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Chapter-19

「だいぶ……甘いっスね」

 自らテイスティングに挑んだキャメリアは、一口飲んでそう言った。

「そうか? なかなか旨いと思うが」

 俺も試飲してみた。

「悪くはないっスけど……なんか、期待してた味と違うんスよ」

 悩ましげな困惑顔で、キャメリアは腕組みしてしまった。

 わからんでもないなー。

 甘みの正体もなんとなく推測できる。カロチンを含む紫ジャガイモを原料にして、カロチンを含まない白ジャガイモと同じ製法で造ったからだろう。

 ちなみに蒸留器は……なんか、以前テレビドラマで見たウイスキーのそれとは違って、昭和な風呂釜をずらして重ねたような、いかにも質実剛健ーってな感じだった。

 まず蒸気釜を焚いて、水蒸気を発生させる。蒸気釜の上の方には原酒釜の中をループしてくる蒸気管があって、自然対流で熱交換が起きて、原酒が沸騰し始める。それを原酒釜の横っちょから斜め上に突き出した蒸留管を通って吹き出してくるのを、三度笠を逆さにしたような冷水皿で受けて、落ちてくる酒を回収する。

 冷水皿には水抜き穴が空いていて、これと給水の側とで冷水が一定の時間で入れ替わるように調整する。これも酒の味を左右すると、キャメリアはそういいながら、ヤスリで真剣に調整していた。

 ちなみに冷水は、エンジンの油がもったいないのでトイレ給水用の集合タンクから引っ張ってしまった。いや、別に同じ川の水だしさぁ。給水タンクにエンジンで汲み上げてるか風車で汲み上げてるかの違いだけだし。まぁ、気にしてるのも俺ぐらいだったみたいだけど。

 だってこれ、結構時間かかるし手間もかかるんだもん。下手したら発酵よりこっちが本番なんじゃないのかな。

 ただ、火加減はお湯がグツグツ湧いてればあまり気にしなくていいらしく、とりあえず酒造班交代で、火を落とさずに数晩かけて蒸留することになる。

 この蒸留器の構造は、直火じゃないから、引火の可能性も減るから一石二鳥だな。

 なるほどペンデリンみたいなリクツを形にしちゃうデミ・ドワーフらしい蒸留器と酒だ。

 ところでデミ・ドワーフの酒樽ってどう見ても日本風なんだよなぁ。いわゆるワイン樽やビヤ樽より日本の酒樽のに近い、ってか構造そのまんま。

「俺が教えたんだっけ?」

 そんな気もして、キャメリアに訊いてみたが、

「いや、これが伝統的な形っスよ?」

 と答えが返ってきた。ペンデリン達他のデミ・ドワーフ、さらには長命のレア達ダークエルフに訊いてみたけどやっぱりそうらしい。そもそも、携わってた(ハイ)エルフのカンノコ達がそうだとしか思ってなかったし。

 まぁ、ここは深く考えてもしょうがない、か。

 さて、ブドウを煮詰めたフレーバーを、発酵途中で追加した樽の分だが……

「旨いっちゃ旨いんスが……」

「デザート酒だな、これは」

 甘い。酒で言う甘口辛口のたぐいではなく、ハッキリとした甘みがある。

 キャメリアが最初に言ったように、紫ジャガイモ原料のせいで原料酒にほんのり甘みがついているところへ、さらに甘みを足してしまった感じだ。

「しかしまぁ、品質的には、飲むにも売るにも充分だな」

「そうっスね」

 お、なんか肩の荷が降りたような顔してるじゃないかキャメリア。

 甘い、ブドウフレーバー酒に水飴飽和するまでブチ込んだぐらい甘いぞ。

「というわけで、キャメリア酒造班を増員、通年生産を決定する。大増産だ!」

「え、増産っスか!?」

「おう、とりあえず3倍かな、できたら5倍は行きたいなぁ、レア?」

 秘書役として、テイスティングに付き合っていたレアにも振る。

「そうですね、売り物として申し分ないですし」

「…………ええ、えぇえぇぇぇっ!?」

 通年生産、辺りまでは自分から主張するつもりだったらしいものの、大増産、までは想定していなかったらしい。

「実はな、今うちはビンボーなの」

 最近色々と入り用だったんで、気づいたら結構な額のカネが必要になってた。

 タングステン抽出のための錫スラグもあっちは引き取ってくれて大助かりってなもんだろうが、輸送費を負担してもらってるし。

 マデレーヌ陛下はしばしの間は、持ち出しが必要であれば王家が負担すると言ってくれたけど、一端(いっぱし)の領主としてはあんまり甘えてもいたくない。

 錫スラグの件で大型馬車での陸路輸送がなんとか物にできそうであり、そうしたらトゥートゥーン伯の鉄鉱山で採れる鉄鉱石でデミ・ドワーフ鋼を量産して、一気に儲けられるかも知れないが。

「つうわけで、流石にこれ以上陛下に金の無心をしなくてもいい程度には儲けたいわけ。お前さんの酒はそのための手段のひとつなんだよ」

「それ訊いちゃったら、スカ樽作れないじゃないですかぁ~」

 日本でも実際にそう言うのかはわからないが、キャメリアの言わんとしたことはわかった。異物とか入り込んで発酵に失敗した樽のことだろう。

「あ、失敗する気なのかよ」

「めっ、滅相もないっス、このキャメリア、デミ・ドワーフ酒造の威厳をかけて励むっス!」

 しゃきっ、と直立不動の大声で言うキャメリア。

「おう、人員はガッツリ確保するから、監督しっかり頼むぞ」

「了解っス! まずはペロネールズ班長とジャガイモの割当ての相談をしてくるっス!」

 そう言うなり、さっそく飛び出していった。

「そんなに気にしていたんですか、金策のこと……」

 2人きりになった室内で、レアが、困惑したような表情で問いかけてきた。

「してないってば嘘になるけど、実際には言うほどでも」

 ソプラントがうっさいから、ノルアルトに忠誠を尽くすつもりだけど、それより俺、この世界じゃやりたいことやって過ごすって決めてるもん。

「じゃあ、なんでキャメリアさんにはあんなことを?」

「だってさ、アイツ、面白いじゃん。軍隊の、ちょっと間の抜けた新人みたいで」

 もしくはサラリーマンコメディの主人公、ってこれは言ってもレアにはわからないけど、とにかくキャメリアって、俺の中でそんな感じ。

 とか言ったら、レアは盛大にため息をついた。

「ウソを言ってるわけじゃないんだぜ? 実際、酒の増産は計画のうちだし」

「えーえー、そうでしょうとも」

 ああ、レアの態度が冷たい……


 ジャガイモの二度目の試掘をする頃、シトシトと雨が降り続く日がポツリ、ポツリと出だした。

 雨季に入りかけてるんだろう。

 気温もだいぶ寒くなってきた。

 例の電気暖房はだいぶ具合がいい。

 クロムがないので、手に入る鉄とニッケルと木炭の粉末とで、電気発熱体が作られた。

 もちろん天才ペンデリン……ではなく、ペロネールズが。

 なんでアイツ、電気周りになるとペンデリン以上の才覚もちなんだ? 例のT・Eさんとか、N・Tさんとか、日本のS・Yさんとかの生まれ変わりだったり、魂の欠片が入ってるとかだったりしないよな?

 というわけでこいつを『ペロネールズ式発熱体』と命名、これでパネルヒーターを造って肌寒い夜の洋式で、尻に迫る恐怖を回避したぜ。

 …………と思ったら氷雨の降ってる真夜中に発電エンジンがエンストこいてて涙目になれました。

 ちなみに基本的に送っている電源は交流100V/30Hz。

 なんで30Hzかって?

 そいつはペロネールズがとても効率のいい永久磁石式の発電機を造ったことが原因。

 2極式単相同期交流発電機だ。

 が、俺の世界の電源周波数が50Hzか60Hzと聞いて、泡を食ったのがペンデリン。

 2極式発電機で50Hzか60Hzって言うと、発電機を相当高速回転させなきゃならない。

 使うエンジンの定格回転数は連続運転で700rpm。しかしトルクがあるから回転数が必要なら歯車でもベルトでも増速すりゃいい。

 ってことで計算したら必要な回転数が3000~3600rpm。

 …………発電機の軸受が保たねーよ。

 結局、ペンデリンとペロネールズは悔しがりながらなんとか維持できる1800rpmに落とし、周波数は半分の30Hzになったのだった。

 ちなみに計算しやすいってことで最初は60Hzにするつもりだったらしい。

 また、多極式発電機を造って回転数を落としたり周波数60Hzを維持したりも考えたが、カンノコにも手伝ってもらったもののどうしても効率がガクンと落ちることが判明し、この結果に落ち着いたのだそうな。

 って、俺がまるで他人事みたいに話してるって、そりゃ、他人事だもん。

 前もちょっと言ったけど、こいつら、発電機の詳しい仕様、直前まで俺に黙ってやがったんだよ。

 結局、発電機は給脂や整備のために、さらに2台同じ仕様で製造され、風雨を遮る小屋が建てられた。

 建ててからしばらくして、多分発端はグランマリア隊辺りだと思うんだけど、みんなして発電エンジン小屋のことをこう呼ぶようになった。

 “力の館”────と。


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