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Chapter-16

 水洗トイレ。

 俺が脳内記録ではない専門外の知識に、レア達の知識が組み合わさってできた下水処理施設、そのおかげである。

 生前読んだ、いくつかの異世界転生モノの作品では、トイレの問題を解決していたものもあったけど、水洗トイレが“明確に”克つ“安全に”使えるようになっているというのは、珍しい部類ではないろうか。

 特に、()()()()()()()()()()()()()()()()()()は、この点、どうしているんだろう。

 なんて、考えても仕方ない。

 ちなみにトイレはタンク式、それも天秤サイフォン式のハイタンク式だ。

 元々は水洗トイレの洗浄は落差がでかいほうが有利だでろう。と勘違いされてできたハイタンク式。戦後、大して意味がないことがわかり、洋式化と伴って急速にロータンク式に置き換えられていった方式だ。

 これは()()()()とはことなり、俺の純粋な知識出来しか作ることはできないが、すでにみんなおなじみロータンク式はともかく、何故かハイタンク式の原理的構造を覚えていたんだなぁ。

 で、今回ばかりはエルフ種やデミ・ドワーフに悪いって思ったけど、ハイタンク式をつくらせた。

 と言っても、また、陶器を自在に手に入れられる段階になかったので、タンクは木製でダークエルフのニスで防腐処理、便器は地球で言う洋式で、ボウル面は金属、便座は木製という形で出来上がった。

 まるで国鉄時代の車輌のトイレみたいだ。ただ、構造はかの天才ペンデリン、俺達の世界で『セミサイホン式』と呼ばれている方式に、若干の改良を加えたのを作ってしまった。

 で、俺がなんでわざわざハイタンク式を作らせたのか。

「はー、すっきりしたー」

 と、満足感を味わいながら吊り紐を開く。

 ドザン、ザーと高い位置から流れる水の音。

 まるで「ザ・ドリフターズ」の『8時だョ! 全員集合!!』の気分じゃないですか。

 これで『盆回り』がかかったら最高。

 俗に『ドリフ式』と呼ばれるのが、よく分かるわ。

 …………ちなみに俺、『全員集合』とは全然リアルタイム世代じゃない平成生まれなんだけど、なんでこんなにドリフがしっくり来るんだろう。

 っていうか、だからこそ覚えてたんだよな、これの構造。

 話をもとに戻すと、それまで桶で流していた()()()()()()手間が省けて節水になるってんで、早速まとめて作り設置されてきたんだけど……

 早い話が、こいつでもって遊ぶ、特にデミ・ドワーフと獣人族が続出。

 そりゃ別にいいんだが、問題は水道。

 ドカドカ水を流されると、せっかく水道用の貯水槽に貯めた水があっという間になくなり、そのたびにペロネールズがやってきて、「仕方ないにゃあ」で水道用エンジンポンプを始動する。

 これが「仕方ない」から「いい加減にしろ」になるまで5日間。いや、我慢したほうだと思うよ? いくら出力に対して、アルトロ豆油以外の燃料分を増やしても燃えるペンデリン式だからといって、年中燃料の無駄をされては困る。ちなみに我慢したのはレアとペロネールズであって、俺は我慢されたほうだがな。

 結局、トイレ用の水道は別に作ることになり、そちらは風車で集合タンクに揚水して、そこからまとめて、逆サイホンの要領で各タンクに給水する、ということに。


 さてこの風車。

 やっぱりどうしても焼玉エンジンに目が奪われがちだけど、俺達の生活を根本的に支えてくれけるのはこの風車、ペンデリン達が来るの前、それもレアたちとだけで建てた、記念すべき1号揚水風車塔だ。

 その後、そのデミ・ドワーフによって修繕や改修は行われているが、最初にレアと作った風車と揚水筒は、鉄の補強を入れ、軸受をメタルに変えつつも、今も動いている。

 そもそも、最近忘れがちだがシモス男爵領マッキントッシュは決して水利は良くない。そこを数mの崖下にある川から水を揚水して用立てているのだ。

 今日々この地で、水が、日本の感覚でつかえるのは風車様々なんである。

 しかも肝心のエンジンも、風車のお世話にはなりっぱなしだ。

 そもそも燃油を風車の力で得ている。

 まず、収穫しアルトロの実から、生のまま可食部分を剥きとる。

 果肉は干物にして、一種の保存食にするのが主だが、生のうちに小さな餅ほどに切って、ハーブで包んで焼いてもなかなかいいつまみになる。

 その後、軽く火を通してある程度柔らかくする。

 ここで食用として気を使う必要は全く無いんで、エンジンの復水排気チャンバーからの温水を浴びせて二晩。うまくいかないときは焚き火で通すこともあるが。

 その後、種の外殻を潰す。それは小型の水車を2台程つくってやらせている。

 が、この水車は、第1号の風車の水路が、川岸上側の貯水タンクを経て、拡大した各畑に配水する過程で使う水車の回転力を使っているだけなので、結局その力の大元は最初の風車ということになる。

 その後ダークエルフが、森の植物の繊維で作った袋に入れ、それをさらに鉄鍋に入れると、鉄鍋もろとも高速回転させる。

 これをやるのは、今のところ畑の端になっている部分に設置した、多目的用風車だ。第2の風車と呼ばれ、揚水風車塔、風力高炉のそれに並んで目立つ大きな風車だ。

 これで油脂分を搾り取り、湧出エタノールと混ぜ合わせて燃料へ。絞りカスは煮詰めてさらに溶けにくいアブラミにして、獣脂と混ぜて潤滑用の半練りグリスへ。

 と、いうわけで、肝心の燃油生産自体が風車に頼りっきり。

 さらに、燃料以外にも、ミーツ式やそれを母体とするペンデリン式の焼玉エンジンはアホみたいに水を消費するので、これも、風車による揚水あってのこと、になる。

 また、北マッキントッシュ鉄鉱山と呼ばれるようになった坑道では、風車によって、湧出エタノールの汲み上げ、また坑道内を換気して、爆発や急性中毒を防止している。

 風車で風を送り込む、とは変と思われるかも知れないが、自然で発生している力を使いやすい形に変えるのは普通のことだ。

 たとえば巨大な“るつぼ”を使って、風を導くこともできる。けれども、いくらこのあたりの風が安定して吹いていると言っても、多少ずつは向きを変えたり強弱したりする。そのため、“るつぼ”では常に効率よく風を集められるとは限らない。

 風車は縦軸と横軸を組み合わせ、それに尾翼をつけることで効率が一番高い方向を向かせられる。その回転でブロアを回したほうが、思い通りのところに()()()()思い通りの風を送り込めるわけだ。

 そんなこともあり、今ではでっかく背中にノルアルト王国の国旗をたなびかせる風車塔は、今ではすっかり、『シモス領マッキントッシュ』のシンボルになってしまった。もちろん、ただのシンボルではない。何より重要な仕事を今も、おはようから明日のおはようまで1日中休むことなく、こなしている。


「思えば、この風車が最初でしたねぇ」

 この日俺は、じゃがいもの収穫日を基準とした、第1回の税の額を決定したのだが……

 いいのか、これ、ミョウガ。

 結局世話するだけ世話してしまい、畑のそこそこ広い一角を占拠してしまったミョウガの、畑の半分を収穫したが、これを税に入れて、いいの? 嫌がらせにならない?

 まぁ、ここで採れる『魔法のミョウガ』か、地球のミョウガよりタフに育ってくれるからか、質は良さそうに感じる。これをアリスさん達翼人族や、グランマリア隊に運んでもらって、王都や南部の村で市を開いて売ったらそこそこ売れた。

 売れたけど失敗した。

 というのは人選。

 グランマリアさんに客商売ができるのか、少し考えればよかった。

 いや、別に軍人としい居丈高に売りつけたとかそういうんじゃない。

 むしろ逆。

「巷でも話題の、シモス男爵領マッキントッシュの作物である!」

 なんて言うもんだから、値段も別にボッタクリ価格じゃないし、俺も我もと客が殺到。

 結果として混乱を起こしてしまい、この臨時隊商は王都や土地の衛士に俺は陛下に、怒られてしまう始末。

『詐欺を働いた事実はないが、影響力を充分に考慮せよ』

 だよねーそんな事言われちゃうよねー。

 ただ、そもそもグランマリア隊自体が正規の国軍の隊員だから、陛下の方としても痛し痒しなところはあるらしい。と、例によって遣いに来たソーヴィニョンが言っていた。

 実際、注意に向かった衛士、グランマリアが士官階級だからやりにくかったろーな。本社の重役を、中間管理職が叱るようなもんだ。

 というわけで、臨時隊商にグランマリア隊入れるの中止。

 陛下に言われたわけじゃないけど、迷惑がかかるとわかった以上、続けるほどバカじゃない。どこぞの伯爵じゃあるまいし。

「だからですよ」

「え?」

 レアの言葉に、俺は意外な言葉を返すことになった。

「余剰を下手に草の根で売られると混乱の元になるから、国でできるだけ買い取る、税目も額と重さで調整していいと通達があったんです」

「そうだったのか……」

 最近、秘書役がすっかり定着してしまったレア。

 結局かんのと近くに居る気がするな、なんて……

「……そうか、あの風車をレアたちと組み立てたのが、ここの始まりだったっけな」

 時間はすっかりと夜。

 この世界でも美しい、満天の星空。

 そこにキイキイと少し無粋な音を建てて回る風車が、背後の星を瞬かせるのも、悪くない光景のように見えた。

「よいしょ、っと」

 疲れて、風車の見える場所に腰を下ろして関節を伸ばしていた隣に、レアが腰を下ろしてきた。

 ちなみに、川岸の崖の法面が崩れないよう、芝生が植えられている。これはこの森独特の品種ではなく、別の場所から海岸でも育つというものを植えたもので、砂でもよいが灌漑がないと育たない。

「この風車1本から、ここまで来ましたよね……」

「ああ、そうだな」

 少しだけロマンチックな光景の下、俺とレアはそんな会話をしながらゆっくりとした時間を過ごした。

 夜が明ければ、また喧騒がくるこの地でも、まだ、夜だけは。


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