少女の憂鬱
「ねぇ、あの人かっこよくない?」
「全然。」
「じゃああの人。」
「帰っていい?」
「ちょっと聞いただけじゃないのよー。」
ハァ……と、私はため息をつく。椅子の背もたれに体重をかけ、慌ただしい人々をじっくりと見てから、テーブルに置いてあるコーヒーを飲む。そしてまた慌ただしい人々を見る。ここは喫茶店だ。都会の騒がしい騒音にまみれていて、とても不愉快な場所に位置している。喫茶店はもっと静かな場所に建てろ。 と、私こと、十鳳院サラは考える。
私は嫌々感を凄まじく出しながら、私の目の前にいる女、藤白アカネを見る。アカネは、恐ろしい程の男好きだ。好みの男を見つけたものなら、その場を放ったらかしにしてかけていく。初めて見た時は、嘘だろ…と呟いた。でも、実際慣れてみるとたいしたことはない。それに、アカネの目に留まった男に哀れみを感じることもない。なぜならこの女、そこらのモデルや女優並のスタイルと美貌を持っている。それを彼女の緋色の髪が、より一層ひきたてる。こんな女に声をかけられて嫌な男はいないだろう。中には嫌がるのもいるだろうが…。それより、
「私は仕事の話をしにきたんだけど。」
あぁっと、わざとらしく声をあげる。この女、忘れてやがったな。私は、腕を組んで睨みつける。
「そんな顔しないでよー。あんたに男ってもんを教えてあげようとしてるのにー。」
こいつ、酒でも飲んでるのかレベルの言い訳を、言い訳になってるのかも怪しいが、頬をふくらませながら拗ねたように言った。こいつ正気か。と、言わなかった私を褒めてくれ。
「プルルルルル。」
今までの雰囲気を壊すかのように、私の携帯が鳴り響いた。ポケットから取り出し、即座に電話の主の名前がかかれた画面を見つめる。電話の主は、私が出来るのなら絶対に会いたくない奴だった。
「アリア……。」
ポツリと呟く。アカネは、それを聞き逃さなかった。
「なになに?アリアさん?」
アカネが、携帯を覗き込んでくる。私は即座に電話を切った。何で切るのよーとか隣で聞こえるが知らん。私は財布を取り出し、コーヒー代をテーブルに置く。
「金払っといて。仕事の件は…あー携帯に送っといて。」
「オーケー。アリアさんによろしくね。」
満面の笑みで言ってくる。ちょっと怖い。はいはいと適当に相槌をうつ。私は椅子から立ち上がり、慌ただしい人の渦に入っていく。これから何があるのかを考えながら……。