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Chapter-32

2018/11/19 19:07(JST) 一部改訂

「点火!」

 高炉の頂点から、火のついた松明が投げ込まれる。

 その火が、積み上がった鉄鉱石にあけてある中央の穴から、乾燥させた薪へと落ちる。

 強燃性の木脂を染み込ませてある松明の炎は、そこで薪に燃え移って明るい炎を出現させた。

「閉めるぞ!」

「おーっ!」

 薪や鉄鉱石を入れるのに開けられている、高炉の頂点のフタを、デミ・ドワーフと獣人族の十数人がかりで閉めていく。

 デミ・ドワーフ高炉の主煙突は頂点からではなく、中程の側面から一度下にU字を描いて、上に細く上っている。

「送風機風車、留め具外すぞー!」

「OK」

 器用に風車に登っていた獣人族が、下からの返事を待って風車の留め具を外した。風車がこのあたりの強い風を受けて、一気に回りだすと、送風用の導風室内でターボファン送風機が回り始める。

 第2風力高炉、年初の製鉄開始だ。

 まだ雪が完全に消えるわけじゃないが、降雪が激しい時期は去ったので、エルフ種にラックをつくってもらい、薪を乾燥させることができるようになった。


 その間に年が変わっている。

「明けましておめでとうございます」

「明けましておめでとうございます?」

 こちらでの元旦に、つい、そう言ってしまい、ストラト・アイラさんに思い切り不思議そうな顔をされてしまった。

「新しい年が来た、めでたい、っていう意味なんだよ。俺の故郷の挨拶なんだ」

「なるほど、それは確かにおめでとうと言うことなのかもしれませんね」

 ストラト・アイラはクスクスと笑う。

 相手がペロネールズやペンデリンじゃなくて良かったー、と思ってたら、

「明けましておめでとうございます♪」

「明けましておめでとうございます☆」

 ストラト・アイラが獣人族の誰かに漏らしたらしく、そこかしこに出没する獣人族にデミ・ドワーフが誘爆こいて見事に、妙ちきりんな挨拶として大流行。

「あ、明けましてあめでとうございます」

 と、ピーテッドに言われたときは、正直げんなりした。

「ピーテッドまで染まってんのかよ……」

「え、だって新年がめでたいって挨拶なんですよね?」

「それはそうだけど……」

「高炉の初火入れだから、相応しい挨拶だと思ったんですが……」

 あ……なるほど、考えなしに言ったわけではないのか。

「悪い悪い、悪ノリで言ってるのかと勘違いした」

「もう、別にみなさん悪意があるわけじゃありませんよ。ナオ様への親愛の情があってこそです」

「それもそうだな……俺もちょっと反応が悪かったか」

 そう言いつつ、俺はピーテッドの頭を半ば無意識になでていた。

「いいんですか、ナオ様?」

「え?」

 ピーテッドが、少しくすぐったそうにしつつも、まんざらでもなさそうな表情をしつつ、言ってくる。

「私だってその気がないわけじゃないんです、側室の第2陣となんて考えがお有りになるようでしたら、私も夜の寝室に忍びますからね?」

「ふぁっ!?」

 俺は面食らってしまった。

 流石にまだ第2陣とか考えてる場合じゃない。

「ピーテッドの夜這い自体は歓迎だけどなぁ」

「ナオ様、ナオ様、口から本音がだだ漏れてます」

 と、別のデミ・ドワーフの声で、俺は我に返った。

 ピーテッドは真っ赤になって……頼むから自分の股間の辺りを弄らないでくれ。

「班長、記録、ペンデリン機械工作班長の記録取らなきゃダメですにゃあ」

「はっ、はいっ」

 製鉄班に属している獣人族に促され、ピーテッドは壁の一箇所に小さなナイフの先端で、マークをつけていく。

 ペンデリンがいくつか試作した、風力高炉用の温度計がどこを指しているか、記録しているのだ。但し、まだ測れるかどうかの試験なので、正確な温度は出てこない。

「…………」

「ど、どうしたんですか、ナオ様……」

 俺がじーっと見つめてしまっていると、ピーテッドが顔を赤らめてそう聞いてくる。

「そうか、紙だ……」

「え?」

 とりあえず供給されるからと言う理由で、羊皮紙を使っていたが、よくよく考えたら製紙をやるべきだ……

 いや……このあたりではパルプになるような木の枝は製鉄に使っちまってるから……うーん……

「どうしたものかな……」


 ところで、ストラト・アイラさん。

 最近、明らかにお腹が出てきた。

 もともと翼人族は妊娠期間が人間より8週間ほど短い。

 いや、逆の言い方をするべきだな。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()8()()()()()()()

 これが正しい。

 人間だと十月十日って言うけど、ストラト・アイラたちだと半年ほどで生まれてくるってことか。ってことは、夏かその少し前ぐらいかな? と言っても、このシモス領マッキントッシュは日本のようにはっきりした四季があるわけじゃないけど。

 ジュピリーの話だと、妊娠期間は基本的に母胎の種族で決まるらしく、どちらかの血が濃いかがそれに影響するという話はないらしい。

 そういや、ジュピリーってソプラントの混血児だったな。

「そうなんです、だから、迷惑をかけまいと、軍に入って家を出たんです」

 あ、やっぱりそういう話になるのね。

「実際、ソプラントでは、人間以外は基本的に一段下に見られてましたから。(ハイ)エルフは例外的に、友好的な部族もあったので、私のように混血児でも軍に入るぐらいはできましたけど」

「すまん……変なこと聞いてしまって……」

 混血児事情がどんなものか知りたいと思って、迂闊に聞いてしまったかも知れん。

「いえ、大丈夫です! 今は私も、ノルアルトの騎士爵ですから!」

「お、おう!?」

 なんかミョーに前向きな反応だぞ、今までと違って。顔も明るいし。

 そういや、ボウモアたちに頼んで何度か1人で王都行ってたけど、ノルアルトの貴族社会にやられたか? 陽気なおっさんおばちゃん多いからな……


 なんて事があってから数日後。

 訪問者が来ました。

 南側から。そう、ソプラント側からの訪問者だったのだ。

 が、なぜかその訪問者は、ノルアルトの玉璽入りの書簡を持っていた。

 荷車引いた2人組の男女。ただ、年は離れている。夫婦とは考えづらい……

「ヘネシー・アルトパロマです」

「グラッパ・アルトパロマです」

 アルトパロマ……ジュピリーのお母さんと、そのお父さん、ジュピリーにとってのお祖父さんでした。

「いや、手紙が途絶えたかと思ったら、まさかノルアルトの貴族になっているとは思いもよりませんで」

 グラッパさんが意外そうな顔をする。

 いや、驚いたのはこっちだって。

「それで、我が領に来られたのはいいのですが……こちらに定住されるおつもりで?」

「ええ、ジュピリーからの手紙にはそう書かれておりましたが……」

 屋敷のホールで出迎えて、いきなりコタツ……と言うわけにも行かないので、木で作ったベンチと言うかソファで相対している。

「国王陛下の許諾がある以上、別にそれは構いませんが……」

 エルフにダークエルフにデミ・ドワーフ、いろいろとエキスパートが揃っちゃってる中で何をやってもらおうか……

「お祖父ちゃん、頼んであったもの、あるでしょ、あれ出して!」

 ジュピリーが、そう言って促した。

「ああ、解っとるよ」

 グラッパさんは、そう言って俺の前に、バックパックから、それを取り出してみせた。

「こ、これは……」

 ツルッ、として、ただの楕円よりはちょっと凹んだ感じの、指の先ほどの豆。

「大豆! 大豆じゃないですか!」

「ええ、そうです」

 大豆はほとんどそのまんまこっちにあったのか……

 と、それだけじやなかった。

「それ自体を食用にすることもありますが、それを発酵させると、わしらの採る川魚にとても合う調味料になります」

「!」

 まさか……それは……

「それは、ひょっとして、液体状だったりしませんか?」

「! よくご存知で」

「塩を基本に、漬け込んで発酵させるんですよね?」

「さすがジュピリーの手紙にあったとおりだ。なんでもご存知でらっしゃる」

 ま、間違いない……

 醤油だ……

 醤油がこの世界にあったなんて……

「おい、ご夫妻に一番上等の部屋をご用意差し上げて!」

「え、あ、は、はい」

 俺の号令に、レアが応えて、何人かがわたわたと走っていく。

「それでは、荷車の荷物というのは……」

「その調味料を造るのに必要なものが一式積んであります。麦はこちらでも手に入ると聞いたので載せてきませんでしたが……ですが、豆の一部は種として使えたらと思っていますが、どうでしょう?」

「是非もありません!」

 すげー、おいおい、ジュピリーがこんな大金星まで持ってくるとは!

 俺が陛下だったら一足飛びに伯爵格上げモノだぞ。

「さっそく、部下をつけます。作業よろしくお願いします」

 俺がなにか始めようとすれば、黙ってても参加したがる獣人族が居るから大丈夫だ。

 元々がソプラント人なのが少し気になるけど、ハーフエルフのジュピリーの親御さん達ならなんとかなるだろう!

「は、はぁ……わかりました」


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