Sweet dreams!
あなたは家に帰り、深く深く息を吐き出した。身体中から空気が抜けていくような、大きなため息だ。重い足取りで靴を脱ぎ、通勤用の鞄を置いて、スーツを着たままベッドに倒れこむ。ダイブした枕が呼吸を阻害してきたが、もう動きたくないくらい疲れていた。
あなたは思うーー今日は散々な一日だった、と。
朝から目覚まし時計は壊れ、寝坊をしかけるし、ダッシュで飛び乗った電車は満員で、しかも事故が起きたとかでしばらく止まってしまって結局遅刻だ。この時点であなたは今日はついていないと思っただろう。
やっとたどり着いた仕事場でもトラブルが頻発した。書類のミスから始まり、後輩もテンパってミスを積み重ねたりしただろう。そして最後はあなたが上司から叱られてしまった。あなたのミスではないが、フォローしきれなかったのは悪いと反省するかもしれない。それは自分のミスではないと反発するかもしれない。ただ叱られていい気分はしなかったことだろう。
その後も昼食を買おうとしたら何か困ったことが起きて食べられなかったり、やっと休憩できると思ったところで取引先から電話がかかってきたり、色々と大変で定時に帰れなかったり、帰路で何か大好きな食べ物を買おうと思ってコンビニに立ち寄ったらちょうどそれが売り切れてがっかりしたり。なんなら家のそばでネコを見かけて撫でようとしたら逃げられてしまったかもしれない。
今日のあなたの日常は、そんなちょっとついてないことがまとめてやってきた日だっただろう。
そんな散々な一日を思い返して、あなたは起き上がった。ため息をはき出しながらお湯を沸かす間、シワにならないようにスーツを脱いで部屋着に着替える。あなたはテレビをつけようかどうか迷ったかもしれない。結局すぐにお湯が沸いた。あなたは棚からお気に入りのお茶を取り出し、ポットにふた匙いれ、お湯を注ぎ、砂時計をひっくり返した。
お湯がぱっと鮮やかな青色に染まり、そしてゆっくり色が変わっていくのをあなたは眺めている。
砂がさらさらと落ちていくたびにあなたの心は穏やかになっていくことだろう。何もせず、何も考えず、ただ過ぎていく時間を感じるのはあなたが一番落ち着く時のはずだ。
さあ砂が落ちきった。くるくると花が踊っていたポットは静かになり、淡い黄色に染まっている。あなたはマグカップにお茶を注いだ。優しく広がった香りに、きっと笑顔がこぼれ落ちる。
あなたは少し冷めるのを待ってお茶を飲んだ。
今日は散々な一日だった。
だから、明日は今日よりもっと素晴らしい一日になると、あなたは素直に信じられるだろう。
Sweet dreams!(あなたに素敵な夢が訪れますように!)