Chapter-02
さてさて、方針が決まったところで、神様の詫び特典とやらを整理してみたのだが。
…………
一番の特典は、原動機の動作原理と構造、サンプルの設計が入った記憶、というより、脳内記録。後は原料と工具さえあれば作れる。
紫ジャガイモの種芋20kg。
それと、なぜか単気筒の焼玉エンジンのレプリカ。
…………
あのさぁ、なんでこんな思いっきり“剣と魔法の世界”で、熱機関の知識なんか役に立つと思ったんだ、俺は? そんでなんで神様も止めなかったんだ? 肝心なところの記憶が無ぇ! クーリングオフ、というかやり直しは要求できないのか?
思いっきり頭を抱えて蹲る俺に、ダークエルフのリーダー、レア、が声をかけてくる。
「御使様、これは芋、それも種芋なのではありませんか?」
「えっ?」
俺は意外そうに声を出してしまう。
「分かるのか?」
「初めて見るものではありますが、色違いでよく似た作物を知っています。それに、新芽が生えている物がありますから、直接食用にするものではないのではないかと」
なるほど。色違いってことは、この世界にもジャガイモがあるのかな?
少し思い出した。品種は確か『タワラヨーデル』。これはいい、ジャガイモ自体かなりしぶといが、タワラヨーデルはその中でも格段に強い。
「となれば、まず畑を開梱しましょう」
「うーん、そうしたいけど、農耕具がないんだよね……」
レアの提案に、俺は唸ってしまう。
「伐採した木を主材にして、最低限の鉄を使って作ればよいでしょう」
「え、でもその肝心の鉄がないじゃないか」
「ありますよ、ほら」
レアはそう言って、最初に種芋や焼玉エンジンが落ちてきた場所で倒れている、ヘーゼルバーン伯とやらの兵士を指した。
「ああ!」
俺はポン、と手を打った。
兵士は金属製、おそらく鉄の鎧を身に着けていた。それを加工して、農耕具にしようというのか。
って、これじゃ俺とレア、どっちが神の御使いなんだかわからないじゃないか。
「ただ、このあたりは乾燥しているって聞いたけど、この辺に水辺なんかあるのか?」
「一応、近くに川があることにはあります、が……」
レアが言葉を濁す。水があるのはありがたいが、その言い方はきっと何か難があるってことなんだろう。
とは言え、いくら乾燥に強いジャガイモでも、とりあえず水が無いとどうしようもない。
俺達はその川の近くまで、移動することにした。
が、その前に、まずは埋葬をした。
文字通り、突然降って湧いた数kgの落下物が頭に直撃した兵士の過半は即死状態だった。レア達ダークエルフが兵士たちから金気のものを剥ぎ取り、その後できっちり墓を掘って、1人1人埋葬してやった。
なんか、遺体から剥ぎ取った鉄とか、後々祟りそうな気もするが、まぁ、コイツラも悪党の手先だったんだし、墓石まで1人ずつきちんと建ててやったんだから、それでチャラにしてほしい。
生き残りの兵士たちも捕虜として拘束、鉄製の持ち物は取り上げた。流石に敵対心はある者がほとんどだったが、最初のアレが余程衝撃的だったのか、戦意は喪失している。特に俺にビビってくれるのは有難かった。
剣を何本か、レアと数人のダークエルフが護身用に身に着けたほかは、全て鉄材とした使うことになった。
で、川の近くにたどり着いたはいいものの……
「あちゃあ……」
極度に乾燥した土地にまとまった水が流れれば、深く侵食してしまう。
川は、両岸が数mの崖になっている下に流れていた。
水辺の周囲にはいくらか平坦な部分もあるが、大きな畑を造るほどの面積はない。
となると、崖の上まで水を汲み上げるしか無い。
この焼玉エンジンが使えればなんとかなりそうだが、あいにく燃料にできそうな油がない。
「うーん……」
俺はまた唸ってしまう。
川辺まで、からっ風が、強弱はあれど常に吹いている。
「…………そう言えば、さっき、木を加工して農耕具を造ると言ってたけど、それはどうやって?」
レアの言葉を思い出し、訊いてみた。
「御使様、私達はエルフ種ですよ」
んん? ……いや、そういうことか。
俺が思いついた通り、エルフは鉄材として押収した中から短剣と、それに木を加工する魔法で、木を伐採していとも簡単に木材を確保した。
ちなみに木材だけではなく、石材を加工する魔法が使える者もいた。エルフのイメージとは違うが、ダークエルフだとそんな感じでもおかしくないのかな?
「となると、後は人手がもう少し欲しいなぁ」
なんとかプランはたちそうだ。が、今のダークエルフ十数人ではちと心もとない。
「では、集めてまいりましょう」
「え、そんなことできるの?」
レアの発言に、俺は思わず聞き返してしまった。
「はい。この『乾きの谷』は、この前言いましたように農耕には向きませんが、狩猟生活ならなんとかなりますから、それに、ノルト鉄鉱山から近いので……」
「!」
なるほど、他にも集団脱走した奴隷がここに逃げ込んでいるってことか。
「よし、じゃあ、それで行こう」
というわけで、とりあえず、ダークエルフたちを4チームに分けた。
まず、周囲から脱走奴隷をスカウトしてくる班。
それと、農耕具の製作に取り掛かる班。
それから、とりあえず種芋を管理する班。崖下に降りて、種芋が乾ききらないようにする。それに川岸にとりあえず小さな畑を作って、そこにある程度芽の伸びてしまった種芋を植える。
この作業に、捕虜を使ってやろうかとも考えたが、悪党と同列に落ちる気がして、やめた。
そして最後に、ひとまずの食料を確保する班だ。畑ができるまで、飲まず食わずというわけには行かないからな。
こうして、当座のプランを組み立て、実行することにした。