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笑顔は嬉しい気持ちと定義済みです

ネオに連れられ、アインやシェムと一緒に会議室に通された俺は、そこに揃っていた面々を見て一気に緊張した。


所謂誕生日席と呼ばれる場所に座っているのは、入学式の時に見た学園長だ。艶のある茶色の髪を後ろで一つに束ねている女性である。その椅子の後ろには、大人しそうな男の子が立っている。表情の無さから、ひと目で機械人形だと分かる。


更に、ここには名札に「検査官指揮」「依頼(クエスト)官指揮」などと書かれた、偉い人ばかりが集まっている。


ネオは平然とした顔で俺とシェムに隣同士の席を進めた。シェムも平然とした顔でその席に座る。

俺が冷や汗をかきながら椅子に座ると、アインは俺の後ろに立った。

ネオは、シェムがいない方の俺の隣の席に座り、その後には、メイド服を着た女の子が立つ。瑠璃色の髪と目で、どことなくネオに雰囲気が似ている。その子も機械人形だ。


「全員揃ったようですね、始めましょう」


学園長が一同を見回して凛とした声で始めた。


「まず最初に、ここにいる全員は宵詠ルウトが魔力系だと知っています。そして、ここに集まってもらった理由は、宵詠ルウトが高価な魔導具を壊したからではありません」


いきなり自分の名前を出された俺は、更に冷や汗が流れるのを感じながら背筋を伸ばす。

緊張がピークになりつつある俺は、学園長の次の言葉を聞いて当たり前のように硬直するのだった。


「生徒の一人でしかない彼が、英雄になる可能性があるからです」


「えっ」


「十五年前、第二次侵攻と呼ばれる、魔物との大規模な戦争が起こりました。侵攻は一人の英雄と、彼の機械人形の活躍で終結することになります」


十五年前の第二次侵攻と言えば、その中で世界初の魔力系だった人が死んだと、佐久原先生が言っていた。


「英雄の名前は新海(にいみ)フゥイ。ルウト、この名前に聞き覚えは?」


「無いです」


「そうですか。では、話を続けましょう。英雄新海フゥイ、彼の機械人形の名前は……アイン・ハクアリュクセでした」


「……っ?!」


今度こそ硬直だけでは済まず、頭の中が真っ白になった。

俺のアインと名前が酷似している。

どういうことなのか分からず、ただただ学園長を見つめて次の言葉を待ってしまう。


「更に、新海フゥイは世界初の魔力系魔法使いであり、貴方と同じように、固有魔法検査で魔導具を壊しました」


「え……」


「そして、貴方が持っていたこの魔導書ですが」


そう言って、学園長は後ろに立っている機械人形から、没収されていた俺の魔導書を受け取り、こちらに見せてきた。


「俺の魔導書……!」


「解析させてもらいました。これは、新海フゥイが所持していたものと全く同じ魔導書です。内容が同じ、という意味ではありません。この魔導書を、新海フゥイも所持していたということです。全く同じ魔導書は、この世に二つと存在しないはずですが」


「それは、つまり、俺が何故か新海フゥイの魔導書を持っている、ということ、ですか……?」


俺の声は震えていた。

今聞かされていることは全て偶然なのだろうか?

それに、俺がこの魔導書を手に入れた方法は……。


「新海フゥイと宵詠ルウト。貴方たちには何か関係があるとしか思えません」


「でも、関係があったとして、それは俺が新海フゥイと同じように英雄になると証拠付けるものでは無いですよね?」


「……''いずれ、俺と同じように魔導具を壊す奴がここに来る。そいつが来た時、第三次侵攻はすぐそこに迫っている。それに、そいつはきっと、新しい英雄になってくれる''。新海フゥイが亡くなった後、遺書に書かれてあった言葉です」


もう何も言い返せなかった。

それで、魔導具を壊した俺が第三次侵攻での英雄になる可能性があるということなのか。


「魔導書は貴方に条件付きで今すぐ返します」


「条件?」


「普通、一年生はまだクエストを受けることが出来ません。しかし、貴方にだけはクエストを受けてもらいます」


「え……」


「また、貴方が受けるクエストは全て指名クエストになります。なので、今後自主的にクエストを受ける必要はありませんが、貴方宛に指名クエストが出た場合は必ず受けてください。魔法法律概論が終わるまでは、上級生とタッグを組ませます。主にそこにいる神里ネオですが」


「よろしく、ルウちゃん」


話はどんどん進んでいく。

俺のことを変なあだ名で呼んで笑いかけてくるネオを軽く睨んでおく。


「最後に、宵詠ルウトは、放課後と休日以外、学園内では必ず王女殿下と行動してください」


「えっ」


「当然ですわ。(わたくし)が居ないと、貴方がまた魔法絡みの事故に遭うかもしれませんもの」


シェムは何故か誇らしそうに胸に手を当てて言った。

……何だか俺の知らないところで話が進みすぎている気がする。

というか、学園内でずっとシェムと行動するということは、俺が王女と仲がいいという噂が流れるということだ。


「王女殿下の入学も既に決まっていますので、これは決定事項です。明日から、貴方と同じクラスで授業を受けます。但し、魔力を断つ力については伏せてください。今日は一応、魔法適性の検査を行って貰いました。その最中、貴方が騒ぎを起こしたということです」


だからすぐに俺のところへ駆けつけることが出来たということか。


「私からの話は以上です。質問はありますか?」


「……無いです」


「では早速クエストがあるようなので、依頼官指揮から話を聞いてください。場は解散とします」


その言葉で、俺とネオ、依頼官指揮の先生、ネオの機械人形、アインの五人以外が一斉に席を立った。


「私は外で待っていますので。学園を出るまではご一緒します。クエスト、頑張ってくださいね」


シェムは俺にそう言って優雅に一礼し、部屋を出て行ってしまう。

学園長は手渡しで俺に魔導書を返して、思い出したように言う。


「この魔導書は、神話や古の英雄、神、天使、悪魔、精霊などと契約を結ぶためのものですね。今後、神話や古の彼らを、神霊(しんれい)と呼ぶことにしましょう」


「神霊……」


「新海フゥイも、そう呼んでいました」


「え……?」


学園長は、意味深な言葉を残してさっさと部屋を出て行ってしまった。新海フゥイと面識があったのだろうか。


五人だけになって、最初に口を開いたのは依頼官指揮の先生だった。

名前は濡羽(ぬれは)と書いてある。クリーム色の髪を左右で結った、小柄な女性だ。


「こ、今回のクエストについて説明しますです!」


濡羽先生は何故か大分緊張しているような感じで、たまに言葉が変になったりとあくせくしながら説明をした。


クエストはほぼ全てが魔物討伐であり、今回も例外ではない。

内容はとても簡単なもので、レベル三以下の魔物の複数討伐だった。

場所は街から数キロ離れた森の中にある一角。

そこに魔物がたむろしているらしい。

確かに数は少し多いが、ネオがいるなら何とかなるという。


「か、神里さんっ、これはルウト君にクエスト慣れしてもらうためのものですっ。なので一人で片付けてしまわないようにです!」


「分かってますよ、クルリ先生」


「下の名前で呼ばないでと何度言ったら分かるんです! とにかく、よろしくお願いしますよ!」


先生は俺に頑張ってくださいとエールを送ったあと、何もない場所で躓きながら部屋を出て行った。

依頼官指揮というくらいだから、もっと怖い先生かと思っていた俺は、思わず微笑んでしまう。


「……可愛い先生だな」


「ルウちゃんはああいうのが好み?」


ネオのこのふざけた問いは無視することにして、彼の後ろにいるメイド服の女の子に視線を移す。


「その子がネオの機械人形?」


「そうだよ、名前はラピス・トルナーレ」


「よろしくな、ラピス」


俺は微笑んで思わず右手を差し出してしまう。

しかし、ラピスがその手を握り返してくることは無い。その代わりのように、冷たい声が返ってくる。


「よろしくお願いします、ルウト様」


「ルウちゃんは変わってるんだね」


ネオの言葉が、機械人形に握手を求めた俺の行動に対するものだということはすぐに分かった。

機械人形を人間として扱う行為は、奇怪な目で見られる。出来るだけ人前ではしないように心がけたいが、人間として扱うことが癖になっているし、アインへの命令完遂のためにもあまりよくない。


「変わってるって、よく言われる」


今後のためにも話を合わせることにする。


「マスター、疑問が有ります」


「どうした?」


「対象、先程の手を差し出す行為。意味、理由、効果等全てが不明」


握手のことだろう。

日常的にしている行為の意味や効果をいざ説明するとなるとかなり難しい。


「これは握手って言うんだ。挨拶みたいなものだよ」


「人間は挨拶として握手を行う。記録完了。更なる疑問が有ります」


「何だ?」


「人間の挨拶は言葉による物だと記録済み。挨拶における握手と言葉の違いが不明」


「相手が初対面かそうじゃないかってところかな?言葉での説明は難しいから、細かいことは人間を見てパターン認識とかで学習してくれ」


「了解」


アインは着実に俺の命令を進めている。

はっとしてネオを見ると、少しだけ驚いてる様子だった。


「ルウちゃんの機械人形……アインだっけ、学習意欲に似たものが搭載されてるのかな」


「……まあ、そういう感じ」


人間として生きろ、という命令を機械人形に下したなんてことは、まだ言えそうにない。言ってしまえば、それこそ頭がおかしいと思われかねない。


「兎に角クエストに行こう。勿論、ネオがリードしてくれるんだよな」


「そうだね、ルウちゃんに怪我でもされたら堪らないし」


「そういえば、俺のことルウちゃんって呼ぶのやめろよ」


「えぇ?何で?可愛いじゃん、ルウちゃん」


「だからやめろって言ってるだろ!」


「もう、怒らないでよルウちゃん」


その後も、ネオはわざと何度もルウちゃんというあだ名を口にするのだった。

心底楽しそうに。



ネオに連れられて、俺と機械人形二人は森へと向かった。

街の外にこの森があることは知っている。

街からそう遠くないため、小さい頃はお兄ちゃんと一緒に近くまで散歩に来た記憶がある。街の外には魔物がいて危ないため、散歩なんていう気軽な目的のために出られたものではない。しかし、お兄ちゃんは魔法使いだった。子供の頃の俺にとって、お兄ちゃんは世界最強だと言えるほど強かった。何度か魔物と出くわしたが、それらはお兄ちゃんの前では無力だった。


――だから、お兄ちゃんが死ぬなんて考えられなかった。


「確かこの辺のはずなんだけどなぁ」


森に入って数分後。

先導していたネオが立ち止まり、辺りを見回しながら呟いた。

俺も同じようにすると、左右は鬱蒼と生い茂る木々に囲まれており、前後には今自分たちが歩いている小道が伸びていることが分かる。

魔物の気配はない。

俺は少しだけ不安になって尋ねる。


「まさか、迷ったのか?」


「いやいや、ここはもう何度も来たことがある道だよ?迷ったなんてことは……」


ネオは自分の端末を見ながら俺の質問に答えた。

更に首をひねりながら続ける。


「おかしいな。端末に送られてるクエスト内容を見ても、やっぱりこの辺なんだけど……ラピス、周囲に魔物は?」


「はい、ご主人様。索敵に反応するものはありません」


「ルウちゃん、濡羽先生に連絡を取ってみるから、ちょっと待っててくれる?」


「分かった」


この生徒会長、濡羽先生本人がいないところでは名字呼びらしい。

ネオが端末を耳に当てた時、アインが一歩手前に出てきょろきょろと辺りを見回すような行動を取った。


「アイン、どうかした?」


「魔物の気配を確認。索敵結果、魔物の反応無し。マスター、矛盾の発生を報告します」


気配はするけれど、姿は見えない。

木の影や草むらに隠れていたとしても、アインやラピスの索敵に引っかかるはずだ。


「何か、嫌な予感が……」


ネオの方では、ちょうど濡羽先生と通話が繋がったようだった。

ネオが話し始めたところで、ラピスが明確に俺の方を見た。というのも、こちらを見たまま視線を外さないのだ。


「……?」


どうしたんだろう。

俺が首を傾げるのと同時にラピスが口を開く。


「ルウト様の後方に魔力反応があります」


そしてその言葉と同時に、隣にいたアインが物凄いスピードで俺の後方に飛び込んだ。一瞬だけ視界の隅に、アインの攻撃媒体が映る。

俺が後ろを振り向いた時には、アインの"腕の表面が剥がれて"いた。

彼女の視線の先では、狼型の魔物が血塗れで倒れている。戦慄した。あの魔物は一体どこから。


「アイン……!」


俺がアインに寄ろうとすると、アインは表面が剥がれて内部の機械が丸見えになった右腕で俺を制した。

その視線はずっと周囲に向けられている。


「アイン……?」


「マスターの生命危険度を計算。結果、五十パーセント超が確定。結果を考慮の上、命令を要求します」


「え……」


昨日レベル四の魔物を独断で倒して注意されたこともあり、判断に困った俺は思わずネオの方を振り返った。

ネオは端末を持った右手を下ろして真剣な表情で口を開く。


「ルウちゃん、撤退は許されない」


普段より格段に低い声だった。

下された右手の中にある端末では、まだ濡羽先生との通話が繋がっているのか、ネオを呼ぶ声がかすかに聞こえてくる。


「ネオ、状況がよく分からない。この魔物は何なんだ」


「無知なルウちゃんも可愛いなぁ」


「からかうな、説明しろ」


「そうだね、……ラピス、魔力反応はいくつある?」


「周囲に密集するように反応があるため、測定不能です」


「なるほど。この魔力が魔物の数だよ」


魔力が魔物の数……?

ネオがふざけて言っているようには見えない。

それにそうだとすれば、魔力が周りに密集するようにあるということは、酷い量の魔物に囲まれているということになるのでは……。


「でも、魔物の姿は見えない。それに、急に俺の後ろに出てきたあの魔物は?」


「……どうやら話している暇はなさそうだ」


周囲から獣の唸り声が聞こえ始める。

声の主が複数いることは明らかだった。


その時、俺は初めての現象を目にする。

ネオの後ろに虹色の光が瞬いたと思うと、その場にいきなり狼型の魔物が現れ、ネオに襲いかかったのだ。

ラピスはスカートの中から短剣を二本取り出してネオを守ろうとするが、確実に間に合わない。

しかしネオの対応は冷静だった。


「アイシクル」


魔物の牙にも恐れず、初級魔法を発動させる。

突如現れた氷塊によって吹き飛ばされた魔物は、すぐさまラピスによって斬り刻まれた。

そこから、それが合図となったかのように次々と虹色の光が瞬き、誰かに襲いかかるようにして魔物が出現し始めた。


「マスター、命令を」


「ご主人様、ご命令を」


アインとラピスの発言は同時だった。

俺が何か言う前に、ネオが手首を掴んで引っ張ってくる。


「ルウちゃん、こっち」


「え、ああ」


俺はネオに手を引かれるまま、森の奥の方へと走り出した。

6話から10話までは、1日に1回投稿する、連続投稿期間となっております。

そのため、あとがきを10話の時にまとめて書かせていただきます。

お読みくださり、ありがとうございました。

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