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第28話

『・・・・・・来い。家にはまだ連れていけないが、少し外に出よう。今なら誰にも見つからない』

 顔をあげたカレブが彼女の二の腕をつかみ、扉の方へ引っ張った。

『ソト、イク?』

 カレブは返事をせず、マーシャを何日かぶりに外気にさらす。

 久しぶりに見た昼間の直射日光の眩しさに目がくらみ、マーシャは思わず目を強く閉じてしまった。腕や顔にあたる太陽はとても暖かで、彼女は自分が確かに生きているのだと感じた。カレブはマーシャの手を握り、彼女が外の気候に体を馴らすのを辛抱強く待った。

 やがて彼女がゆっくりと瞼を開くと、彼らは通路を歩き、階段を通って乾燥した土の地面に降り立った。彼女が懐かしいものを触るように地面に手を伸ばすのを見ると、カレブの胸はキリキリと痛んだ。


 二人は小屋の北側に場所を移した。小屋の北側はまったく何もない、低木と乾燥に強い雑草が蔓延した、ただの空き地だ。並んで壁に体をあずけ、二人は澄んだ空気を胸いっぱいに吸い、午後の太陽の日差しを全身に浴びた。マーシャが手を伸ばして彼の手を握りたがったので、カレブはそうさせた。彼女の無垢の笑顔は彼を虜にした。

「ねえ?」

 マーシャはカレブの黒く光る目をのぞいた。

「聞いて。私は22世紀から来たのよ。ここには、どうしてか解らないけど、過去から現在に移動する途中に紛れ込んじゃったみたいなの。私の家族は私を心配して探しているはずで、そのうち救出されるはず・・・・・・と思うの。だけど、私がもしここに一生残らなきゃならないのなら、その時は、カレブの側がいい。ここの生活はわからないし、言葉も知らないけど、カレブがいてくれれば私はきっと寂しくないと思う」

 彼は彼女が言っていることを理解したいと思ったが、途中で口を挟もうとするのはやめた。自分を見つめて話してはいるが、彼女が自分自身に言い聞かせているように感じたからだ。

 彼女が話を終えると、代わりに彼は微笑んだ。彼女はそれを目にすると照れたように笑い、何かを言いあぐねた末、地面にしゃがみこんだ。彼もそれに倣って彼女の隣に座る。

「あのね。私がもしここにいるのなら」

 彼女は自分の胸をたたき、続いて地面をたたいた。それから近くにあった小石を拾いあげ、地面に絵を書く。

「これが私、こっちがカレブ」

 興味深そうにカレブが眺めていると、彼女の手によって男と女の簡単な絵が描かれた。彼は苦笑して彼女を見る。

『俺とおまえのつもりか。それで?』

 彼女は楽しそうに笑いながら、二人の絵の横に四角形を書き、中央に扉の図を付け足した。この村にある典型的な造りの家だ。そのあと、彼女は絵の二人が立つ間に丸を描き、下に伸びる線を書いていった。人間のようだ。

 カレブは、何となく彼女の言わんとしている先がわかって顔を微妙に強張らせる。

 彼女の手は小さな人間を描きあげた。


「私がもしここにずっといるのなら」

 カレブの表情の変化に気づかず、マーシャは自分と地面をたたき、両手で糸を引くような仕草をした。

 マーシャがこの地に長くいる・・・・・・?

『ワカラナイ。デモ』

 カレブは慎重に彼女に頷いた。

『おまえがこの地に長くいるかどうかはわからない、でも?』

 唾を飲んでカレブがマーシャの言葉の先を待っていると、彼女はもう一度地面をたたきながら続けた。

「ここにいるのなら、私はあなたといたい」

 言葉はさっぱりだったが、彼女の訴えるような様子から彼はマーシャの伝えようとしたことが直感でわかった。彼はマーシャの描いた、家と二人と一人の子どもの絵を見た。それは、この地に長くいるのならば彼とずっと一緒にいたい、という意味だ。心臓がぎゅっと締められる気がして、喉の奥がつかえた。

 それは俺だって同じだ、できるものならば!


 彼の動揺を見てとったマーシャは、自分の伝えたことが理解された上で彼の動揺に繋がったことを悟り、彼女が今した事をすぐに後悔した。彼も自分と同じ気持ちだと思っていたのは錯覚だった? 会話を完全に理解し合っているわけではない二人なので、それは充分に有り得ることだ。彼女は自分の間違いを恥ずかしく思って、激しく傷ついた。

 最後の助けを求めるように彼を見たが、彼は困惑して口をつぐんでいるばかりだった。彼女は、勝手に自分に都合がいいように想像した自分自身に腹が立ち、そう思わせた彼にも腹が立った。マーシャは、自分が書いた一連の絵を、手で一気にこすって消した。

『ゴメンナサイ』

 彼女はさっと立ち上がると、驚いている彼を残して小屋の表の方へ歩き去った。カレブはあっという間の出来事に唖然とし、だが、すぐに立ち上がって彼女を追いかけた。

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