Chapter-42
そろそろ田植えをしてもいいだろう、という時期になったので、田植えをすることにする。
この世界では水田を使った農法がなかったから、当然指導するのはこの俺……じゃなくて、レア。
なんでこんな事になったのかと言うと……そりゃ、俺だって手を使っての田植えなんか小学校の体験学習以来だもん!
というわけで、旧い記憶を引っ張り出しつつ、試してみながら、それを植物に関してはエキスパートであるダークエルフのレアに見てもらう、というのを繰り返してちょうどいい植え方を編み出すことになったのだ。
「自分から言いだしておいてこの有様かよ……」
「ま、まぁまぁ、そもそもナオ様の知識でなければ私達はこのような農法自体、思いつかなかったわけですし」
うう、レアのフォローもなんか虚しい。
「そ、それに、これで稲は安定して成長します。私が保証します」
レアはそう言って、少し気まずそうにしつつも胸を張った。
「それなら良いんだけどな……」
「大丈夫です、で、ですからナオ様、き、気を取り直していきましょうよー」
「おーう……」
ともあれ。
小さめの田んぼとは言え最初は試行錯誤になるだろうから、2・3日かかると思ってたんだけど。
これまた獣人族が意外に手先が器用なもんで、何人かで一斉に取り掛かったら意外にも1日で終わってしまった。
「俺の立場が……」
「な、ナオ様の知識あってのことですから、げ、元気だしていきましょうよ!」
気を取り直して。
ちょうど田植えが終わった翌日ぐらい。
ついにピーテッドがやらかしてくれました。
はい。銀塩写真カメラの完成です。
しかも……
「残念です、ナオ様の世界では1処理でフルカラー表示できてたと聞いていたのですが……」
ピーテッドはそう言って悔しそうにいうものの……出来たのはいきなりカラーフィルムですよ、おい。
ただ、1回の工程で処理することが出来なくて、3原色ごとに処理する方法、なんだけど、それですら、本来なら20世紀に入ってからの発明なんだよね。
しかも普通に「カシャッ」っとシャッターが切れるほど高感度だし。初期の写真って、撮影に何十分ってかかったかと思うんだけど。
ただ、流石に地球で一般的だった、あのサイズのフィルムに収めることはまだ無理で、フィルム自体が1枚あたり新書本くらいのサイズある。
「それでも大したものだよ。よく作れたなぁ」
「カンノコさんたちにも協力していただきました」
あ、田植えの方に来ないと思ってたら、そっちにいたのか……
「レンズとかよく作れたなぁ」
「それは私達、デミ・ドワーフとしての技巧がありますから」
ピーテッドは胸を張るようにしてそう言った。
あー、ペンデリンがつい、エンジンの自慢をしたがるのがわかった気がする。
ペンデリンにとっちゃエンジンを再現して、なおかつ改良までして見せたのが誇りだったんだけど、しばらく電気の方に注目が集まっちゃってたから。しかも電気に関してはなぜかデミ・ドワーフじゃ無くて獣人族のペロネールズが得意ときてる。
と、言ってもペンデリンとペロネールズの仲が悪いわけじゃないんだけど。
そもそも電気は、発電は今は焼玉エンジン頼みだしな。そこそこでかくて安定して回るエンジンを造れるペンデリンがいないと、ペロネールズの発明品は役に立たない。
っていうかこの2人、むしろ良いから始末に負えないんだよな……2人突き合わせておくと何しでかすかわかったもんじゃないし。
まぁ、今回のことで、要注意なのはこの2人だけじゃないってよーくわかったけど。
「これはすごいなぁ」
「すごい、すごい」
映画や写真について説明したときには、あまり興味なさそうにしていたペンデリンとペロネールズも、実際に撮影された写真を見ると、感動の声を上げた。
「あと何台か写真用カメラを製作して、その後“映画”に取り掛かりたいと思います」
「やる気なのか……」
「はい、任せてください」
俺はどっちかって言うと呆れたように声を出したんだけど、ピーテッドはそうは受け取らなかったのか、胸を張って口元で笑いながら自信ありげに言う。
「ただ、その過程でペロネールズさんの協力が必要になるかもしれません」
「アタシの?」
ペロネールズが、キョトン、として聞き返す。
「はい」
「どんな事が必要なのかわからないけど、出来ることなら良いよ」
うなずくピーテッドに、ペロネールズはニコニコ笑顔でそう答えた。
まぁ、映写機に電気が必要だしな。それに、カメラも電気で動かすつもりなのかもしれない。
「よろしくお願いします」
…………で、ペンデリンとペロネールズだけ注意してればいいってわけでもない件。
「勝負だ!」
「受けて立つっス!」
マクダフとキャメリアだよ……
キャメリアが「樹麦」で蒸留酒を仕込んでいると知って、マクダフが挑戦状を叩きつけたのだ。
まったく……キャメリアはともかくマクダフはいい歳だろうに。何をやってんだか……
ま、でも切磋琢磨してもらえることは悪いことじゃない。
「……でも、そうなると、何が出来るんだ?」
「そりゃ、酒っスよ」
キャメリアの方の酒造小屋で、俺がつぶやくと、さも当然と言ったように、キャメリアがそう答えた。
「キャメリアの方はわかってるんだよ。以前つくってもらった時に試飲したじゃないか」
「? どういうことっスか?」
「麦から出来る酒って言うと……」
蒸留酒なら、麦焼酎ってのが日本にもあった。
「エールっスね」
キャメリアが言う。日本じゃビールとも言うな。まぁ、似たようなもんだ。
「でもあれは発芽した麦を使うはずだよな?」
「あ、確かに……んん?」
そこで、キャメリアもようやく俺が言いたいことを理解してくれたようだ。
「確かに、何が出来るのか微妙っスね……」
「だろ?」
どーしても気になって、マクダフの方の酒造小屋に言って、聞いてみることにした。
すると。
ハイエルフ中心で構成されたマクダフ側のチームが、総出で、果汁を抜いた後のミルカの実を割っていた。
「そうか、肝心なことを伝えていなかったか」
おいおっさん。
「俺はこのミルカの実の果肉を使って酒を漬け込もうと考えたんだ」
「なるほど……」
ミルカなら程よく糖分も持っていそうだし、醸造酒には向いてるかもしれないな。
で、そのことをキャメリアに伝えると。
「ミルカの実っスかぁ、こりゃあ盲点だったっス」
ぺしっ、と自分のおでこを叩きながら、そう言った。
いや、果実での酒造って、キャメリアもいろいろ試していたところなんだよね。
「まっ、それで勝負ってことなら、それはそれで別にいいんスけど……」
「けど?」
「ミルカの果肉、アタシも試してみていいっスかねぇ」
「それはまぁ、良いんじゃないか?」
基本的に果汁をジュースにして飲むのが基本だからな。あれ。
「よっしゃあ……やることがいろいろ増えてきたっスよぉ、まずはこの樹麦の樽をしっかり漬け込まないと、と……」
キャメリアも意気揚々。ま、それは良いことだ。
けど、……まぁ、どうでもいいことなんだけど、ちょっとだけ気になることがひとつ。
マクダフがチームにハイエルフを中心に選んだのって、獣人族だと、どうしても多少なりとも毛深いから、雑菌が入り込むのを嫌がったんだよな。
「ちょっとしたことで酒の出来具合が変わってしまうからな。別に、差別の意図はないんだが」
それに対してキャメリアは、最初から獣人族を嫌がってない。
「別に、清潔にしてりゃ大丈夫っしょお。ここはノルアルトの石鹸もあるし」
意外な意識の差だな。そもそもマクダフの方がノルアルト出身で、キャメリアはソプラント出身なんだが。
マクダフの方は、だったらお前もヒゲ剃れよおっさん、とは思ったが。




