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第45話

 いきなり寝室の入口をふさいだ人影に、カレブはそれまで寝転がっていたマーシャの膝から飛び起きた。彼女を自分の体の影に隠すようにして、彼が立ち上がる。

『ぎぃええ〜〜〜っ』

 ネデルの目に、確かにあの“魔”の瞳が映った。

 カレブが女の膝から立ち上がる寸前に、その紫の両目もネデルをとらえ、驚きでさらに目が大きく見開かれていた。


 あまりの驚きに思わず逃げようとしたネデルの服の襟をカレブの手が後ろから引っ張り、ネデルがバランスをくずした。ネデルの体があやうく通路の上に落ちていきそうになったところをカレブの手がその胸ぐらをつかみ、彼は壁に上半身をたたきつけられる。ネデルがぎゃっと叫んだ直後、首筋にカレブの左手が伸び、ネデルの後頭部が壁にぶつかる音がした。その拍子にネデルの耳の後ろが切れ、血がにじんだ。

 ネデルが血走った目をずらすようにしてカレブに視線を向けると、彼は狩りの際のような闘争心を剥き出しにして、怒り狂った形相でネデルを睨みつけていた。

『盗人のような真似を!!』

 カレブは腕に力をこめ、ネデルの首に押しつけた手を上に軽く動かすようにしただけで彼の体を宙に浮かせた。カレブの左のこめかみに太い青筋が浮き出ていた。

『おまえ! こんな事をしてただで済むと思うな! よくも主人の俺に向かって舐めた真似を!』

『・・・・・・レブ様・・・・・・あの女・・・・・・?』

『だまれ! そんな事を一言でも口にしてみろ、おまえの首をへし折ってやる!』

『なん・・・・・・正気・・・・・・ああ!』

 カレブがさらにネデルの首を絞めたので、彼は苦痛に顔をゆがめ、空気を求めて何度もぜいぜいと息を吸おうとした。それでもカレブの力はまったく弛まず、ネデルは恐怖で顔をゆがめた。

『カ・・・・・・ブ様・・・・・・』

 その時、通路の先に大きな足音がした。

 カレブは振り返って二人の護り番が走ってくる姿を見たが、ネデルを持ち上げる力を決してゆるめはしなかった。走ってやって来た護り番たちは尋常ではない二人の姿に驚愕し、二人の手前で急停止した。

『向こうへ行っていろ!』 

 二人が口を開く前にカレブが吠えるように怒鳴った。

『は、はいっ』

 男たちは彼の腕に拘束されているネデルの青ざめた顔を一瞥したが、一族最強の男であるカレブの血走った目と気迫に怖気づき、我先にとあわてて退散していった。そして外に出た彼らは、家事部屋の前で立たされている召使女たちを見つけ、彼女たちの所に走って寄っていった。


 邪魔をするものがなくなったカレブは、彼の腕の下で逃げようと暴れるネデルに視線を戻した。

『ど・・・・か、お静まり・・・・・を・・・』

 彼はネデルの首を片手で押さえ、片手で彼の両手首を壁との間に押さえつけた。

『これが平気でいられるか! 俺は部下に侮辱されたのだぞ!』

『わ・・・・・心配を・・・・!』

『おまえは自分の身だけ心配しろ! さあ、おまえをどうしてくれようか?』

『・・・・言いま・・・・・・せん』

『おまえの言葉など信じるか!』

 カレブの取り出したナイフの光る刃先を見たネデルは身震いし、だらしなく口を開けて目をそむけた。

『おまえがこの件を皆にしゃべれば、俺は族長を追われて終わりだ。おまえは俺が嫌いだからな、そうするだろう。ただ、それをしたと同時におまえも終わりだ。それがなぜか、おまえもわかっているな? おまえはヨーダに背き、俺に三度も加担した。おまえが言い逃れしたくとも、牢番はおまえが彼女を連れ出すのを見ているし、おまえは“生娘の間”の合鍵も持っている。おまえもおまえの一家も、一生呪われた者として残りの人生を生きていくことになる』

 ネデルが驚いて怯えきった視線をカレブに向けると、彼はにやりとほくそ笑んだ。

『おお・・・・・カレブ様・・・・・・!』

 ネデルが悲痛な声を出すと、カレブは無言で眉だけ上げて、また笑った。

『来い、ネデル! 儀式前日に不吉で粗暴なふるまいは俺もしたくない。だが、今夜はおまえをここから出す訳にはいかない!俺の事を言いふらしておいて・・・・・・一家で逃げ出されたら困るからな』


 物でも運ぶかのように軽々とネデルの体を引きずり、カレブは彼を控え室に放り入れた。それから、さっき追いやったばかりの護り番たちを大声で呼びつけると、緊張している彼らにネデルの手足を縄で縛らせるように命令した。護り番たちは一言も口をきかず、ネデルの口も布でしばって声が漏れないようにした。ネデルは恨めしそうにカレブや護り番たちを見上げたが、自由がきかない体をさらに椅子にまで固定されてしまい、身動きがとれなかった。

 護り番の一人を同じ室内で見張りにつけることにし、カレブは晴れ晴れとした顔になってネデルを悠々と見下ろした。

『明日になったら縄を解いてやる。ここから俺と一緒に儀式に向かえばいい。心配するな、おまえの家にはちゃんと伝言しておいてやる』

 ネデルはあきらめたように目を伏せ、カレブの言葉に何の反応もしなかった。

 カレブは護り番にも彼をしっかりと見張るようにとくぎをさした。それから護り番によって自由になっていた召使女を呼びつけ、ネデルの家に行き、彼は族長宅で重要な話をしているので明日の儀式には族長宅から直接行くと伝えるようにと命じた。

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