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第8話

日が暮れてしばらくたつと、族長宅の周囲は真っ暗になった。それぞれの家をともす火は家の出入口や喚起口からわずかにのぞくだけでほとんど見えず、村の入口を照らす2箇所の大きな火が小さく闇に浮かんでいる。今夜は月も空高くにあり、明るい光を照らしてはいなかった。

カレブと夕食をとった後、ネデルはちびちびと時間をかけて食後に出されたハッカのお茶を飲んでいた。ずいぶんと前にそれを飲み干したカレブは、小枝の繊維を使って歯を丁寧に磨いていて、鼻歌さえ出ていて上機嫌だ。

牢へ行くのをできるだけ後に引きのばしたいネデルは、ついに終わってしまったお茶の容器を置くと、時間を稼ごうと、自分用の小枝を探して室内を見渡した。

『おい!闇にまぎれて何かをするには、そろそろいい時間だぞ!』

ネデルが手を伸ばしてつまんだ小枝を払いとばし、カレブがいらついたように言った。がっくりきて、ネデルは渋々うなずいた。

『早くしろ!異人が眠る前に、この目で見てみたい』

あの異人、さっさと眠っていてくれたらいいが。

ネデルがのろのろと立ち上がる一方で、カレブは期待に目をきらめかせ、跳ねるように立ち上がった。

・・・夜の闇であんな気味の悪い瞳を見るのは、私はごめんだ。


目立つという理由で明かりの火は持たず、二人は外の夜の闇へ体を溶け込ませた。牢は村の西の果てにあるが、カレブの家からそれほど距離はない。風と砂が舞う音しか聞こえない、静かな夜だった。彼らは用足しに出た村人に遭遇しないことを祈りながら、足早に目的地へと向かった。

牢の建物前には男が2人で番をしていた。男たちは眠そうにあくびをしては、空や周囲をのんきに眺めていた。

周囲に人家がない地区にある牢小屋に近づいたカレブは、その存在を隠そうとはしなかった。明かりに照らされた持ち場からネデルと族長の姿を見つけた1人の牢番が、びっくりして口を開けている。ネデルは男に黙るようにさっと手で合図した。男は相方にも来訪者を知らせ、黙るようにと告げた。

『何事です?』

周囲が静か過ぎるため、牢番は押し殺した声で、やって来たネデルに尋ねた。

『所用で来た。とおせ』

牢番たちは彼らを止めようと考えたらしいが、一族の長がやることに反対できるはずもなく、部下ネデルの気迫に押されて道をあけた。ネデルにつづき、カレブが大股で建物内に入っていく。

入りしな、ネデルは守番たちに釘をさした。

『我々がいる間、誰も通すな。いいな?』

『はい』


突然の侵入者におどろいた牢番が、通路の先で立ち上がった。自分の持つ明かりで予期せぬ侵入者の顔を照らした彼は、ネデルと族長の姿を見てぎょっとなった。カレブは人々から特に畏れられているため、牢番は自分がヘマをして制裁をされるとでも思ったらしい。男は地面にへなへなとひざをつき、2人に対して必死に祈り出した。カレブはあきれ、小さく息をつく。

『牢番?立て、おまえ!』

声を低くし、威圧的にネデルは男を叱咤した。

『お、お許しください!何をしたかわかりませんが、俺は本当にばかで・・・』

『何を訳のわからないことを言っている!それより、ここを開けよ!』

『えぇ?』

男はぽかんとしてネデルを見上げ、視線を移動して隣のカレブを見た。カレブが男をじろっと見た。

『はあ、ええぇ、すぐに開けます、はい!』

男は服の中から鍵束を取り出し、格子扉の鍵にそのうちの1つを差し込んだ。

異変を察知した捕虜たちが動揺し、にわかに囁き出す声が暗闇の空気にのって伝わってくる。カレブは身を乗り出して格子扉の向こうをのぞきこんだが、人々の気はいはするものの、はっきりとは見えない。乱暴らしい異人の、怒鳴り声も叫び声も悲鳴もしない。

『・・・どこだ?』

カレブはネデルを見たが、彼は気後れしたようにその場に立ちすくんでいた。

『見れば、すぐにわかります』

格子扉が手前に開けられた。

カレブは足を踏み出そうとして、隣に立っているネデルの瞳の中にありありと浮かぶ恐怖を見てとった。牢番も、誰に対する恐怖かはわからないが、音がするほどにひざを震わせていた。

・・・それほどにその者は危険なのか?

腰につけた短剣の位置を再確認し、カレブは危険へ対面するための心構えをした。だが、好奇心の方が勝っている。

『俺が1人で見てこよう。おまえたちはここにいろ』

牢番は言われなくてもそのつもりでいたようだ。ネデルは反発しようとしたが、足が地面に固定されているように、微動だにしなかった。

カレブは半分あきれ、ネデルをそこへ置き去りにした。

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