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悲しいという感情が分かりません

「ダメです!会長、待ってください!」


と必死に抗議をするのは、ネオについてきていた青髪ポニーテールの女性だ。


「待っている時間はないんだよ、副会長」


「副会長?」


「ああ、そうだ。この人が副会長。一年のほとんどは初対面だろうけど、時間が無いから自己紹介は後にしてもらう。それで、来てくれるよね?ルウちゃん」


「緊急クエストっていうのは、このA区からC区に避難勧告が出てるやつだよな?勿論行くに決まってる」


「そう言ってくれると思ってたよ。詳しいことは道中で話すから」


「会長、待ってください!」


「おい、待てよ!」


俺とネオの意思が一致し、早速二人で教室を出て行こうとすると、副会長とリュウから止められた。ネオは心底面倒くさそうに振り向き、ため息を吐き出す。


「何?」


「これは大人数の命がかかった、重要な緊急クエストです。会長もそれは分かっているでしょう?」


振り向いたネオに最初に答えたのは副会長の方だった。


「分かってるよ」


「でしたら、何故私ではなく一年の宵詠ルウトなのですか?彼は経験も実績も浅い。このクエストに適任だとは思えません。それに、私だって防御系防御型です!魔物を倒すことは出来なくても、市民を守ることなら出来ます!」


副会長は前のめりになって、早口で言った。どうしてもこのクエストに参加したいのか、本気で俺のことを力不足だと思っているのか。

確かに、二つ返事でクエスト参加を受諾したものの、俺に任せられるであろう街の防衛がちゃんと出来るのかという不安はあった。状況は以前とは違う。あの時は、避難勧告など出ていなかったのだから。

レベル四の魔物が一体、街にあれほど接近したとしても、避難勧告は出ない。

裏を返せば、避難勧告が出た時はかなり危険だということだ。


「セリシュ、分かってないのは君の方だ」


セリシュというのが、副会長の名前らしい。


「君は確かに、不得意属性のない珍しい魔法使いだし、成績もいつだってトップだ。頭の回転も早いし運動神経や集中力も申し分ない」


「だったら……!」


「でもダメだ。君は弱い。だって機械人形がいないだろう。君が優秀なのは、人間としての素質だけだ。魔法使いとしての素質は、人並み程度だということだよ」


「でも、防御魔法だけは、宵詠には負けません!」


「ダメって言ったらダメだ。さて、次はリュウの意見を聞こうか?」


副会長はそれでも尚食い下がろうとしていたが、ついにネオは彼女を無視して視線をリュウへと移した。リュウは強い意志を宿した目でネオを見返す。


「俺も一緒に行く」


「はぁ……君もか。ルウちゃん以外を連れていく気はないよ」


「あ……」


ネオはまたため息を吐き出し、呆れたというように首を振った。そして、これ以上話す理由がないと判断したのか、俺の腕を引いて今度こそクエストへ向かおうとする。


「…滝本ゲン」


「?」


俺とネオの背中にかけられたリュウの言葉に、ネオが立ち止まった。


「三年生ならそれが誰なのか知ってるだろ?俺はそいつの息子だ」


「まさか」


ネオは振り返らずに言い返す。

滝本ゲンという人は、そんなに凄い人なのだろうか。


「そんな都合のいいことがあるわけない」


「どうかな。俺の機械人形は、滝本ゲンの機械人形の写しだ。しかも、九十パーセント以上のな」


写し……。

聞いたことがある。確か、別の機械人形から心臓移植をされた機械人形だとか。

機械人形は、人間でいう心臓の役割を果たしている心臓部という器官が破壊されるまで生きている。腕や脚がもげて動けなくなったとしても、死にはしない。そして、心臓部が生きているなら、新たに特別な方法で契約した機械人形の身体にその心臓部をはめ込み、続けて活動させることが出来る。その際に全ての記憶はリセットされるが、系統や得意などの能力や攻撃媒体、話し方や見た目は変わらない。

俺が知っているのはここまでで、九十パーセント以上という表現は聞いたことがない。


「どうする?迷う時間もそんなに無いんじゃないか、会長さん?」




「ご武運を」


というシェムの声を最後に、教室を出た。




「敵の規模は、歩行型のレベル四が二体、レベル三以下の雑魚が複数。参戦できる魔法使いはM区からO区を魔物から死守する」


俺、アイン、ネオ、ラピス、リュウ、シュンというメンバーを揃えた俺達は、走って王都の北側へと急ぎながら、ネオから話を聞いている最中だった。


「M区からO区っていうと、A区からC区の内側にある区域だな。確か、公園や普通科の学校がある所だ」


と、リュウ。


「避難勧告が出ているのはA区からC区なのに、どうしてM区からO区を死守するんだ?」


と、俺。

外側にあるのがA区からC区なら、魔物が飛行型でもない限り、最初に襲われるのはそこだ。

それなのに、魔法使いは何故一歩退いた区域を守ろうとするのか。


「それは……」


ネオは言いづらそうに全員から視線を外し、すっと北の方を見る。

嫌な予感がした。

そしてそういう予感は、簡単に的中する。


「王都は、A区からC区を見捨てる」


「っ……」


「区域外への避難が間に合わなかった人は、運が悪かったとしか言えない。この時期、四年生と力のある三年生は、四つのチームに分かれてそれぞれ東西南北へと遠征を行う。そこで王都周辺の魔物を一掃しておくんだ」


「北に向かったチームは何してるんだよ、結局手薄になった王都が襲われるんじゃ意味無いだろ!」


ネオを責めるようなリュウの疑問への回答も、薄々どんなものなのか予想できた。


「…北のチームは全壊した。全員が魔物に殺された。すぐさま異変を感じ取った東チームが応援に駆けつけたが既に遅く、更に魔物と戦おうとして同じく全壊」


「何だよ、それ……」


「チーム単体で勝てない相手なのは明らかだ。今南チームと西チームが合流している頃だろう。本来なら、緊急クエストは最初に転移魔法を使える少数の四年生が出て、魔物の足止めをする。その後、他の魔法使いが走って応援に駆けつける。でも今回は、四年生と強い三年生が各地に散っていた」


この時期でなければ、こうしてネオが駆けつけるまでに魔物の足止めがされており、街の一部を見捨てるようなことはしなくて済んだ。更に、一年生である俺やリュウの出番はなかっただろう。


「今王都を襲っているのは、北チームと東チームが命を懸けて戦力を削がせた、少し小さくなった魔物の集団というわけだ」


「……ネオ」


小さくなった魔物の集団とはいえど、強い魔法使いが出払っており、足止めもできない俺達には、多数を守るために少数を犠牲にする選択肢しか残されていない。

それに、避難が間に合った人たちは助かるのだ。家は無事では済まないだろうが、命だけは助かる。


でも、


「俺は例え一部分でも、街を見捨てるために来たんじゃない」


お母さんとお父さんはきっと避難しない。


――例え魔物が侵攻して来ても、私達はこの家を置いて逃げ出したりしないわ。


――ここが、お兄ちゃんやお前の帰る場所だからな。


それが彼らの意志だから。


「俺は一人でも行く」


「でも、今頃A区からC区は、もう……」


そう呟いた声は、俺の耳には届かなかった。



死守する区域の一つであるN区に到着した時、すぐそこにあったはずのB区という住宅街は、ほぼ荒地と化していた。

しかし、まだ完全に区域が死んでしまったわけではない。

避難が間に合わなかった人たちが、九死に一生を得てこちらに走り込んでくる。

まだ生きている人が住宅街にいる証拠だ。


街の中にはレベル三以下の魔物が複数入り込んでいた。M区からO区へと侵入しようとした魔物を、先に到着していた三年生が処理している。

ほぼ荒野となった街の向こうには、目を凝らすまでもなく巨大な影が二つ。巨大な顎、前傾の姿勢、地につかない太い尾。


「ハーフドラゴン……! なるほど、これはチームみたいな少人数じゃ対抗できないわけだ」


知識や経験から、魔物を知っていたネオが言う。


「ハーフドラゴンの攻撃方法はたった一つ。口から吐く熱線だ。厄介なのは、魔法に対して抗体がある。身体の周りに薄いバリアを張っていて、連続して同じ部分にダメージを与えないとそのバリアを破壊できない」


チームの人数は、抗体持ちのレベル四を倒すには少なすぎるのだ。

熱戦を避けながら息を合わせて魔法を撃ち、同じ場所に連続して命中させるのは、人数が少ないほど至難の技となる。


「じゃあ、俺らにもあのレベル四と戦う戦力はないってことなのか」


リュウの言う通り、ここにいる人数でハーフドラゴン二体に立ち向かうのは自殺行為に等しい。

ネオは唇を噛んで頷く。


「合流した南チームと西チームが到着するまでここを守るしかない……ルウちゃん、本当に行くの?」


「ああ。アインは皆とここで戦ってくれ。危険を冒してまで進みたいのは俺の意思だ。だから行くのは俺だけでいい」


俺がそう言った途端、リュウとネオは目を見開き、何を言っているんだと言いたげな視線を送ってきた。

しかし、誰よりも早くアインが発言する。


「マスターの発言には整合性が無いと判断。人間の命や身体は交換不可能。その反面、機械人形は再契約、写し等が可能。よって、危険を冒すのは機械人形の役目であると断言」


「命令を忘れたのか?」


人間として生きろ。

アインは機械人形ではなく人間だ。

なら、再契約も写しも出来ない。俺と同じように、死ねばそれで終わってしまう存在。

だったら、俺の身勝手でこれ以上連れていくものではない。


「でも、ルウト、一人で行くのは無茶だ」


リュウはやはり不安そうに言う。

思えば、入学してから心配ばかりかけているような気がする。

俺は、一緒に行くと言い出される前に首を振って微笑んだ。


「大丈夫。俺はアインを独りにはしないから」


契約者を失った機械人形は、活動する目的を見失い、全く動かなくなったり放浪したりする。そこを学園の人に発見されると、保護されて解体されたり研究に使われたりする。アインをそんな目には合わせたくない。


「気をつけて」


ネオは俺を止めなかった。

リュウも、何を言っても無駄だと諦めてくれたようだ。


俺は皆に背を向けて走り出しながら詠唱を開始する。




「ねえ、アイン。オレの話を聞いてくれるかな」


「現時点での現場指揮官はネオであると判断。全面的に指示を承諾します」


「意外と物分りがいいんだね。……人間には、今のルウちゃんみたいに、時として上からの命令に縛られず、自分の意思で行動する場合がある」


「私には、意思が内蔵されていません」


「本当にそうかな?ルウちゃんが君にどんな命令をしたのかは知らないけど……ルウちゃんを守らなきゃいけないっていうのは、ある一種の意思だよ。だって、ルウちゃんは逃げ遅れた人を守らなきゃっていう意思で戦場に飛び込んだんだから」



「……言葉の理解、学習が完了。命令を執行します」


6話から10話までは、1日に1回投稿する、連続投稿期間となっております。

そのため、あとがきを10話の時にまとめて書かせていただきます。

お読みくださり、ありがとうございました。

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