表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
54/62

第54話

『ネデル、答えなさい』

 ネデルは、彼女の後ろに立つカレブの幻影に命令された気がした。

 彼女の瞳には以前から視線合わせられなかったネデルだが、今の彼女に視線を合わせでもしたら目が焼けただれそうにも思えた。

 何なのだ、たかだが異人の女ではないか。なぜ俺が命令されなきゃいけないんだ?

 ネデルはイライラして、顔をしかめた。

『おい、おまえ!――そうだ、おまえだ!』

 ネデルに呼ばれた牢小屋の男はきょろきょろとして左右や後ろを見ていたが、彼に指を差され、驚いて見返した。

『おまえ! この女を早くヨーダ様の元へお連れしろ!』

『え? わ、私?』

『ああ! ぐずぐずするな!』

 けれど、彼女に顔を向けて彼女の注意を引いてしまった男は全身をひどく震わせ、大きく頭を振った。

『いえ、いいえ! 私にはとても・・・・・・とても無理ですよ!』

『おまえ、女相手に何を言っている!? こいつに触ったからといって害があるわけではない、さっさと俺の言うことに従え!』

 ネデルが怒鳴ると、男はマーシャをちらっと見て、すぐに顔をそむけた。ネデルが怒ったように鼻息を荒くすると、仕方なく、男は彼女との間合いを詰めて近づいていく。


 彼らの様子を観察していたマーシャは、ネデルの命令で近寄ってくる男も、地面に座って青ざめている男も、自分を相当恐れているのだと簡単に気がついた。彼女が捕らえられた時も今も、自分では決して手を下そうとしないネデルは、実は心の中では彼女に触りたくないと思っているのだろう。

 男が数歩先まで近寄ってくるのを待ち、マーシャは視線をネデルから彼にいきなりぶつけた。彼女の注意が向けられたのに気づき、彼が恐怖の表情をたたえて立ち止まる。

『私に触るな』

 男の目が彼女に向けられると、彼女はカレブの笑い方に似せて小さく笑った。

『私に触るな。いいな?』

 彼女がそう告げると、男は体を硬直させ、言葉を失ってうつむいた。そして、神妙な表情をして地面にひざまずく。

 『おまえ? ――何をしている!?』ネデルが叫んだ。


 マーシャは目下の者に対しての口調が身に付いたカレブから全ての言葉を覚えたために、威圧感を与えるという意味において、それは今、非常に効果的に働いてきた。

 彼女は男からネデルに注意を移した。

『ネデル、カレブはどこ?』

 しかし、今度ばかりは、ネデルも怒り狂ったように彼女をにらみつけた。

『おまえが心配することではない! おまえは、おまえは、ただの生け贄なんだ!』

『生け贄?』

 彼の言葉に反応して彼女はすっと真顔になった。

『必要ない。儀式は不要、雨は降る』

『!? 何を言う!』

 ネデルが真っ赤になって叫んだが、牢小屋の守り番も鍛冶屋の男も何かに打たれたように顔を上げ、その次にはひざまずいて彼女に頭を垂れていた。男たちの行動に仰天したらしいネデルは二人に駆け寄り、体を揺さぶって彼らを罵倒した。

『おまえたち、こんな者に何をしているんだ! こいつは異形、儀式の生け贄だぞ!? 神や祈祷師ではない!』

 だが、ネデルの説得に男たちは見向きもしなかった。

『おお、なんてザマだ! こいつは守り神などではないのだぞ!』

 吠えるようにネデルは叫び、男たちの体を力任せにたたき、足で地面を踏み鳴らしたが状況は変わらなかった。

 彼が奇声を発してマーシャに振り返った。その彼の視線を待っていたかのように、彼女は彼の視線をゆったりと受け止めた。彼は怯えた様子を見せたが、発狂したように再び言い放った。『おまえが何と言おうと、おまえはヨーダ様への貢ぎ物だ!』


 使い物にならなくなった三人の男を見捨て、ネデルがつかつかとマーシャに近づいた。彼女が近寄ってくる彼を悠然と見返すと、彼は余計に彼女に怒りを燃え上がらせたようで、耳までを真っ赤にさせて彼女をにらみ返した。

『おまえなどに心を奪われる、カレブ様の気が知れん!』

 マーシャの正面に立ったネデルがそう言い放ち、それがカレブへの悪口だとピンときた彼女はネデルをきっとにらみ返した。激しい怒りを含んだ瞳に彼の膝が震えるのに彼女は目ざとく気づいたが、彼は唇を噛み締め、後ろ手に縛られている彼女の腕をつかもうと手を伸ばした。

 その瞬間だった。

『あうっ!?』

 バチッと大きな白い火花が二人の手の間に飛び、ネデルがびっくりして後ろへ飛びのいた。

『おお、なんと!? 天の神が怒っておられるぞ!』

 鍛冶屋がもらした声にネデルが口惜しそうに後ろを振り向いた。捕虜たちも今の光景に息をのみ、驚いているようだ。

『そんなばかな! この女が神であるわけはないだろう!』

 彼がもう一度マーシャに向き直ったが、彼女へと伸ばしかけた手は彼女の体になかなか触れられない。

 彼女は、平然としていた。その白い光が静電気だと知っている彼女は、人々の反応に目を配りながらネデルの様子を覗っていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ