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Chapter-09

 ボウモア達翼人族に運ばれて、俺がノルト鉄鉱山の坑道付近に降り立った時は、事態はもっと悲惨になっていた。

 最初は坑道から青白い炎が吹き出しているだけだったが、それが周囲の製鉄設備に引火し、赤い火災の炎にもつつまれていた。

 “大災害フラグ”──鉄鉱床を掘るとエタノールが湧出すると聞いた時点で、嫌な予感はしていたんだ。

 俺達が掘っているあたりは、鉄鉱床自体がすでに途切れ途切れで、坑道はそれを見つけて掘り出す零細規模のものだ。

 しかしそれでも、湧出エタノールが坑道内に気化して充満するのを防ぐため、散水して液体に戻すとともに、水に溶かして流してしまう。

 あるいは、最初の頃はふいご、現在は風車を使って外部の空気を送り込み、公道内に気化エタノールが充満しないよう換気する。

 そのうち、鉄が出にくくなった坑道に湧出エタノール自体をためて燃料にするための貯め池も掘ったが、デミ・ドワーフが一番気にしたのはやはり吸引による中毒と火災だったし、ペンデリンからそのことを聞かされた俺も、それに特に気を配るよう念を押していた。

 そして、ノルト鉄鉱山の辺りは鉄鉱床が厚く、しかももともと比重の軽いエタノールが、地上にも吹き出さず、遡上していきやすいんじゃないのか。いや、圧力でエタノール化する前のエタンガス自体が遡上している可能性もあった。

 鉄鉱床がエタノールやエタンガスの湧出を防いでいるうちはいいが、それ掘り出していけば、やがて……────

「何があった、言え!」

 俺は、手近にいた人間の坑夫らしき人物を捕まえ、訊ねる。

「あ、アンタ何者だ……」

「そんなくだらない話をしてる場合じゃないんだ。答えろ!」

 俺を誰かと問い詰めようとする坑夫を、俺は思わす怒鳴りつけてしまった。

「最深部の鉱床を掘り返したときに、突然、奴隷が燃え上がって、それから、次々と……お、俺も命からがら脱出てきたんだ、どうしようもなかったんだ」

 男は俺にそう説明し、俺以外にまで言い訳するかのように、そう言った。

 俺の予想があたっていた。

 坑道の奥でエタンガスか高濃度の気化エタノールを湧出させてしまい、引火。換気も散水によるエタノール蒸散抑制も不充分な坑道内部にたちまち火が行き渡ったと

 よくこんなところで作業していたものだ。いや────


 こんなところだからこそ、人間以外の鉱山奴隷に働かせていたのか?


 俺は、一気に胸糞が悪くなるのを感じた。

「ナオタキ様、我々はどうすればいいでしょう?」

 ボウモアが聞いてくる。

「私達が水を汲んできて、坑道内に水を入れれば、消火できるのではないでしょうか?」

「いや、とてもじゃないがそれぐらいで消える火じゃない」

 元々がエタノールの炎のなので、青白く陽炎が揺らめいているように見えるが、延焼する木々や建物の発火具合を見ていると、とてもじゃないがそれで収まってくれるようには見えない。

「ボウモアたちは……水は汲んできてくれ。それで、負傷者の手当を」

「わかりました」

 そう言って、ボウモアたちは、水のある谷間へ通りていった。

 ちなに、翼人族には皆、デミ・ドワーフ鋼の剣や槍などで武装させている。元々、彼女らはここで奴隷として働かさせられていた身だからな。

 同じ理由で、ペロネールズやペンデリンなど、本来なら体力自慢の連中も、連れてこなかった。まぁ、そもそもボウモア達が運びきれないが。

「坑道の入り口を塞いで、酸素を……空気を断つ以外にないな、これは」

「で、でも、そんな事をしたら、まだ中にいる者たちが!」

 鉱山奴隷の1人か、煤けた様子の女性が、俺に対してそう言った。

「そんなことはわかってる。でも、もうそれ以外に火を消す方法はない」

 俺は、突き放すようにそう言った。

「山が全部燃え尽きしてしまう前にやるんだ」

 非情なようだが、それ以外に方法は思いつかなかった。

 風車や、エンジンポンプを運んでこれたとしても、全体が燃えている坑道の火を消せるとは思えない。

 中に炎から避ける場所があり、そこに身を隠す事ができている者がいるとしても、逆にそうやって鎮火させる以外に助ける手段もなかった。

 デミ・ドワーフ鋼やダークエルフ鋼と比しても粗末な、鉄製の板をつなぎ合わせた板で、坑道の入り口を閉塞することになった。

 空気抜きの斜坑がいくつかあるというが、これだけでも燃焼する酸素を失って、消えてくれるといいんだが……

 結局、俺達が助けられたのは、火災の早期のうちに坑道から脱出し、火傷程度で済んだ人間ばかりだった。

 ボウモア達に、一度俺達の居住区に飛んでもらい、ダークエルフに薬草で消炎剤を作ってもらい、それで手当するのがやっとだった。

 彼らの治療が終わる頃、ようやく坑道の火が消えた。と言っても、まだ支道のあちこちで、幽火のようなガスの燃え残りの炎があった。

 そこに至るまで、二晩はかかった。だが、ヘーゼルバーン伯爵とやらは、とうとう姿を表さなかった。

 3日目になって、ヘーゼルバーン領の正規兵がやって来始めた。本来の領地からはそれなりに離れていること言うことだろう。

「お前は一体何者だ?」

 消火と怪我人の治療の指揮を採っていた俺を見るなり、隊長格のベンローマックとか言うおっさんが、無礼な態度で聞いてきた。

「この山の、西の麓の谷間で、領主の真似事をさせてもらっているナオタキだ」

 俺が睨みつけたまま名乗ると、ベンローマック隊長は笑い飛ばした。

「バカな。『魔の谷』で領主の真似事など、できるはずがない」

「いいえ、それができるのです」

 ボウモアが、やはり剣のある言葉で言い始める。

「ここにおられるナオタキ様は、神の叡智を持っておられます、それがあれば、『魔の谷』を農地に変えることも可能なのです」

「……むぅ…………」

 俺がこの世界にはない技術と知識を持っていることは、解放した捕虜らから聞いているはず。とすれば、ここは脅しておくべきか。

「俺は、神自身ではないが、神の叡智を授けられた神の名代だ。もし、俺や俺の仲間に手を出すような真似をしたら、アンタだろうと伯爵だろうと、末代まで死より恐ろしい苦しみを与えてやるからな」

 正直、そんな能力は俺にはないが、この連中に、俺の仲間に触れられたくないので、そう言って脅かしてやった。

「む、むぅ……」

 信じたのか信じてないのか、ベンローマック隊長は唸り、一瞬判断が鈍ったようだった。

「ボウモア、俺達はもういいだろう、引き上げるぞ」

「はい、ナオタキ様」

 俺は言い、ボウモアの背中に乗って、他の翼人族とともにその場を引き上げた。

 本当は、まだ治療を要するものもいたが、ヘーゼルバーン伯爵とやらとこれ以上絡みたくなかった。後は連中が、なんとかするだろう。なんとかできればの話だが。


 ポンポンポンポンポンポン……

 散水の焼玉エンジンの音がする。

 この音を聞いて、俺はようやく落ち着いた感じだ。

「様子はいかがでしたか、ナオ様」

 レアが聞いてくる。

「最悪だった」

 と、俺はこの3日間の事を、レア達に話した。俺の言葉に、レアも顔をしかめるしかできなかったようだった。

 そして、まずは一休みしてから、レアやペロネールズ、ボウモアやペンデリン達の主要なメンバーを集めて、会議を開いた。

「今回のことで、ヘーゼルバーン伯爵や、その上の王室も、ここが開拓されていることを知っただろう」

 俺はそう切り出した。

「この国の領主になれるなら、それを目指すつもりだったが、正直向こうからの印象も良くないだろうし、何より俺の国に対する印象が最悪なんだ。どうすればいい?」

 俺は、鉄鉱山火災の説明をしてから、そう切り出した。

「まぁ、あの鉄鉱山はいつか、ああなるとは思ってたけどなぁ」

 ペンデリンがそう言った。そりゃ、地下のことに詳しいドワーフ種なら。そうなるか。

 ペンデリン達が脱走を決意した理由がわかる気がする。

「今、私達は自衛のためならそれなりの武装を手に入れています」

 たしかに。

 この国の武具は、質の悪い鉄と、青銅、それらによるものだ。

 それに対し、俺達は近代製鉄にも負けないデミ・ドワーフ鋼の武具を持ち、しかも女性ばかりとは言え、ダークエルフや翼人族は戦士として名高い種族だと言う。

「でも、それでもヘーゼルバーン伯爵の軍勢に勝てなかったんだろ?」

「はい、多勢に無勢でしたから」

 レアはそう言うが、その評定は明るい。

「ですが、別から援軍が期待できるなら、その間保たせることはできます」

「? 援軍なんて……俺達には……」

「ナオ様」

 レアが真摯な表情になって、言う。

「北方のノルアルト王国と、まずはコネクションを作りましょう」

「!」


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