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Chapter-37

「紙……ですか?」

「また髪の話してる(´・ω・`)」

「は?」

 俺の言葉にキョトン、とするグランマリア。

 まぁ、当然なんだよな。

 俺は日本語で会話してるつもりだけど、実際には“俺が日本語で話しているつもりで、こちらの世界の言葉で会話している”わけだから。

 こちらの世界の言葉で paper と hair が同音語というわけではないだろう。

「あ、なんでもない。それで紙なんだよ、紙」

「羊皮紙ではなく、食物繊維で作る紙のことですね」

 そう、そのもの自体はある。

 獣皮を紙状にした羊皮紙は、油を含んでいるためインクの()()が悪い。質の悪いものになると、ろくにペンで書くことすらできない。

 加えて、保管を厳格にしないと、酸化してすぐにだめになってしまう。

 利便性、保存製、そして製法があれば生産性ともに植物性の紙の方が上だ。

 実は地球では、産業革命が起きるまで、製紙は質・量ともヨーロッパよりアジアの方が上だったんだよな。特に日本。肉食が盛んではなく、狩っても羊皮紙を作るのに適した獣皮がないから、紙の普及が早かった。日本書紀とか古事記が史書として残ったのも、紙があったからなんだよな。

 ヨーロッパで書物が高級品とされていた時代に、日本じゃもう現代とほとんど同じ感覚で紙を使ってた。

 で。

 この世界でもやっぱり、まだ書簡は羊皮紙が主流だった。

 あーんまりに使い勝手が悪いんで、紙を作ることに挑戦! 和紙の紙すきを試してみた。

 と、言っても“詫びチート”のあるエンジンと違って、こっちは完全に見よう見まね。

 最初からうまくいくはずもなく、最初にできたのは緑色のせんべいみたいなもの。

 が、そこで登場、レア姐さんとカンノコ。

 エルフ種の植物知識と技能を使って、なんとか紙と呼べるものができるようになった。

 いや、立派に紙だ。利便性じゃ羊皮紙とは全然比べ物にならなかった。

 で、そこへペンデリンやペロネールズにも知恵も出させて、人力頼みとは言え、なんとか量産する技法を確立することに成功したんだけど……

「それならば、自領で量産すれば、いいではないですか」

「だよね、普通はそう思いますよね」

 グランマリアさんの発言に、俺は自分にツッコミを入れるかのように言ってしまった。

「なにか問題があるのですか?」

「俺のとこ、デミ・ドワーフが製鉄してるだろ?」

「ああ!」

 俺のこの言葉で、グランマリアさんは合点がいったらしい。

 この人、堅物ではあるけど思考に柔軟性がないわけじゃないんだよな。

「原料がないということですね」

「そう」

 植物ってのは人間が思っている以上に図太いもんで、木なんか根っこから切り倒したらともかく、枝なんかはバッサバッサ落としちゃっても意外に枯れなかったりする。

 というわけで、すでに我がシモス領の“魔の森”、製鉄のための薪を作るために、木がマッチ棒みたいになっちまった場所がかなりの面積になってたりする。

 最近じゃ鋼を売るのに、現金の他に薪の現物支給も受けている始末。

 まぁ、鋼の売上のおかげで最近は、以前と違って現金もウハウハだったりするけど。

「それで我が領にと」

「ああ」

 グランマリアさんが微笑む。

 ウチにいた頃はあまり感じなかったけど、やっぱりこの人も結構チャーミングだなー。

「農業を細々とやっているだけって聞いたし、なにか特色のある産業があったほうがいいんじゃないかと思ってね」

「男爵閣下の御配慮、いたみいります」

「そんな大仰に言わなくても」

 グランマリアさんも領地持ちになったとは言っても、准男爵。俺にとっては()がつくかつかないか程度の差にしか感じられないけど、軍人気質のグランマリアさんにとっては重要な問題だ。所謂“星がひとつでも多いほうが偉い”ってやつだ。

「それに、別に善意だけで振ったわけじゃないんだ」

「と、言いますと?」

「俺が、紙を使いたいんだよ」

「なるほど。優先的に回してほしいというわけですね」

「そう言うこと。ちゃんと、対価は払うよ」

 鋼の他に、キャメリアの酒が王都でバカウケ。

 というわけで、最近は収入にも困らなくなってきた。

「心得ました。では、我が領で製紙を大々的に致しましょう」

「頼む。技術に関しては他に人寄越すから」

 まぁ、人ってもハイエルフかダークエルフだけど。

「ありがとうございます。ご期待に添えるように致します」


 はっきり言おう。

 紙を作ったのは、少しだけ失敗だった。

 いや、紙を作った事自体は間違いだったとは思わない。

 ただ、紙の原料って、


 コンデンサの材料になるんだよな。


 はい、作っちまいました、コンデンサ、ペロネールズが。

 まだコンデンサとして実用に足るような代物じゃないんだけど、単相交流にはすごく意味がある。

 コンデンサ始動誘導電動機というのが作れるようになるわけだ。

 これは今までつくってきた整流子電動機(ユニバーサルモーター)や隈取モーターよりもずっと効率がいい。

 早速取り付けられたのが、第2風力高炉の天蓋部分。

 エンジンを設置するには重すぎ、整備にも手間がかかるってんで、今までえっちらおっちら、人力で薪と鉄鉱石を上げていた。

 それが、電動ウインチの登場で一気に省力化。

 ただ、まだモーターを一方向にしか回せないという根本的な問題は解決していない。今のところ逆転させるには歯車を組み合わせるしかないのが実情だ。

「どう? 凄いでしょ?」

 ペロネールズのドヤ顔ったらもう……

「まぁ、これだけだったら風車に直流発電機つけて直流モーターでも良かったんだけどな」

「なんですとー!?」

「それを早く言ってください! 今までの苦労はなんだったんですか!」

 ペロネールズが憤慨したような声を出し、それ以上に声を張り上げたのはピーテッドだった。

「だって、今思いついたんだもん、しょうがないじゃない」


 さて。

 いよいよ待望の春が近づきつつある。

 通年吹く乾いた風はまだ冷たいものの、もう残雪を見かけることもなくなりつつあった。

 となると、準備しなきゃならないものがある。

「なんと! 水につけた状態で稲を育成するのか!」

 こんな驚いた声を出したのは、ドワーフのマクダフ。

 そう、この世界での米の栽培は基本的に陸稲(おかぼ)。でもそれだと旨い米にならないことは、日本人の俺はよく知っている。

「ええ、その方が質のいい米ができるんです。酒造にもいい影響が出ると思いますよ」

「しかし、そんなことをしては種籾が腐ってしまうのではないか?」

「だから、先にこうやって、ある程度のところまで伸ばさせてから、植えるんです」

 浅い木箱をつくって、枯れ草とか灰ガラを詰めたところへ、種籾を撒いて、水をやる。

「に、俄には信じられんな……」

「はっは、所詮はドワーフの醸造酒作りには理解できない話っしょう」

 あ。

 どうしてこう、いいタイミングで通りかかるかな、キャメリア。

「ナオ様の叡智は神の叡智、アタシらの想像もつかない知識がその頭に詰まってるんス! それを信用できないとは所詮その程度ってことっス!」

 ズビシィ! とかマクダフを指さして挑発するキャメリア。

「ぬぬぬ、し、しかし……」

「“森にはなっても畑にはならぬ”と言われたこの地を“畑”にしたのは誰っスか? それにエンジンや電気だってどうやってもたらされたと思ってるっスか」

「おい……」

 と、これは俺。

「ぐぬぬ……」

 マクダフは悔しそうにうめき声を出してキャメリアを睨んでいる。

「この稲の栽培法もナオ様の叡智。となればそこらの米よりずっといいものができると確信するっス」

「おい」

「信用出来ないなら使わなきゃいいっス。アタシはその米で旨いデミ・ドワーフ酒をつくって見せるっスよー」

「おいキャメリア!」

「えっ、てナオ様、どうしたんスか!?」

 今更気づいたように目を(まる)くするな。

「失敗できないフラグを立てんじゃねぇ!」

「えっ、失敗するつもりなんスか!?」

 あ。

 ちくしょう、いつぞやの分、やり返された。


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