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第43話

 ネデルが大長老宅へ帰宅の報告をするというので、カレブは途中まで彼と一緒に歩いていった。ラズリの採掘は予想外にスムーズに進んだので予定量をすぐに満たせた、とネデルがカレブに話す。大地の法則にのっとって必要以上の量は採掘せず、ネデル一行はすぐに帰宅の途についたのだ。ラズリを目にしたヨーダの弟子たちも喜んでいた、とネデル自身も嬉しそうに言った。ネデルは名誉ある役目を果たせたことに喜んでいるらしく、カレブと話す間、彼はずっと笑っていた。


 大長老宅に着くと、外で掃除をしていた家の者が二人に気づいて家の中にいる大長老に知らせに走った。ネデルとそこで別れるつもりだったカレブは、大長老と顔を会わせて行く、とネデルに告げていた。二人はほとんど待たされることなく大長老に面会を許され、彼のいる部屋へ通された。

『おお、ネデル殿! 帰ってきたか!』

 彼の顔を見るなり、大長老は大喜びで彼にそう言った。

『はい、無事に戻ってまいりました。ラズリも先ほど祈祷所に預けてきたところです』

『そうか、そうか! ご苦労であった! これでヨーダ様もお喜びであろう。ああ、わしも一安心じゃ!』

『ええ、これで明日の儀式を待つばかり・・・・・・私も安堵しております』

『本当によかった。なあ、族長殿?』

 カレブが唇の両端を上げ、硬い笑顔を見せた。


 残りの長老たちには自らが報告をしに行くと大長老が言い張るので、三人は明日の朝ここに全員集まることを約束し、彼らはそろって大長老宅を出た。村を南下して行く大長老を道の交差点で見送った後、ネデルはカレブの自宅へ向かおうとしていたがそれをカレブが止めた。

『ネデル、おまえはもう家に帰れ。明日の儀式の件で俺たちが準備しておくことは、今はない。明朝大長老の家に集い、式場に行って儀式を最後まで見守ればいいだけのことだ。今日はもう早く家に帰り、明日に備えて休養しろ。俺も今日は早く寝つくつもりだ』

『は・・・・・・それは有り難い事ですが、本当によろしいので?』

『もちろんだ。おまえは外出先から帰ったばかりだ、明日の儀式中に不調にならないよう、しっかり休養しておけ』

 ネデルはびっくりした顔でカレブを凝視した。

 カレブの表情は真面目で口調も穏やかだ。ふざけているふうでもない。ネデルが山の近くでしてきた採掘作業は重労働ではなかったが、それに先立つ人狩りなどで、ネデルは外出が続いていた。

 ネデルが不審そうな目つきをすると、カレブが心配そうな口ぶりで言った。

『おまえ、早く家に戻って休んだ方がいい』

 ネデルははっとして主人を見返した。

『そうですね・・・・・・明日の儀式はしっかりと立ち会わねばなりません。ありがたきご配慮にございます。明日はここでカレブ様とお会いすることとして、私は、今日はこれでさがらせていただきます』

『ああ、そうしろ。おまえの母親も心配していたぞ』

『おそれいります』

 ネデルはうやうやしく頭を下げ、カレブに何度も礼を言って自宅の方へと帰っていった。

 カレブはネデルの姿が小さく消えるまで静かに見送ると、やっと笑顔になって自宅へと足を向けた。儀式までの最後の夜は、誰にも邪魔されず、なんとしても無事にやり過ごさねばならない。

 村が明日の儀式にむけて興奮しているのとは反対に、カレブの足取りは重く、表情は暗く硬かった。


 ネデルが自宅へ戻る途中にある長老宅の玄関先で、カレブの召使女の一人がそこの嫁と話しこんでいた。それを目にしたネデルは、主人に明日の儀式で着る衣装について尋ねる点があったのをふと思い出した。

『ああ、俺としたことが!』

 彼は自分の忘れっぽさに毒づくと、向きをくるりと変えて引き返した。

 太陽はもうそろそろ地平線に顔をつけようという頃だった。

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