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第21話

 夕日が西の空に低く傾き、見物していた少年の中の兄弟2人が帰っていった。それを機にカレブもやっと投げ槍の手を止め、少年たちは家に帰る時間が来たと悟った。賑やかに族長に別れの挨拶をし、彼らは元気に各自の家にと走っていく。

 結局、カレブが練習を終えるまで待っていたネデルは、主人の長槍を代わりに受け取ると、一緒に彼の家まで歩いていった。主人への疑いを完全につぶすまでは、気分がすっきりしなかった。

『最後までつきあわなくてもいいのに』

 自宅が見えた頃、あきれ半分でカレブがネデルの顔を見下ろした。

『カレブ様の投げ槍を久々に見られて、よかったです』

 カレブは肩をすくめた。


 二人が家の玄関に姿を見せると、護り番がネデルにちらっと視線を走らせ、主人に迎えの挨拶をした。召使たちが寄ってきて、汗だくとなったカレブにあれこれと世話を焼く。召使の手にカレブを引き渡したネデルはひと足先に居室に行き、主人の帰りを待つことにした。既に用意の整った料理が召使部屋にあるらしく、酸味のある果実の香りが鼻につく。彼は落ち着きなく、部屋の中央で立ち尽くしていた。

『ネデル』

 隣の控え室からカレブがひょいと顔を出した。

『えっ?』

『おまえはもう戻っていいぞ。今日は特に用事はない』

『は・・・』

 ネデルが少しうろたえ、視線をさまよわせるのを見て、カレブが不審そうに顔をしかめた。

『何だ、何かあるのか?』

『あ、いえ。・・・・・・その、今日、長老が来て・・・・・・』

『ああ、それなら聞いた。長老の家に寄ったのでな。おまえも行ったそうだな』

 彼が“生娘の間”に行っていたと疑っていたネデルは、拍子抜けした。

『そ・・・・・・うですか?ならば結構です。一応、お耳に入れようかと思っていただけなので』

 ネデルが明るい声となったので、カレブは納得して小さく頷いた。召使の女がカレブを呼んでいる。

『また明朝な』

 カレブは隣の部屋に首を戻し、ネデルは頭を垂れて帰宅の意を表した。ほんの少しでも主人を疑った自分をネデルは恥じた。

『ああ、ネデル?』

 居室の出入口をくぐろうとした彼を、再び主人の声が止めた。彼が何だと思って振り返ると、上半身がまだ裸のカレブが居室に入ってきた。ネデルも歩みを戻した。

『何か御用でしょうか?』

 カレブは頷き、ネデルの隣に立った。

『あの女に食事をやるのを忘れるな』

 はっとして主人を見上げるネデル。しかし、その顔には今朝未明にあったような、艶っぽい表情はなかった。

『しかし・・・・・・』

『捕虜を飢え死にさせる気か? そうなれば責めを負うのはおまえだぞ。他の者と同様に食事を与えておけ』

『は。ですが、あそこへ近づくのはどうも・・・・・・』

『おまえは文句が多いな。今さら、牢に戻すこともできまい。俺に行けとでも? 鍵を持っているのはおまえだ、おまえがやれ』


 そうだ。主人を疑い、それまで主人が保管していた鍵を自分が持ち帰った。

 主人カレブは、面倒なことに関わり合いたくないとでも言うような顔だ。ネデルがつい、湿ったため息をもらすと、主人がじろりと彼を見た。

 刺すような視線を向ける主人に抗えず、また、自分が行くことで主人を女から遠ざけられると考え、ネデルはしぶしぶ同意した。それを見たカレブはそっけない態度で、彼を帰した。

ネデルは、村が完全な暗闇で覆われるのを待ち、共同の食事を用意する棟に出向いて一人分の食事を受け取った。その足でマーシャの拘束されている小屋に行き、持っていた鍵で扉を開けて、中に食事を押し込んだ。ネデルが怯えるのを察したらしい彼女は、彼が来ても動こうとせず、ネデルはほっとした。

 主人の彼女への興味は目覚めと共に自然消滅したと考えることにした。

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