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第48話

 長老たちが村の老人たちとしゃべっている中、カレブとネデルの前にヨーダの一番年下の弟子である女がひょっこりと顔を出した。

『何だ?』

 カレブが威圧するように彼女を見下ろすと、小柄な女は族長に素早く挨拶をして、ネデルに囁いた。

『ネデル様、生贄の者どもが暴れて、連行に手間取っております。ネデル様のお手を借りに来ました。どうか、私と一緒に来て助けてくださいまし』

『・・・・・・他の者にあたってもらいたい』

 焦点の合わない瞳をピラミッドの方へ向けてネデルが呟くように答えると、女は小さく息をのんだ。

『ネデル様、どうか・・・・他の者は皆、あの者どもに触りたがらないのです』

 女が迂闊にカレブをちらっと見てしまい、彼をむっとさせた。あわてて彼女は頭を下げ、口を聞こうともしないネデルの様子をうかがいながら、尚もくいさがった。

『ネデル様、あの者どもがいなければ儀式が進行いたしません。どうか、お願いでございます』

『女――』口を差し挟もうとした矢先、ネデルが嗚咽に似た声を発したのでカレブは言葉を止めた。

『・・・・・・もういい。他の男がいるだろう・・・・・・』

 女はさっきの義弟と同じく、非常に困惑した表情を浮かべてネデルを見上げた。そうして彼を見つめた女は、彼が頼りにならないと悟ったのだろう、カレブにお辞儀をして、人の群の中に舞い戻って行ってしまった。カレブはネデルを疑わしそうに見つめた。


 人がますます増えてきた式場内で背後に人の熱気を感じながら、カレブはいまいましそうに空を見上げた。空はさっきよりも低くなっている。

 大長老が和やかな笑顔を浮かべてやってきて、二人に声をかけた。カレブは素っ気なく挨拶を返した。

『おや、あれは――?』

 二人の背後に視線をやり、大長老が言った。カレブが振り向くと、ネデルがさっき追いやった弟子の女とネデルの実弟オルウェンが並んで二人の方に歩いてきていた。

 オルウェンはネデルと違って快活で気のいい男で、体は大柄でもないが女たちにも人気がある。人々からの頼みをめったなことでは断らないので、弟子の女も彼を思いついてネデルの代わりに頼んだのだろう。

『大長老、族長! 兄様!』

 彼はにこやかに三人に挨拶をし、気まずそうにカレブから顔をそらす弟子の女の隣で歯を見せて笑った。大長老はにこやかに、カレブは慎重に返事をし、ネデルは弱々しく頷いた。

『兄様!』

 オルウェンは兄の異変に気づきもせず、ネデルの肩をぐいっと引いた。

『ここで何をしているのですか、兄様! 一緒に祈祷所に行きましょう』

 カレブがはっとして眉をひそめたが、ネデルはふてくされた顔をして弟の手からすっと逃れた。

『兄様? 勇敢なあなたが行かなくて、誰が行くのです? さあ!』

『向こうへいけ』


『――なんじゃ、祈祷所? 何の話だね?』

 長老の横やりが入り、カレブは彼をさっと見た。弟子の女はあくまでカレブから目を背けている。

『ああ、大長老。今聞いたばかりなのですが、捕虜どもがひどく暴れていて、まとめられないそうなのです。もう少ししたら式場へ連行しなければならないというのに、誰も手を出したがらず困っているとのことですよ』

『それは大変なことではないか! おお、ネデル、ここは是非に行って皆を助けてやりなさい。ヨーダ様のためにもう一肌、脱いでやりなされ』

 ところが、ネデルは恐怖とも焦りともとれる形相で弟を見て、カレブの体の後ろに急いで隠れようとした。その時になって初めて、オルウェンも兄の態度がおかしいことに気づいた。

『兄様?』

『――大長老、ネデルは少し疲れているようで・・・・・・』

 カレブがネデルをかばうように彼を後ろ手にまわすと、大長老は憤慨して語気を荒めて言った。

『おお、族長、そのような庇い立てはネデルの身にならんぞ! 彼は毎年、何らかの役目を当日に任されておるではないか。いくら昨夜帰宅したばかりとはいえ、甘えは許されん身だ』

『いや、だが』

『ネデル、さあ、早く行っておまえの役目を果たすがよい。こんな所でのんびりしておって、儀式に支障でもきたしたら大変なことだ。おまえたち、ネデルを一緒に連れて行きなさい』

 カレブが制止する間もなく、大長老のしわだらけの手がネデルをカレブの後ろから引っぱり出し、ネデルは弟と女の腕に引き渡された。彼は怯えてひどく動揺した表情でカレブをすがるように見つめたが、大長老の前でカレブは口出しができなかった。


 大長老に急き立てられ、オルウェンに引っ張られるようにして式場の入口に消えていくネデルの姿を、カレブは歯噛みをしながらまんじりともせず見送った。

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