Introduction
「こっ……これは……」
1人の少女が驚いている。
「この地は不毛な大地と聞いていたのに! こんな!」
谷間に囲まれたその土地で、眼下に広がるのは果樹園と広大な畑。
シモス男爵領。ほんの半年ほど前に起こされた新たな領地だ。それまでは農耕に適さない不毛な土地、「森にはなっても畑にはならない『魔の谷』」とされていた場所だったのである。
そして俺がそのナオタキ・シモス男爵、その人である。
「あれは何、なんなの?」
この少女の名はキャロル・ロゼ・キャメルバリー。俺が爵位と領地の保有を認められている、ノルアルト王国の王女様だ。
「これは……なんなの? やたらけたたましいけど……動いてる? 回ってる?」
彼女が呆然と見ているのは、領主の館、つまり俺の家、その隣にある、小屋と言うにはちょっとでかい建物の中にあるそれ。
“力の館”と呼ばれるこの建物の中に、こいつ──大きな3気筒の焼玉エンジン3台がおいてあり、うち2台がポンポンポンポン、ギシギシギシギシと音を立てながら動いていた。
「説明すると長くなるんですが……」
そう言ったのは、褐色の肌を持つかわいい系美女、レアというダークエルフである。
うちの領民は、ぶっちゃけ人間はほとんど存在していない。ダークエルフとか、獣人族とか、翼人族とか、天翼族とか、デミ・ドワーフとか、俺の常識では人外に分類される種族ばかりだ。
「領主様は神の叡智と慈悲を持って来られたのです。それが、この地を肥沃な農地に変えたのです」
そう言ったのは、童顔美少女のハーフエルフの衛士隊長、ジュピリー・アルトパロマだ。
ジュピリーは、台車に乗ったそれを持ってきていた。俺がもたらしたとされる“神の叡智”の究極のもの、最初にこの地にもたらされた単気筒の焼玉エンジンのレプリカだった。