍を振ってみる。
使い方は知っていた。
己の役割も。
自分の力も。
その為の武器をこうして持っている。
さあ、侵入者を、殺しに行こう。
招かれざる客、では無い。
彼等は挑戦者。
××に至る為、試練の門をへてやってくる。
何処にいる。私の敵は。
門番たる我にその力量を示すのだ。
私は試練。
汝の価値を見極めん。
価値無きものは死するのみ。
ユニークモンスターとして創造された私は、その役割を果たすべく行動を開始した。
「お前、兜いいな、よこせ」
「やだよ。俺の」
この馬鹿どもは…。
そういう風に造られ、試練の第1段階として機能している以上、正常な在り方であると分かっているが、頭にくる。
「貴様ら」
「ヒッ....な、なんだよ」
「喜べ。貴様らに役割を与えよう。新たなる役割だ。それが私に力を与えた×××××様のご意思なれば」
私に従え。
私に与えられた力の一端。[統率]は自身より下位の種族や力で屈服させたものを軽度の隷属状態にして統率する力だ。
なればこそ、無知蒙昧たる下位種の小鬼共を統べ、真の第1試練として君臨することが×××××様のご意思なのだ。
本来の第1階層の試練とは比べ物にならない試練。そのような事を続ければ何れ高位の試練を越えしものが討伐に来るだろう。
それ迄に見い出せればよし。見いだせずとも、試練に相応しくないものを間引く事が出来る。
決して勝てないという訳では無いのだから。
私は、第1試練を受ける者にとって、必死の必死、限界の僅か上程度の存在でしか無いのだから。
この程度の試練、超えられぬものが××に到れるはずも無いのだから。
それが私達選定者の役目なのだから。
だから、この身果てるまで全身全霊で"門番"で在ろう。
全ては×××××様の御心のままに。
…………………そう思っていたのに。
(何故だ.......何故来ない!?)
1度たりとも挑戦者が来ることは無かった。
近くに人が居ない土地かと思い、入口を探したが、入口さえ見つからない。
(なんの為に.....なんの為に××はこの迷宮を.....この私を、生み出されたのか...)
そして、そいつが現れた。
巡回に出していたゴブリンの報告で、何やらダンジョンモンスター以外のものがこの階層にいるらしいことが分かった。
(挑戦者か.....?)
外部の魔物が迷宮に入ることは稀にある。餌や戦い、傷を癒す場所を求めてやってくる。
中には、本当に稀に迷宮を攻略していく者もいる。
そいつが何処から来たのかは知らないが、ソレは攻略者足りうるだろうか。
それとも、この迷宮の入口を知る手掛かりになるだろうか。
私は、配下に案内させてソレを見に行った。
ソレはトカゲだった。
ゴブリンの姿を見て壁を登る。低能なゴブリンはそれに気づかない。
ソレは、じっと見詰める私の姿を見てキュイ!?と小さく呟いた。
同時にスルスルと逃げて、壁の穴に入ってしまう。
(出てこーい)
槍で穴の中を探ると、ガキガキと硬いものを突く感触が手に伝わる。
隠れたか。
だが、ゴブリン程度に怯えるようなものは××の器では無い。
捨ておこう。一応見つけたら攻撃するよう部下達に伝えておく。
ああ、退屈だ。一体いつになれば、挑戦者が来るのだろう。
「トカゲ、いた」
またあのトカゲか。一応殺しておくか?
例の穴に槍を突き入れた。皮1枚ほど掠ったような感触がしたので、もう一度。
ガキン!!
ほう。
ガキン!ガキンガキンガキンガキン!!!!
防御されたか。
ならば、火でも入れるか?煙で燻し出すか?
ダメだ。火を起こすには時間がかかるし、何よりめんどくさい。
火魔法が使えるものがいれば…。まあ、いいか。どうせ挑戦者も来ていないのだし、暇つぶし程度にはなるかも知れない。
待ちきれない。もう待てない。早く、早く来い!!!挑戦者!!!
▽
おかしい。
新しい配下が数匹造られた。時々ある事だ。だが…数が合わない。
今は充溢の試練の時では無い。
ならば階層の魔物の数は変わらない。
寿命ではない。老いた者はいなかった。
同士討ちでもない。組手や模擬戦等はさせているが、それ以外での殺し合いはするなと厳命しておいた。
私の能力の熟練度は上がり、先程統率者の称号を得るに至った。
私の命令に逆らう配下は居ないのだ。
何が起こった?
どうせやることも無いのだ。
少し、調べに行ってやろう。
(定時の連絡が来なかったのは......この通路か)
見渡すが、何も無い。いつもと変わらぬ風景だった。
(帰るか)
そうして日は流れて行った。
ある日。
ピーッ!!ウィンウィンウィンウィンウィンウィンウィン!!!
謎の音が私の階層に響いた。
トラップの類か。音の鳴る方へ部下を走らせ、私自身も後ろについて走った。
そこで見たのは、例のトカゲだった。
天井近くでコソコソ動くヤツの居場所を伝え、攻撃せよと強めに命令を下す。
その時だった。
驚くべきことに、ヤツは剣や石をばら撒き、数体の配下を倒した。
さらに謎の水晶──"あの部屋"に生えていたものだろう──を出現させ、配下達の足を止めた。
その後、あと少しのところで取り逃し、"あの部屋"に入られてしまった。
"あの部屋"に入ってなぜ無事なのか。
数体の配下に、部屋に入るよう命令を下す。
やはりと言うべきか、配下達は驚くべき継続ダメージを受け、魂ごと消滅した。
アレは魔物の魂に働きかけるような毒だ。ヤツは何故無事でいる?
それから数週間、ヤツは"あの部屋"からから出なかった。
監視からの報告だ。
ヤツが部屋から出たらしい。
巡回の者以外の全配下を広間に集めた。ヤツはやってくる。そう私の勘が言っている。
支配者の称号を得るに至った私の力ならば、ゴブリン共を意のままに操ることが出来る。
ほうら、やってきた。
「ゲガ、、ゴガァ!!!」
ゴキュッ!
勢いよく振り向いたため、数体のゴブリンがダメージを受けた。
こいつらは馬鹿か。
ソレはまた、あの水晶を出した。
許さんぞ。ここまで来たなら、せめて試練を受けてゆけ。
どうせお前以外に、誰も居ないのだから。
数体の配下を生贄に水晶を効果範囲外まで排除する。
さあ、では。
試練を始めよう。
突撃だ。
ゴブリン達の突撃を、尖った石を地面に撒くことで足止めし、再び水晶を出す。
ダメだ。やめろ。
それを使っては、試練になり得ない。
×××××様も何故あの様なものを配置したのだろうか。
いや、×××××様ではなく××のご意思かもしれない。
あれは、本来の休憩所とはまるで違う、異質なモノだから。
水晶を投げ飛ばし、1度引くように命じる。
どうしたものか。これでは試練にならないではないか。
あの水晶。あれの前では配下のゴブリン共では、数を揃えたところで無駄だ。
ならば.........ならば。この私が、やるしかあるまい。最高の試練を。
ゴブリン共を殺し、私の命、私の力に変えて。
そして、私が試練を続行するのだ。
ヤツが走り寄ってくる。ちょうど、一体ずつ殺すのが煩わしくなり、数体一気に槍で突いた所だった。
当たりどころが悪かった(私にとって)、というか良かった(ゴブリンにとって)ようで、中々死なずにいるから槍が抜けない。
そういう風に、私達の闘いは始まった。
▽
(まさか、これ程とは………)
私は、目の前の壁に縫い止められ、息を引き取った"彼"に目をやった。
(天晴れでした…安らかに)
剣を取りに"彼"の元へ向かう。
その、瞬間。
「キュルルルルル!!!!」
「ゴッ……」
10を超える剣が、短剣が、棍棒が。
落ちてくる。私に向かって。
手で庇う。頭と胸。後ずさる。退かなければ。
ふと、胸元に違和感。
半透明の杭。ああ。すっかり忘れていた。
にしても。何故生きていた──────
──────そうか。
そうか。
そうか。
お前が.......貴方様が、そうなのですね………
私が生み出された意味。異質なまでに魔を遠ざける部屋。このトカゲ。
(はは.....××....過保護なことですね)
ドスドスと半透明の槍が私を貫いて。
嗚呼、どうか。
貴方様が××へ至らんことを
お祈..........
▽
【経験値を668獲得しました】
【Lv.4→Lv.12】
【ユニークモンスターの討伐を確認しました】
【討伐したユニークモンスター:ホブゴブリン種を召喚可能になりました】
【現時点での召喚は不可能です】
【スキル[痛覚耐性]を獲得しました】




