Chapter-44
拝啓、元の世界で多分元気に暮らしているだろうお父様とお母様
私、この程……
父親になりました。
ノルアルトの成人って16歳だから、俺なんかもう立派に成人なんだけど……まぁ、日本でも一応成人はしてたんだけどね。
にしても……、自分の子供だと思っても、いやだからこそか。
「触れるのが少しおっかなびっくりになっちまうなぁ」
「大丈夫ですよ、もう安定してきていますし」
苦笑しながら言う俺に、ストラト・アイラがやっぱり苦笑しながら言う。
いや、なんかこう、壊れ物みたいでさ。
「翼があるんだね」
「私の娘ですからね」
あ、そうそう。女の子でした。うん……おい、よく覚えてねーけど神様、そこまでしてここの男女率変えさせたくねーのかよ。
まぁ、男の住人もいるにはいるけどさ、グラッパさんは歳が歳で、それに先立たれてるとはいえ妻子持ちだし、マクダフはマクダフで、髭の生えてない女はちょっとなぁ、とか言い出す始末。
ま、別にだからってみんながみんな俺狙いってわけでもないんだけど。これはまた別の話で。
あと、それからグラッパさん、うちの孫娘には手を出さんのかオーラはやめてください。
目立たせてないだけでもう出してますから。…………あれ?
げふんげふん──閑話休題。
生まれた子の背中には人間の四肢とは別の、肩甲骨が延長したような肢があって、腕ともども羽毛に覆われている。
まぁ、羽毛と言ってもまだ羽って感じじゃなくて、ニワトリのヒヨコみたいにふわふわした感じなんだけど。
ハーフだからどんな感じになるんだと思ってたんだけど、母親の遺伝のほうが強いってことなのかな? それとも絶対的に優性遺伝子なんだろうか。日本人の色素みたいに。
「なんか……でも、こうして赤ちゃんの顔を見ると父親になったんだなぁって、実感するなぁ」
「そうですか?」
「うん、生まれる直前までは、なんか実感ないっていうかさ、どうしたらいいのかわからないところがあったんだけど、こうして顔を見たらホッとするって言うか、そんな感じ」
「男の方はそう言うものなのかもしれませんね」
ストラト・アイラは、そう言ってクスクスと笑った。
母親と違って、父親はお腹を痛めるって儀式があるわけじゃないし、どうなるのか不安だったんだけど、こうして子供の顔を見たら一気に実感が湧いてきた。
人間っていうのも、意外に本能で生きてるものなのかもしれないな。
だいたい、そうじゃなかったら種が途絶えちゃうもんね。
「ところで、お名前は考えていただけましたか?」
「あー……うん、でも、本当に俺が付けちゃっていいの?」
「はい。父親で、領主様で、神の御使様ときたら、その方に名前をつけていただくのが一番だと思います」
「うーん……でも……」
「それに、えーっと……私の夫として、も……」
う。
ストラト・アイラが、指を突っつきあわせながらもじもじしている。
こ、これはレアだ。
いや、優秀だけどたまに残念なダークエルフの方じゃなくて、稀って意味のレアな。
「よし、そ、そういうことなら」
そんなかわいいところまで見せられたら、決めざるを得ないじやないか。
とはいえまあ、この子が生まれる前から、俺ならどんな名前をつけるか、なんてのは考えていた。
フライング・アリスとか、スーパー・アリサとか……
……うんまぁ、あの会社の飛行機の名前だよね。
でもそれじゃ順番が逆だろ。ストラト、が一番最新なんだから。いや、最新と言うにはもう充分アレだったけど。
「うーん……いや」
ふ、と思いついた名前があった。
「サヤカ、って言うのはどうかな?」
「サヤカ、ですか?」
「うん、俺の世界の言葉で、爽やかな風、って意味なんだ」
実際には、漢字で書いてそう読ませる、ってことだけどな。
「それは素敵な名前じゃないですか!」
ストラト・アイラも、まるではしゃぐような声を出してくれた。
「よし、じゃあ、この子の名前はサヤカだ」
「はい!」
「素敵な名前じゃないですか」
レアもそう言ってくれた。
一応、領内の戸籍というか住民票みたいなものをつくって管理してるから、それに記入しながら、そんな話になったんだよね。
ちなみに、別にノルアルト全体がこうってわけじゃない。あくまでシモス男爵領の制度だ。
まぁ、別に嫌がる相手はいないからいいんだけど。
「ところでさぁ、レアに聞きたいことがあったんだけど」
「はい? なんでしょう?」
「有翼族と他のヒューマノイドの混血の子って、みんなあんな感じになるの?」
こういうことはレアに聞くのがいい。やっぱり長く生きてる分見聞は広い。おばあちゃんの知恵袋偉い、なんて言ったらひっぱたかれるだろうけど。
けど、
「さぁ……私も有翼族との混血の子というのは実際に聞いたことはないので……」
と、レアにも、困惑したような表情で言われてしまった。
「天翼族の場合でしたら、翼が生えても長く飛べない子がいる、というのは聞いたことがありますけど……」
「なるほどな……やっぱりレアケースってことか」
「そう言うことになりますね……私の集落の記録が残ってれば、わかったかもしれないですけど」
「いや、レアが申し訳なく思うことじゃないだろ」
ソプラントのあの伯爵が全部悪い。
そういや、ソプラントの国政、どうなってんだろうな。
そのヘーゼルバーン伯が国政全体を牛耳ってるような話を何度か聞いたけど、そんな人に任せといて大丈夫なんだろうか?
まぁ、こっちとしては仮想敵国が弱まってくれるのは有り難いことだけどな。
俺、ノルアルトの貴族だし領主だし、それ以上は責任持たんもんね。
ただ、グラッパさんみたいにソプラントを捨ててうちの領に来ようとする人が出るんじやないかと、ちょっと気にかかる。
10人単位程度なら受け入れられるけど、ケタひとつ増えると難民キャンプ状態、ってかそれそのものになるぞ。
流石にそうなると、陛下に泣きつくしかなくなるなぁ。
とりあえずそう言う事態にならないことを祈るしかないな。
さて。
スチルカメラ、いわゆる普通写真カメラの設計はほとんど不満のないものを作り上げたピーテッド。
新しもの好きの獣人族とか同じくギミック大好きのデミ・ドワーフの間で、なんか写真ブームが起きている。
で。
「ピーテッドさん、アタシにも1台頼むっス!」
「構いませんよ」
キャメリアの注文にピーテッドが苦笑したのは、そろそろだろうなって思ってたから。
というのも、マクダフが1台用意してもらってたから。
キャメリアは最初、
「写真にうつつを抜かすとか、不戦敗宣言ってことっすかね~」
とか、軽口を叩いてたんだけど、
「馬鹿者。これで仕込みの樽の状態を記録しておけば、後で問題が起きたときに対策できるだろうが」
と、マクダフに写真導入の理由を説明されて、自分も慌てて、ってなわけである。
一方で、ピーテッド自身は少し苦戦していた。そう、映画ね。
ペロネールズの協力で定速巻き上げ機構は出来たものの、いかんせん、まだフィルムがデカすぎる。
とはいえまぁ、このあたりはケミカルの基礎技術力がないと、これ以上はどうしようもないんだろうなー。
あとはペロネールズが、今、別のことに夢中になっちゃってるから、それを解決するのを待ち、ってところかね。




