出会い
玄関のドアは、上の方が丸っこくなっていて、ちょうど半分にきられたオレンジみたいにガラスが嵌め込まれている。
コンコンッ
2回ノックをすると、遠くの方で
「はーい!」
と、元気よく返事をする声が聞こえた。だけど、正直言ってウェンデルはがっかりした。その声が、想像していた何倍も高くて幼い、少女のものだとしか思えなかったからだ。
ギギギィ
古ぼけて軋むドアが開いた。
出てきた少女は、エプロンをつけていて、その長い金髪を後ろでまとめている。背はウェンデルと同じくらいだ。
でもそれよりもっと、重大なことがある。
ウェンデルから見て左の瞳が白濁して、充血した目に血管が走るように緑の線が通り、その中心から涙が頬を伝うようにツルが生えている。ツルの先には1枚の丸くて柔らかそうな葉とほとんど開きかけた蕾がついている。
少女はマジマジと見つめるウェンデルを不思議そうに見つめ返して
「どうかなさいましたか?」
と、聞いた。
「あ、いや。僕その、道に迷って。どっちへ行けば街へ出られますか?」
少女が微笑んだり、首をかしげたり、小さな手で髪を触ったりするたびに、甘くて美味しそうなパイの匂いがする。いや、正確には、パイの匂いはずっとしているが、ウェンデルにはそう感じられたのだ。
「そうなの?大変ね。ここは街から反対の外れよ、帰るのが遅くなるわ。」
少女が見えている方の青い瞳をくりくり動かすと、ツルの生えた方の瞳も同じように小さく揺れる。
「そうなんですか?大分外れて歩いてきちゃったんだな、僕。」
ウェンデルは目を見開いて、オーバーに驚いてみせると、首に手をやって、はぁと息をついた。本当はそんなに疲れていないが、卑しくもピーチパイをご馳走になるためにとても疲れた振りをしたのだ。
それを見た少女は、心の底からの優しさで、ウェンデルを気遣った。
「私はメアリ。休んでいく?ちょうどピーチパイが焼けたの。いい匂いでしょ?」
「僕はウェンデル。いいの?本当に?邪魔じゃないかな?」
ウェンデルは期待していたくせに、ピーチパイをご馳走になるなんて想像もしていなかったような顔をする自分を少し軽蔑した。
「全然、1人で寂しいもの。ハーブティーも淹れるわ。」
そう言ってメアリは、ウェンデルを自宅に招き入れた。