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第25話

 カレブは自分の肩をつかむマーシャの指を一本ずつ優しくはがした。

『マーシャ、爪をたてるな』

「え?」

『爪』

 彼は彼女の指先に口づけ、その爪を自分の二の腕にくいこませた。肌がへこんで痕がつき、カレブはわざと顔をしかめてみせる。

『爪が痛い』

「ごめんなさい」

 彼の意図することが伝わったのを見て、カレブは微笑んだ。

「ダイジョウブ」

 そして、彼女が謝るのを何度か聞いて知った言葉に対応する言葉を発した。彼の笑顔を見て、彼女もふっと力を抜いて笑う。

『背中にもおまえのつけた傷がある。俺も気づかなかった。ネデルにそれを見つけられた時には焦ったが、あやつは何も気づいていない。間の抜けた男だ、自分が鍵を持っているから、俺がここに来られないと思っているんだからな! 長年ここの合鍵を保管していた俺が、もう一組鍵を作って持っているとは想像にもしないらしい』

 彼は独り言のようにしゃべってしまい、置いてきぼりをくらったマーシャが不満そうにカレブをにらんでいる。彼は口をつぐみ、申し訳なさそうに彼女を見た。

「何?」

 彼女が手を伸ばし、カレブの鼻をつまんだ。

『悪かった、何でもない』

 彼の鼻が左右に揺さぶられた。

『わかった、わかった!』

 カレブは悲鳴をあげ、彼女の隣にうつぶせに体を横たえた。右手は彼女の背にそえられたまま、反対の手を使って彼は自分の背中についているはずの傷を指し示した。

『見えるだろう?』

 彼女は、カレブの肩甲骨の上に流れる二本の線を見た。

『ツメ?』

『そうだ』

 その後に自分を指差す彼女を見て、彼は大げさに悲しそうな顔をして彼女の注意を引く。

「イタイ」

「ごめんね」

 素直に謝られ、カレブの胸がきゅんと痛んだ。心配するな、と彼女の腰を軽くたたくと、彼女の元気がよみがえってくる。


『ネデル、見た』

「・・・・・・ネデルに見られたの?」

 彼女は驚いて、そして表情を曇らせた。カレブも記憶力と勘はいい方だが、彼女の吸収力はおそろしく早い。彼が端的に彼女が覚えた言葉を繋げれば、ほとんどの場合に彼女に正しく理解され、的確な反応が続いた。

「バレたの?」

 彼女が自分たちの両方を指差すのを見て、カレブにも彼女の心配がわかった。彼は彼女の前で首を振った。

『ネデル、知らない。俺が、鍵、知らない』

 頭の上にある鍵を指差し、カレブがそう言葉をつなげると、彼女の強張った顔がほぐれていく。

「よかった」

『だが、おまえをいつまでもここに置くのは危険だ』

「何?」

『おまえをここには置けない』

 彼はいきなり口をつぐみ、口を手でおさえて彼女から目をそらせてしまった。彼女が腕をゆすっても振り返らない。

「カレブ、どうしたの?」

 彼女は体を移動し、彼の肩に顔をのせた。それでもカレブは振り返らない。

『コワイ?』

 カレブはビクッと体を震わせて彼女にゆっくり振り向いた。

「怖いのね」

 彼女はうつむき、そして、再び彼に視線を合わせた。

「私だって、怖い」

 彼女自身が傷つけた彼の肩甲骨に指をのばし、彼女は体重を移動して、その傷に唇をつけた。ひきしまった筋肉の感触に混じって、唇にひっかかる皮膚の傷。彼は甘んじてそれを受けていたが、彼女がもっと上部に頭を動かすと、彼女の顔を支えて離し、自分の体の向きを変えた。

『明日はおまえをここから出そう』

「何? 何て言ったの?」

 彼女を自分の体の上に移動させながら、カレブは力強く微笑んだ。

「アス、オレノ、イエ、イク」

 明日、俺の家に行こう?

 マーシャは息をのんだが、カレブの唇がすぐに襲ってきて何も考えられなくなってしまった。

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