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Chapter-41

「“魔の森”の生態って、異常だよな」

「はい?」

 俺のつぶやきに、レアが反応した。

「いやさ、あまりにこの地に特化しすぎてるなーと思って」

 手すきになったからと言って少し考えたのだが、この森の植物はこう、()()()()()()()()()()()()()()()()()()ようにしか思えない。

 アルトロやミルカの実が大きく重いのは、強すぎる風でかえって大地に落ちることができないことを防ぐために肥大したものだ。

 まず樹木が育たない限り一年草が育つ余地が無いのはわかるが、麦まで低木になっている。まぁ変質しすぎて、粉にして使うには無理があるんだが。酒にするとえらい甘いし。

 イビルソルトグラスは、まだ説明がつく。たまたま耐塩性のある種が、ここに落ちて変質した姿だ。しかし他の樹木となると、結構な雑多な樹木があるのはなんか不自然に感じる。

「この地の状況に合わせて、進化していったんじゃないんですかね?」

「その説な、実は、俺の世界では否定されてんだよ」

「えっ、そうなんですか!?」

 レアが素っ頓狂な声を上げる。そりゃそうだ。500年位進んでる世界からの声だからな。

 例えばキリン。長らく、キリンは高い樹木の葉を食べられるように首が長くなったと言われていた。だけど高いところにあるものを食べたいのであれば木に登れるように進化した方が、都合がいい。むしろ屈むことが苦手なキリンは高木の葉を食べ尽くしてしまったら種の維持が困難になる。

 というわけで、キリンの首が長くなったのは()()()()、という説が有力になっていた。

「“魔の森”って、いつぐらいからそう呼ばれてるの?」

「さぁ……私でも、物心ついた頃にはそう呼ばれる場所があるとしか知らされていませんでしたから」

「ダークエルフでもその認識、ってことは千年単位のオーダーか……、下手すりゃ何万年かな? それなら理解出来ないでもないな」

 それだけのオーダーになれば、この地に適応できる種だけが集まって森を形成したと考えるのはそれほど不自然でもない。

 ただ、この地に落ちてからそう進化したと言うよりは、イビルソルトグラスと同じように、もともと素質として耐性をある程度持っていたものが根付いてから更に変化した、と考えるべきなんだろうな。

 意外にも動物の方はそんなによそと変わらないらしい。まぁ、森が風から守ってくれるからな。“魔の森”なんて言ってんのは、畑を作って収穫を得ないと生きていけない、いわゆるヒューマノイドだけだ。

 ま、そんなこと言ったらこの世界そのものが謎なんだけどな。

 地球と同じ惑星だとすると、公転周期も自転周期も地球とほぼ同じ、しかも地軸が程よく傾いている、ってことになる。

 まぁでも、逆にそれが“生命の誕生の必須条件”だと考えれば、説明もつく。地球に限りなく似ている()()ヒューマノイドが誕生した、ということだ。

「でも、意外ですね」

「ん?」

 レアが苦笑しながら言う。

「以前、機械の方が好きと言っていたので、こういうことには疎いのかと」

「ああ……」

 レアの言葉に、俺は苦笑する。

「実はな、こういう自然科学をテーマにした子供向けの映画が、俺の世界でやってるんだよ」

「映画ってなんですか?」

 し、しまったぁあぁぁぁっ

「ぺ、ペロネールズ、いつからそこにいた?」

「最初からいましたよ?」

 レアが、キョトンとしながら答える。マジか……

 ペロネールズ、そこで可愛らしく小首をかしげるポーズをしても誤魔化されないぞ!

「で、映画ってなんですかにゃ?」

「映画ってのは、つまりだな、見えている光景を記録できるものでな……────」

 結局、銀塩フィルムまで説明することになりました。

 が、結果から言うと、ペロネールズは映画や写真にはあまり興味を示さなかった。

 彼女が今ご執心なのはやっぱり電気。

 これで一安心────できませんでした。

「それは興味深いですね」

 と、言い出したのはピーテッド。

「銀の化合物の粒子で、光景を記録できる……これはとても興味深いです!」

「なんなら、研究してみるか? 製鉄の方はオレが見るから」

 ペンデリンさん、何を言い出すんですかね。

「いいんですか?」

「ああ、エンジンの方はしばらく新規に製造する予定がないし、整備だけだったら大した手間じゃないからな」

「それじゃあ、やってみたいと思います」

 あの、なんでトントン拍子で話が進んでますか?

 これで写真と映画の開発、開始決定。

 ということで、ペンデリンとピーテッドが機械工作班長と製鉄班長をそれぞれ入れ替わることになった。まぁ、もともと見知った相手ばかりなので、苦労はないだろうけど。

 それにしても……ホント、口に気をつけないと危ないなぁ、トホホ……



 さて。

 時期も時期なので、いよいよジャガイモ、第一期の植え付けである。

「ジャガイモって、お芋から芽が生えてくるんですのね!」

 キャロル・ロゼ殿下、芽出しをしたジャガイモを見てたいそう驚く。

 こんなことも知らなかったのか……そりゃ、マデレーヌ陛下が危ぶむわけだ。

「ジャガイモみたいな植物は、種で次代を残すことができないんです。だから、こうやって芋から芽を出すんですよ」

 一種のクローンなんだけど、まぁ、そこまでは説明してもしょうがなかろ。この世界でその辺りまで理解できるのはエルフ種だけだろうし。

「お芋を割ってしまうんですか? それで大丈夫ですの?」

 いくつかの芽を出す種芋を有効に使うために切っているのを見て、少し不思議そうに聞いてきた。

「ジャガイモって相当しぶといんですよ。だから、連作を何度も繰り返さなきゃ大丈夫です。それに、エルフ種が浄化の魔法をかけてくれますから」

 石灰も、今なら手に入らないことはないんだけど、エルフ種にとってこの手の魔法は大した手間じゃないというんで、コストカットコストカット。

 殿下にも説明したように、連作はなるべく避ける。と言っても、ジャガイモは我がシモス領マッキントッシュ村の主要農作物だから、連作にならざるを得ない面積もそれなりにある。

 連作になる畑にはタワラヨーデルを充て、この世界の白ジャガイモ『フォン・エレン』は新規開墾や去年別の農作物に使った畑を充てる。これは、タワラヨーデルは強い品種だと解ってるからだ。

「これが“神の紫ジャガイモ”ですのね、本当に紫色なんですのね」

「はい、でも、味はジャガイモですよ」

 あれっ?

 タワラヨーデルを見て今更驚くって、今まで誰も見せてなかったんだっけ。

 そんなわけで、農耕班総出でジャガイモの植え付け開始。俺も手伝うぞー。

 いくらノルアルトでも、農耕に精を出す領主は流石に俺くらいだろう。

 …………

 ……いかん。トゥートゥーン伯爵が農夫姿で作業している姿が思い浮かんでしまった。

 あの人一応貴族然とした格好してるから、そんな人が農作業してたら吹いてしまう。

 まぁ、今ここで王女殿下がその植え付けに精を出していたりするのだが。

 …………

 しばらく立って見渡してみると……

 あれ、キャロル・ロゼ殿下、川寄りの畑の傍らで立ち尽くしているな……

「お疲れになられましたか?」

 俺は声をかけてみる。まぁ、みんなそろそろ今日のノルマは終わる頃だ。

「あの風車塔……」

 キャロル・ロゼ殿下は、ポツリ、とつぶやいた。

 その視線の先を追うと、ノルアルト国旗を風下側にたなびかせる、この地独特の常に服強い風で回り続ける風車塔。

「ソプラントの連中がいい加減煩いんで、ここはノルアルトですってシンボルにしてるんですよ」

「全ては、あの風車から始まったんですのね……」

「…………ええ」

「皆が申しておりました。“魔の森”の“魔の風”が森を畑に変えたと」

「ええ、あの風車のおかげで、水に困りません」

 俺がそう言うと、キャロル・ロゼ殿下はこちらを振り返った。

「いろんな領地を見てまいりましたけど、ここはまるで領地全体が家族のようですわね」

「実際、そんな感じですよ。生きるために集まってきた者を、俺が、うーん……まとめてる、って言っていいのかな。それを、ノルアルトが拾ってくれただけです」

 俺が言うと、キャロル・ロゼ殿下はくすっと笑った。

 あれ? 意外と可愛い……?

「まだ完全には信用してもらえませんでしょうけど……私も、これからは心を入れ替えて、ここで学んでいきたいと思いますわ」

「……結構、お人好しですよ、俺は」

 キャロル・ロゼ殿下の言葉に、今度は俺の方が苦笑する。

「ただ……」

「ただ……?」

「あ、いえ、なんでもありません」

 なーんか、殿下が、ペンデリンやペロネールズやピーテッドみたいに、何かにとりつかれないかなーと、一瞬不安になってしまった。

 でもま、そのときはその時か。

「これから、よろしく」

「ええ、よろしくお願いしますわ」


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