現実世界と私のハロハロ
休日の日中、今日も親がお見舞いに来た。
しかし今日はいつもと違う表情をしていた。
いつもの悲しそうな顔では無く、不思議そうな顔。
「ねぇ、夢月。あなた、ずっとここに居たわよね?」
夢月というのは私の名前だ。しかし質問の意図が分からない。
「私が動けないの知ってるでしょう」
「あ、ごめんね。…そうじゃなくてね」
「何よ」
母親は少し躊躇ったが喋りだす。
「夜中にね、…おかしな事だとは思うのだけど、車を追い越して走る病衣服の女の子の目撃がたくさんあったの。その特徴があなたに似てるらしくて、それにほら、病衣服の女の子なんてそうそういないし」
「…え?」
そんなばかな、私はずっとここに居た。
…車を追い越した?…そんな…ばかな。あれはただのイメージだ。
「ご、ごめんね、ほんとごめんね。そんなはず無いのにね、そもそも車より早く走るなんてオリンピックの選手でも不可能よね」
「…そ、そうだよ。私…動けないのに」
「うん、ごめんね」
「謝りすぎ」
「…ごめん」
「はぁ…、ところで、今日は朝渡は?」
「…え?」
母親は父親と顔を見合わせると父親が喋りだした。
「あ、あー。朝渡なー、朝渡は家にお…お留守番だ」
「まだ6歳なのに、大丈夫?」
「おー…、うん。そうだな、心配になってきた。今日は帰るよ」
「そうね、そうしてあげて」
朝渡は来なかった。やっぱりあれはただのイメージだったんだ。
私に都合の良い幻影。
ばかばかしい…。
太陽の暖かな日差しを浴びていると眠くなる。
やはり寝るのなら夜よりも日中だと思う。
微睡みの中、ふと思う。…日中でも、あの遊びはできるのだろうか。
夢と現実を混ぜる遊び。ハロハロ。
寝てはいけない、起きてはいけない。
歩ける自分をイメージする。それを病室へと投影し、意識を移すイメージ。
そう、たかがイメージ。人に見えるはずなんて無いし、実際にそこに存在する訳が無い。
…私は病室に立っていた。
「できた、…なんだ、夜じゃなくても出来るのね」
これで外に出て騒ぎにでもなればはっきりとする。
私は病室から出ていく。病院の中を歩き回る。
久しぶりに歩く昼の院内だが特に感慨は無い、まぁ、そんなものだろう。
それに誰も私に興味を示さない。
看護師さんの目の前に立っても目線が合わない。
まるで幽霊にでもなった気分だ。
チチ…チチジジジ
?
景色が急に赤みを帯びる。夕方?突然?そんなばかな。
いや、ここは私のイメージ。そんな事もあるかもしれない。
ジジジジジジジジジ
ノイズの様な音、景色は更に赤みを帯びる。
ズル…ズル…ズル…
何かが這う様な音。音は病棟の通路の奥から。
私はそっと覗き込み、そして覗き込んだ事を後悔した。
病棟の通路の奥からズルズルと這ってくる、黒く、巨大な…ミミズの様なもの…。
「きゃあああああ!!」
ハロハロを終わらせるのは簡単だ、寝れば良いし、起きれば良い。
私は慌てて目を覚ました。
ここは自分の病室、外はまだ明るかった。
「…ハー!……ハー!……はぁぁぁ…」
なんだあれは、今までこの遊びをしてる最中にあんなものは見た事が無かった。
日中にやったからだろうか、日中と夜中では違う事が起こるのだろうか。
実は危険な遊びだったりしないだろうか。
まさか…ね、悪夢を見たのと同じ様な現象がハロハロでも起こるだけかもしれない。
その証拠に何事も無く一日が終わった。
やはりハロハロ中の自分が現実世界で目撃されるなんて何かの間違いだったんだ。
あれはただのリアルなイメージに過ぎないんだ。
でもまたハロハロ中に何か出てきたらどうしよう。
そうだ、またチーターになって逃げれば良い。
朝渡は言っていた。チーターは一番足が速いと、それなら逃げきれないはずがない。
可愛い弟が他にも強い動物を教えてくれていた。
大丈夫、弟が言うんだからそれらはきっと強いんだ、大丈夫。
ミミズの正体は…秘密にしておきませう。
畑のドラゴン!