第三十二話、のだのだのだっ!
「なんやろ…あれ。よく分からんね」
チカが言った先に黒ごまのようなものがこちらに近づいている。周りの皆がチカが言った、黒ごまのようななものを見る。
「おー.....あれ.....ドラゴンじゃないか?」
「本当!?」
グリードが呟いた一言にチカが食いつく。
「でもおかしいな…食用の竜は茶色だし、騎士や馬車引き用などの竜は白か灰色だし....」
「じゃあ、希少性が高い、野生の闇飛竜ですかね...」
「いや、闇飛竜だったら飛ぶだろうし、野生なら、本来山にいる竜が何故、ここに?」
グリードとセレシスが話している間もその黒ごまの様なものがチカ達の馬車に近付いてくる。
「やっぱ、竜やね!」
「あれは....なんだ?」
グリードの言った通り、竜であったが種類が分からない。
「暗黒竜.....でしたっけ?」
「まさか、伝説のあの山のヌシ.....だと...?」
セレシスがその竜の種類を当て、グリードはそれに驚く。
「暗黒竜ってなんなん?」
「生まれつき上級異能、軽減を持っている上級竜種の一種で闇飛竜の上位の存在ですね」
チカの疑問に答え、セレシスが暗黒竜の事を言う。
「詳しいな…。」
「......って!実は旅をする前は生物学の研究者だったんですよ」
「なるほど、そりゃあ詳しい訳だ。」
グリードはセレシスの説明に称賛の声を上げる。それに慌てて誤魔化すように補足を加える。
「てか、もうすぐそこまで来てるわよ?」
アリアの一言で皆が暗黒竜を見る。
「っく!横にズレろ!!」
「了解デスよ」
グリードの指示により馬車は道を外れ、その先に広がっている平原に突っ込む。
「ガォオオオオォーーーー!!!!」
馬車に迫る暗黒竜は咆哮を放ち空気を震わせる。
「きゃ!?」
「うにゃ!?」
「ほぁ!?」
「うお!?」
「っ!?まったく、しゃあしかー!」
「おっと!?」
「うるさっ!?」
ドミニク以外の皆がその咆哮に動揺し驚く。
「止まるのだぁあああ!!!クロムッ!!!」
咆哮の後に少女の声が大きく響く。その音源を見てみると、竜に騎乗した金髪のお嬢様のような服を着た少女がいた。
「ガァアアア!!ガァ!!」
その声で少し速度が遅くなるが、チカ達の乗る馬車に迫って来る。
「くっ!迎え撃つしかないわね…。」
「そうです.........ねっ!」
アリアの言葉にセレシスが賛成しつつ魔法を無詠唱で打ち出す。
「ガァ!!........グァア!?」
暗黒竜は地面から現れた土属性魔法の鎖に束縛されるが...
「ガォオ!!........グァア!?」
ブチッ!ブチブチッ!ブチッ!!
だがしかし、暗黒竜は鎖を千切り、馬車から反れる位置に倒れ込む。
「クロムっ!!!正気に戻るのだっ!!」
暗黒竜を追いかけていた金髪少女が再度叫び、暗黒竜に呼び掛ける。
「グァア!!」
「これじゃあどうにもならんね...」
呼び掛けに答えない暗黒竜はまた暴走し始める様子を見てチカが言い魔法の準備をする。
「グァ!?グァア!グァ!!」
まず、視覚を奪う為に光属性魔法で閃光させたかったが、周りに被害が及ぶため、闇属性魔法で暗黒竜の頭部への光を遮断し視覚を奪う。その様子はまるで真っ黒な球体の被り物をしているようだ。
暗黒竜がそれに驚き、その場で暴れる。
「グァアアアア!!グァ!グァ!?」
ドフンッ!!
それから土属性魔法でその竜の下の土を消し、落とし穴を作って暗黒竜を罠に嵌める。
大きな音を立て、暗黒竜がいる地面が崩れ、地面に暗黒竜が埋まる。
「ガァ!ガァ!」
慌てて出ようとするも、もう遅い。セメントの様な土を生成し、流し入れる。それはすぐに固まり、暗黒竜を拘束する。
「ガァアアア!!ガァ!!」
暗黒竜は暴れようとするも、動けない。暗黒竜は下半身が地面に埋まった状態でその場で何度も暴れようとする。
チカが土属性魔法を使ったのはセレシスが無詠唱でやったことに出来るからだ。
「クロムっ!!!大丈夫なのだ!?落ち着くのだ!」
暗黒竜を追いかけていた金髪少女は暗黒竜の頭にしがみつき、チカが闇属性魔法で暗黒竜の視界を奪う為に作った球体に突っ込む。
「おっと、解除しとかんと見えんね」
それを見たチカが闇属性魔法を解除、分散し見えるようにする。
「クロムっ!落ち着くのだ!」
暗黒竜を追いかけていた金髪少女は暗黒竜の頭と頭を合わせ、目を瞑る。
「異能、使役。異能、使役。異能、使役。異能、使役っ!」
暗黒竜に光の玉が集まっていき、暗黒竜が動くのをやめ、暗黒竜を追いかけていた金髪少女と同じく、目を瞑る。
「ぐぅ...」
「やっと止まったのだっ!」
暗黒竜を追いかけていた金髪少女は喜びの声を上げる。
「おおっ!」
「パチパチっ!」
「パチパチパチっ?」
何故か一同が拍手する状況になる。
「ふっと!」
暗黒竜を追いかけていた金髪少女が暗黒竜から降りこっちに近寄ってくる。
「止めてくれてありがとうなのだっ!我が名はリルムなのだ。クスラ家の長女なのだ!」
「クスラの領主の娘だったのか!?」
リルムの一言でグリードは驚きの声を大きく上げるのだった。




