Chapter-15
2日後。
臨時フィッシャーマン班を募ったら、結構な数の希望者がいてワロタ。
主なメンバーは農耕班……ではなく、製鉄班。
まぁ、そうなんだよね。
今のところ自領内で使う分の鉄があればいい状態だし、採れる鉄鉱石も薪炭も限度があるから、製鉄班は暇な時も多い。
ましてや第2風力高炉の完成にやぁあぁぁぁっと目処がついてきて、今急いで製鉄するより、鉄鉱石も乾燥させた薪も貯めておく方が頭いいし。
あ、ちなみにこの鉄鉱石や薪炭を保存しておく屋根付きの倉庫? 備蓄場? は、エルフ種中心の建設部隊が作ってくれました。
ちなみに今、製鉄関係以外の建物は、かなり大規模になったログハウス造りの集合住宅が1つ、王都からの使いを招くための宿泊用の大型ログハウスが1つ。作業用の、壁が半開放のホール(?)が1つ。通気性を重視した食料備蓄庫と、よく似た形だけど遮光板がつけられるようにしてある苗庫。それにポンプ用エンジンの壁なし屋根がいくつか。川べりの下に下水処理施設と、水回りの作業場になった最初の住居。そして南北の領地の外へ続く道への警備詰め所(と言っても南側のそれは整備してないので獣道当然のままなんだが)、がある。あ、あとトイレ。
この建設部隊も割りとその時その時で臨時に招集してる。と言っても招集するのはレアで、彼女とツーカーのダークエルフがほとんど、それに空中輸送ができる翼人族が少数、というのが定番だったんだけど、今後は白エルフも混じっていく……のはいいとして、どこもかしこも獣人族が紛れ込むんだよな。脳筋種族かと思ったら、ペロネールズは頭柔らかいしそうでもないのかな?
数日前に晩酌してたら(この前の夜這い合戦のときとは別口だぞ)、電気の話になって、それに晩酌相手のペロネールズがぐっと食いついてきたんだよなぁ。
発電機の知識がないだろう、と思ったら、実はある。というのも、内燃式の原動機の基本的な設計全般が俺の脳内記録にあるので、その必要品である、直流整流子発電機、永久磁石同期発電機の構造は入っていて、切り取りできるのだ。
あとは永久磁石と絶縁体の技術があればできないことはなさそうなんだけど、またここですぐ、神様、仏様、ペンデリン様ってのもなぁ。
それに、発電機の方ができても肝心の用途の方が、電球は相当苦労するはずだし。ましてやそれ以外の使用法って今のところ思い浮かばないな。
発送電は19世紀末に登場して、20世紀に入ってからの技術だから、まだこんな中世欧風ファンタジーな世界観には早すぎるか。
ってことで、今のところは棚上げ中。
なので閑話休題。
今は釣り、釣り、魚と。
先の通り農耕班は、今日は作付けのお仕事があるので、そちらを優先。
製作班はその農耕班に付き従って散水用エンジンの整備。
というわけで、今日のお供は製鉄班のピーテッドに、やはり最近手持ち無沙汰気味の、狩猟班のプルトニー、という、ロリ種族のNo.2コンビという珍しい取り合わせ。
あ、もちろんレアはいる。
ピーテッドはペンデリン以下ムチロリが多いデミ・ドワーフの女性の中では比較的痩せ型のイメージ。そのせいか、ドワーフ種の熱血イメージとは少し離れて見える。
ペンデリンやキャメリアも、脳筋でこそないものの、結構熱血タイプだしなぁ。
「でも、意外だな」
「? 何がです?」
リールを軽く巻きながら竿をしゃくるピーテッドに、俺は苦笑しながら言う。
ホントはリールとかない、簡単な釣具でいいつもりだったのが、その気になって、それもタイコじゃないスピニングリールを作ってしまったのは例によってペンデリン、ではなく、その気になったピーテッドがプルトニーと協力して、と来たものだ。
「ピーテッドはこういう、半分趣味の作業にはあんまり乗り気じゃないっていうか、楽しみにしないと思ったんだよね」
「そんな事ありませんよ。ペンデリンさんがああですから製鉄の仕切りをしてますが、私だってこういう仕掛けモノは大好きです」
ピーテッドは、不本意な、と言う感じで言い返してきた。
「お互いリーダーが奔放だと苦労しますねー」
俺やピーテッドのそばで、タモ網を構えていたプルトニーが言う。
と、そんな話をしている最中にも、ピーテッドのしかけのウキが水面にヒュッと沈む。
「プルトニーさん、網お願いします」
「ホイきたにゃ」
割りと大物が来たらしいピーテッドのしかけに、川辺をさっと走って網ですくってみせるのがプルトニー。
ペロネールズがああだからか、プルトニーはこういう補佐役が素早い。
それもそのはずで、ペロネールズとプルトニーは生まれ故郷からして同じ幼馴染なんだとか。
ちなみにピーテッドとペンデリンは、ジュピリーに脱走を唆されてからの仲。
…………あ、だんだんまた腹立ってきたぞ。いかんな、この話題。
ジュピリーには感謝してる。ここにいるデミ・ドワーフ、特に俺みたいに神様の詫びチートがあるわけでもない、正真正銘の天才・ペンデリンをあの事故で失っていたらまさに世界的損失だっただろう。鉄鉱床下のエタンガス田の危険を察知していたドワーフ種は、坑道内から逃げ出さないように拘束されていたからな。ジュピリーがヘーゼルバーン伯爵を裏切らなかったら今のシモス男爵領はない。
そんなジュピリー、いつもはソプラント正規軍時代のそれを模した、鋼の胸甲のついた革鎧に細身の槍を構えて、1人で領地南側沿いの入り口を警備してる。ノルラントの武具は肌に合わないのか、わざわざ胸甲と兜にノルラント王章とシモス男爵章を入れて使い続けている。まぁ、歩兵部隊員1人だし、俺が許可すればいいんだろうけど。
1人だけソプラントの非奴隷身分だったというのが負い目なのか、寝泊まりまでその詰め所でする始末だ。
しかも警備自体は、グランマリア隊や翼人族の警備隊がいるからあんまり意味がないという始末。あ、でもソプラントが軍隊付きで交渉しようとしてきたとき、夜陰に紛れて寡兵で接近しようとしてるもんだから、ジュピリーの報告に頭にきて、ペンデリンやペロネールズ達と夜襲をかけて、全員川にたたっこんでやったこともあったな。暫定領だった時の話だが。
今はシンボルの風車塔にもノルアルト国旗を翻し、正式にノルアルトに属していることを主張してやっている。ソプラントの連中は俺達をどうにかしたきゃまず陛下と話し合うんだな。
また話が逸れた。
そんなジュピリーだから、今日はフィッシング部隊に合流させた。というか、合流するように命じた。
多少気分転換になればと思ったのだが。
「はっ」
バシャッ
ジュピリー、すごい釣り上手いでやんの。
タモ網も必要なし。引き上げたらバシャッと木バケツへ直行便。
「これでも母方の実家は、川漁の漁師だったんです」
ジュピリーが、ここへ来て本当にはじめて見せるニコニコ笑顔で、そう言った。
「そうだったのか、早く言ってくれればよかったのに」
「すみません……」
すぐ謝ってしまうのはいつものとおりだが、それでも今日はだいぶ外向きになっている気がする。連れ出して正解だった。
「軍に入る前は漁も手伝ってましたから、このへんは岩も少ないですし、投網もできますよー」
なんですと!?
というわけで、本日の釣果ホクホク。
最初は、釣りに参加したものにはまるごと一尾、残りは切り身、と考えていたのだが、全員にまるごと一尾をソテーにして出せるくらいの釣果があった。
香辛料とハーブを効かせた、レア流の味付けもなかなか旨い。
レアはホント、平均してスペック高いなぁ。
「これで米の飯があったらなぁ」
「お米、ですか」
レアが反芻するように聞いてくる。あ、そうだった!
米自体はこの世界、あるのをすっかり忘れていた。
問題は米の品種だ。地球のジャポニカ種に近い、炊いて食べるのに適した種があるかどうか……
それに、もう3月もすると雨季から冬へと季節が移る。
今年とりあえず、調査で終わるだろう。
で、今日は珍しく、いつもニコニコスマイル¥0のペンデリンとペロネールズの機嫌が微妙だったりした。