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Chapter-04

「御使様! 水が! 水が出ました!」

 上から揚水塔を見ていた翼人種の女性が、そう声を上げた。

 川べりの貯水池から風車の力によって揚水塔へ組み上げられた水は、木製の樋を通って、岸壁上の貯水池まで組み上げられた。

 これで本格的に畑が開墾できる!


 風車の設置は、やはり一筋縄では行かなかった。

 風車のポンプ部が浸かる貯水池を川べりに掘り、そこに揚水塔を設置するという計画だった。

 しかし、現実問題として充分な数の農耕具よりも風車一式の方が先に完成することになってしまい、溜池を掘るのを待ってからでないと、風車、というよりポンプの設計が妥当かどうか分からなかったのだ。

 ちなみに農耕具は、石材加工の魔法が使えるダークエルフが、それで鋳鉄炉を作って、ヘーゼルバーン兵から取り上げた武器防具を鋳溶かし、それを木製の鍬やシャベルの刃の部分にすることでつくった。

 エルフが鉄? と思ったが、最初は石材の件と合わせて、ダークエルフだからか、と思っていたのだが、

「何いってんですか、森の中で火も使わない、鉄も使わないなんて生活ができるはずがないでしょう!」

 その話をしたら、プリマスという農耕具制作班のリーダーに怒られてしまった。

「森での生活を舐めないでください。確かに石材に関してはダークエルフに一日の長がありますが、(ハイ)エルフが鉄や火と無縁の生活を送ってるわけではありません!」

 そう言われるとなるほど確かに説得力はある。

 肉食にしてもそうだ。

「木の実だけでは生命維持に必要なタンパク質を摂取できませんよ。狩猟生活をするエルフ種は、だいたい肉食を好みます。むしろ都市部に出て人間の農作物で生活している者の方が、肉を食べる機会は少ないと思います」

 これはかなり初期に、レアに説明されたものだった。

 むしろ彼らが肉食になれていたおかげで、俺は質素とは言えそれなりに充実した食生活を送ることができた。

 一番ありがたかったのは、塩の入手手段があったことである。

 内陸で塩を得る方法と言えば、岩塩の埋蔵地でも探すしかないと思っていたのだが、意外にも、植物から採れるのだ。

 元々この地は年中乾燥している。しかし全く降雨がないわけではない。

 雨季になるとまとまった降水があるのだが、むしろ年中乾燥しているところに水が供給されると、最初は土壌中の塩分が地表に上がってきてしまい、普通の植物は育たない。

 ……が、塩分に対して強い植物というのが存在する。地球なんかでも海藻とかあるわけだから、それほど不思議な事ではないだろう。

 この地ではまず、イビルソルトグラスという塩分を含んだ地面に適応した、地球のドラセナに似た植物が生えた。

 これが塩分を吸収し、その後、土壌の塩分が減ったところに樹木が芽を出し、育っていったのだと言う。

 で、こいつは体内に塩分を溜め込んでいるので、煮詰めて、その煮汁からさらに水分を飛ばせば塩が得られるのだ。

「いやぁ……本当に旨いなぁ……しばらくはもっと味気ない食事をすることになると思ったよ」

「ニャハハ……御使様にそう言われると照れますにゃ~」

 そう言ったのは、ペロネールズっていう、現段階での獣人族の女性のリーダー。

 あれ、植物のことならそれこそエルフ種じゃない? と思うだろう、実際、最初の頃はプリマス達ダークエルフの狩猟班がやってた。

 ところが、このイビルソルトグラスに限らず、このあたりの多年草というのは、通年吹く強い風に適応したため、地上の部分に比して根っこがかなり発達している。

 で、肝心の塩分は茎や葉よりも根っこに集中して存在しているんだが、根ごと引っこ抜くのがかなり難しいわけである。

 なもので、腕力が勝って、しかも素手で根本をほじくり返せる獣人族のほうが、このイビルソルトグラスの扱いに長けているのだ。

 肝心の狩猟も最近は獣人族の方がいろんな肉を持ってきてくれる。しかも血抜きなどの技術にはダークエルフより彼女らの方が長けていた。

「自分たちで食べる分にはあまり気にしないが、都市部で売って換金する時には必須の技術なんです」

「なるほどね」

 そんな経緯でペロネールズたちと仲良くしていたら、レア達ダークエルフが、翼人族たちとなにか影でコソコソやり始めた。別に悪いことではないらしいが、俺が獣人族と仲良くしすぎたことが内心、面白くないらしい。俺にハッキリ言ったわけではないが。

 しかし、なんで彼女ら、女性ばかりなんだ? 気にかかる。もう少しして落ち着いたら訊いてみよう。


 話を風車に戻そう。

 揚水塔の建設と、風車の取り付け自体は、最初に設計を終えていたので、すぐに終わった。

 が、最初は水が上がってこなかった。

 やはり素人設計のポンプではダメだったか、と思ったのだが、揚水塔の途中までは水を吸い上げていることを確認。

 そこで、レアと相談して、ベベルギアの歯車比を変えてみた。

 試行錯誤すること十数回目にして、ようやく目的の高さまで揚水してくれるようになった。

 ちなみに風車は日本の増山式というものを参考に作った。とは言え、本来なら釘など鉄の留め具を使うところを、ほとんど木材だけでよくつくってくれたものである。

 ポンプも本来ならクランクを通じて往復式の物がつかわれていたらしいが、金属も樹脂もなしでは、耐久性のあるクランクも往復式ポンプも無理だったからな。風車自体を大きくしてトルクを稼ぎ、タービンポンプを回すことになってしまった。いや、俺の()()()()にポンプがあれば、もっと冴えたものが作れたのかもしれないが。

 いずれ金属が使えるようになったら、このあたりは改善していこう。

「やった、やりましたよ、御使様!」

 みんながはしゃいでいるが、ベベルギアで苦労したレアが、その中でも一番喜んでいた。

「ようし、明日からはいよいよ、本格的に畑の開墾だ!」

 俺は、自分も含めて希望と意識を高めるためにそう言った。

「はい!」

 レアは、満面の笑顔でそう返事をした。


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