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第42話

 人々があわただしく行き交い、儀式の準備が着々と進められている。ピラミッドの方を見つめているカレブの表情が険しく硬い。視線はそこから動かず、何かを考えている様子だ。

 彼が石のピラミッドに背を向けて空を見上げた。日が暮れかかってきている。西にある山の周辺に浮かぶ雲はまだ位置を変えておらず、風向きも変わっていなかった。

 かがり火が風にたなびくのを見ていたカレブを見つけ、長老の一人が忙しく働く人々の間を縫って彼に近寄っていった。

『おお、族長、来ていたのかね』

『まあ、少し様子を見に来ただけだが』

『順調なようですな。けっこうなことで』

満足そうに笑う長老とはちがってカレブの表情は晴れない。カレブは唇をおさえ、長老に黙って頷いた。

『残るは、ネデル殿の土産だけですな。暗くならないうちに戻ってこられればよいのだがねえ』

『あれは約束を守る男です。そのうち戻ってくる』

 彼はそっけなく言い、まだその場に残りたい素振りを見せる長老から離れ、祭壇の前から去った。

 忙しく動きながらもカレブの姿に目をとめた人々が道を譲り、彼に声を掛けていく。カレブの実兄の姿もあったが、彼は作業に従事していて弟に気づかないらしかった。カレブも人々の間にいる兄の姿を見つけたが足を止めることはなかった。カレブが族長となり、以前とは立場の変わった今は兄弟が親しく声を掛け合うことはない。カレブは無言で式場の出入口へと向かって進んで行った。


 式場出入口から北東に伸びる道の先にはヨーダや弟子たちの棲む祈祷所がある。儀式日のお告げをしたヨーダは“集中力を高める”ために、当日まで誰とも話さず、食事もせず、独立棟で式の開始時間まで一人でこもっている。三十年以上貫いている彼女のやり方だ。今頃は、彼女の弟子たちが村人の集めてきた貢ぎ物を再点検し、当日にそれらを現場へ運ぶ手順を人々に指南しているはずだ。

 カレブがその道をやり過ごして十歩ほど北上したところ、祈祷所に続く道から彼に足早に近寄っていく男がいた。

『カレブ様!』

 男は道をはずれて斜めに走り、カレブの歩く道の方へ駆け寄った。彼の部下ネデルだった。頬骨の上が赤く光っていて、日光を邪魔する障害物のない山肌での作業を通して、また一段と日に焼けたようだ。彼は歩みを止めたカレブに追いついた。

『カレブ様!』

『ネデル? おまえ、いつ戻った?』

『つい先ほどです。採掘したラズリを祈祷所に預けてきたところで。今から族長と大長老の所へ伺うところでした。ここで会えてよかった! ああ、カレブ様? 祈祷所で、儀式が明日に決まったと今しがた聞きました。私が間に合って幸いでしたよ!』

『ああ、暗くなる前に村に到着できてよかったな。他の者も無事か?』

『ええ、元気です。・・・・・・カレブ様、儀式の準備をご覧になってきたのですか?』

『そうだ』

 ネデルに続き、後ろの式場の方向を見やってカレブが言った。

『不備はなさそうだ。おまえが戻ったのなら、これで全て揃ったな』

『お役に立てて嬉しい限りで』

 ネデルがめずらしく、嬉々として興奮していた。祈祷師ヨーダに、畏怖というよりは尊敬と憧れの念をネデルが抱いているのをカレブは知っている。

 自分よりも格段と秩序を重んじるネデルが、敬愛しているヨーダに騙されていると知ったらどうするだろう? 

 尊敬は憎しみに変わるのだろうか? 

 カレブはふと思った。

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