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笑顔について学習が必要です

翌日。

俺はリュウと一緒に登校していた。アインはいつものように後ろから付いてくる。


昨夜、ネオとかいう生徒会長から説教をされてアインと一緒に自室に戻った俺は、リュウからも怒られるハメになった。彼は俺のことを相当心配したようで、二度とあんな真似はするなと何度も釘を指された。


と言っても、魔導書を没収されている間はレベル四の魔物相手だと怖くて近寄れない。


思えば、没収されたその時から記憶上初めて、魔導書を手にして以来大事な魔導書が手元にない時間が始まったわけだが、魔物と戦った疲れからか昨夜は案外普通に寝られた。

当たり前のように機械人形が寝るためのベッドはなく、アインに人間の何たるかを教えなければならない俺は、結局彼女と一緒に寝たのだった。朝起きた時に機械人形と寝ている俺の姿を見たリュウが何を思ったのかは分からない。

そもそも、機械人形に睡眠は不必要だ。寝るという行為は出来るが、それによって体力が回復するわけでも、幸福感を得られるわけでもない。だから、論理的で合理的な機械人形たちは、自分たちが寝ることを無駄だと思っている。……実際に無駄ではあるが。


「入学式は講堂らしいな、行こうぜ」


リュウは学校から支給された端末を確認して言った。端末には、今日の時間割と教室が書かれている。


「そういえば、リュウはどのクラスになったんだ?」


端末には、自分たちのクラスも届いていた。

クラス分けは完全にランダムのようで、一年生はAからCの三クラスに分かれる。


「ああ、俺はBみたいだ。お前は?」


「一緒!」


同じクラスで嬉しかった。表情が緩むのを抑えられない。

それはリュウも同じのようで、笑顔が返ってくる。


「よろしくな!」


学園に来て早々レベル四の魔物と単独で戦い、学園や生徒会長に目をつけられた俺だったが、リュウが友達でいてくれるなら楽しくなりそうだと思った。


リュウに先導されて講堂へ向かっていると、ちらほらいた他の生徒が段々と多くなっていった。この時間に講堂の近くにいるということは、俺たちと同じ新入生だろう。

皆学園に来てあまり時間は経っていないはずだが、既に機械人形を連れている人と連れていない人で仲のいいグループが分かれてしまっているように見えた。


「ここが講堂みたいだな」


リュウは端末の地図を全く見ずにここまで俺を引っ張ってきた。予め道を覚えていたのだろうか。


講堂と書かれた札の下がった建物内に入ると、そこは少し広いホールのようになっていて、いくつか廊下が伸びていた。


「講堂本体は二階にあるんだ。こっち」


早速迷子になりそうだという感想を抱いた俺をよそに、リュウは平常運転で二階への階段を見つけた。

階段を上った所にあった大きい両開きの扉を開くと、そこはとてつもなく広くてコンサート会場のようだった。


「うわぁ……」


「魔物からの避難場所になってるからこんなにデカいらしいぜ」


「リュウは物知りだな」


昨日から学園のことについて教えて貰ってばかりのような気がする。

それに、流石に講堂までの廊下を間違えなかったことには驚いた。まるで、一度ここに来たことがあるかのようだ。

俺が講堂に足を踏み入れようとすると、後ろから抑揚の無い声がかけられる。


「マスター」


「どうした?」


立ち止まって振り向くと、アインは俺ではなく、俺の頭上を見ているようだった。


「講堂入口に障壁を確認」


「え?」


「解析完了。対魔物用兼対機械人形用の障壁と判明」


「対機械人形?」


何故機械人形を阻む必要があるのか。

何か知っていないかと思ってリュウに視線を向けると、彼は真剣な顔で言葉を紡ぎ始める。


「講堂に機械人形は入れない。魔物が大量に攻めてきたら、ここに人が避難する。その時機械人形は中に入らず、外で講堂に寄ってきた魔物を駆除する役目を課される。強力な魔法使いが出ていって殺されるよりは、使い捨ての出来る機械人形にあらかた魔物を討伐してもらう方が効率的なんだ」


「……そう、なのか」


しばらく言葉が出なかったが、そう言って納得するしかなかった。非人道的だとも言えるリュウの説明を聞いても、アインの表情は全く変わらない。実際にアインは、これを事実だとしか受け止めていないだろう。


リュウは俺の気持ちを反応から察したのか、少し悲しそうな表情で続ける。


「でも、本当にあるとはな。ルウトが機械人形のことをどれだけ親しく思ってても、一般的にはそういう扱いなんだ。忘れないでくれ」


「分かってる。ありがとう」


俺はリュウに微笑んで、気分を変えるために両手でぱちんと頬を叩いた。


「さあ、行こう。アインはここで待ってて」


「了解。命令を執行します」


「命令じゃないよ」


機械人形は、命令が無ければ明確な目的を持った行動を取れない。それくらいは知っている。

命令が無ければ、大人しく待つことすらなかなか出来ないのだ。契約者が近くから離れるのであれば尚更。


けれど、アインの中にあるたった一つの命令が、不可能を可能にするだろう。


「……現場面に適切な言葉を検索。結果、該当無し。学習を要求します」


「行ってらっしゃいって、言えばいいと思うよ」


「了解。メモリに言語を追加。……行ってらっしゃい、マスター」


''笑った''アインは、とても可愛かった。

やはり俺も思わず笑顔を返す。


「ああ、行ってきます」


そのままリュウにも笑顔を向けて、行こうと促す。リュウは俺とアインのやり取りに驚きを隠せないようで、少し目を見開いてぱちぱちさせていた。その様子に何故か嬉しくなった俺は、数分前の悲しい気持ちなど忘れて、上機嫌で講堂に足を踏み入れる。少し進んで振り返ると、リュウがアインと何か話しているようだった。

リュウは俺が待っていることに気付くと、すぐに駆け寄ってくる。


「アインと何を話してたんだ?」


「大したことじゃないさ。ルウトは危なっかしいからよろしくなって」


「何それ、危なっかしくないし!」


俺はリュウと隣同士の席に座り、入学式が始まるまでたわいもない話で盛り上がった。



――俺はあいつが……お前のマスターが、心配なんだ。


――お前と友達のように接しているから。


――その関係が壊れた時の怖さは、よく知っているから。




入学式で学園長の話を聞き、その後に生徒会長であるネオの話を聞いて、俺たちは自分のクラスの教室にいた。これもまた、リュウとは隣の席を確保している。

授業は基本的に機械人形抜きで行うため、教室に機械人形が入ることはまず無いらしく、アインはまた外で待機させられている。勿論、他の機械人形たちも同様だ。


教卓には、見覚えのある女性が立っている。


「皆さん、私はこのBクラスの担任をする佐久原です。担任と言っても、授業は各専門の先生が行いますし、私の出番は今くらいです」


俺と機械人形との契約をサポートして、寮まで案内してくれた佐久原先生だった。しかし彼女は検査官であって、授業を担当する先生ではないはずだが、そんな人が担任をすることもあるのだろうか。


「まずは、番号順に一人ずつ自己紹介をお願いします」


番号順、つまりあいうえお順ということは、恐らく俺は最後になる。元々人の名前や顔を覚えるのは得意でないため、適当に聞いていると俺の番はすぐにやってきた。


立ち上がって、テンプレートに添った何の変哲もない自己紹介を始める。


「宵詠ルウトです。よろしくお願いします」


しかし。

俺がそう言って頭を下げた瞬間に、誰かが言う。


「昨日レベル四を倒した奴じゃないか」


決して大きな声ではない。けれど、静かな教室では充分な声量だった。

その生徒の一言で、教室はざわざわとどよめき出す。


「そうだ、間違いない、超大型の最上級魔法をぶっぱなした奴だ」


「本当に、この子が……?」


「ということは、あの機械人形も近くにいるの?」


「こんな子供だなんて、一体何者……?」


昨日レベル四の魔物を倒した出来事が、噂になっているのは明らかだった。


どうしよう……。


皆から向けられる視線が、疑惑や恐怖を含んでいるような気がした。


俺が助けを求めて隣のリュウに目を向けようとした時、佐久原先生がぱんぱんと手を叩いた。


「静かに!そのことについては、私からも話があります」


教室はしだいに静まっていった。

完全に元通りの静けさを取り戻すと、先生は俺に微笑んで言う。


「座ってください」


「あ……」


その一言で、自分が立ったままだったことを思い出す。俺が着席すると、佐久原先生は教室全体を見回し、有無を言わさぬ毅然とした声で言う。


「彼は魔物との戦闘に巻き込まれただけです。最上級魔法を使ったのは、そこに居合わせた学園の職員。そうですね?」


佐久原先生は俺を見て同意を求めてきた。俺はすぐに、先生に助けられているのだと察して頷く。彼女の言っていることは勿論嘘っぱちだったが、恐怖や疑いの目を向けられるよりはマシだ。


「皆さんは、まだこんな噂に騙されてしまうほどひよっこです。そんなことでは、一流の魔法使いにはなれません」


少し説教じみた佐久原先生の言葉を聞いたクラスメイトたちには、少しだけ反省の色が見えた。

佐久原先生もそれを感じたのか、もう一度ぱんぱんと手を叩き、先ほどとは打って変わって笑顔を見せた。


「さあ、気分を変えて、今日の予定にある固有魔法の検査をしに行きましょう。それが終わったら、今日は帰れますよ」


帰れる、という言葉に、沈んでいた教室は元の明るい雰囲気を取り戻した。



……が。

やばい。

実際に検査が始まると、俺は冷や汗を流さずにはいられなかった。

非常にまずいことになった。


俺の前に並んでいた生徒がどんどんといなくなり、刻々と俺の出番は近づいてくる。


そもそも固有魔法とは、魔法使いひとりひとりに一つずつ与えられる上級以上の強力な魔法だ。魔法の内容は、系統と得意に釣り合うその人に合ったものとなる。更に、固有魔法は本人にしか使えない。そのため、これからの魔物との戦い方の主軸を決める重要な要素にもなるのだ。


今回の検査は、自分の固有魔法がどんな感じのものなのか知るためのものらしい。威力や展開可能範囲などは、実際に使ってみないと分からない。では早速使ってみようという話になるかもしれないが、そういうわけにはいかない。その理由は、上級魔法や最上級魔法を一年生が使いこなすことはまず不可能だからだ。今ここにいる一年生は、使えたとしても最下級魔法と下級魔法なんだとか。


自分の固有魔法の内容をなんとなくではあるが知ったクラスメイト達は、嬉しそうに自慢し合ったり、将来こんな感じで使いたいなど夢を話し合ったりしている。


「はい、じゃあ次。宵詠ルウト君。あなたで最後ね」


「あ……はい」


固有魔法の検査をしてくれる女の先生は、佐久原先生と同じように検査官という肩書の書かれた名札をしていた。名前は春咲と書かれている。


俺が前へ出ていっておずおずと手を差し出すと、春咲先生は何の迷いもなく俺の手を球体の魔道具の上に乗せた。


「検査の前にもう一度説明するわね。これは固有魔法とあなたとの契約。この魔道具があなたの魔力を読み取って、ちょうどいい固有魔法を選んでくれるわ。あなたは、ここだっていうタイミングで、その固有魔法に詠唱を与えてあげて。今後、固有魔法を使うときはその詠唱を使うことになるから、とびっきりかっこいいのを与えてあげるのよ」


春咲先生は、本当に春の訪れのように柔らかく微笑んだ。緊張している俺の顔を見て安心させてくれようとしたのかもしれないが、逆効果である。


「あ、あの、俺は……」


俺が先ほどから冷や汗を掻いている理由。

それは、あの古代の英雄や神々を召喚して力を借りる最上級魔法が、俺の固有魔法だからだ。あれは、こうして正規に契約したものではない。だから使用するには没収された魔導書を媒体とする必要があるのだ。

そして正規に契約したものでないなら、恐らく俺はこの魔道具に新しい固有魔法を提示してもらえるはずだ。しかし、きっと契約することは出来ない。固有魔法は一人に一つ。魔道具に対して俺から協力を呼びかけておいて、俺から契約を断ることになる。そうすると、魔道具の中でどんな処理が行われるのか分からない。


最大の問題は、あれが俺の固有魔法であることを、俺しか知らないことにあった。

今先生にこのことを打ち明けるわけにはいかない。

それが約束なのだ。俺を救ってくれたあの人――お兄ちゃんとの、最大の約束。


――本当のことは、誰にも教えてはいけないよ。


「じゃあ、この魔道具にゆっくりでいいから魔力を流し込んでもらえる?そうすると契約が始まるわ」


それに、俺は魔力系だ。誰もが認めるほど上手く魔力制御が出来るわけでもない俺が、例えゆっくりだとしても魔力を流し込めば……それはきっと膨大な量になる。

ちらりと先生を見ると、何の曇りもない目で微笑まれた。


一か八かでやるしかない。

もしかしたら何事もなく終わるかもしれないのだ。


俺は、魔道具に触れている手に意識を集中させ、これまでにないほど慎重に魔力を流した。魔道具が淡く発光し始める。どうやらすぐさま暴走しだすようなことはないようだ。一先ず安心だと、少し胸をなでおろしたその瞬間。


「何だっ……?!」


魔道具から緑色の炎が立ち上がったように見えた。反射的に魔道具から手を離そうとするが、強力な接着剤で留められたように動かない。


「何で、くそっ、動け……!!」


――二個目の固有魔法を欲するか。


「っ……?!」


確かに声が聞こえる。それが魔道具から発せられているものだということは明らかだ。いつしか魔道具は輝きを増し、有り得ない強さの光を放っていた。

手が離せない以上、魔道具と対話するしかない。


――それは我への冒涜である。汝、名を告げよ。


やばい。怒らせたか。早く謝らなければ。

頭では分かっているが、俺の口は上手く動かない。


「俺、は」


それどころか、誰かに支配されたかのように勝手に言葉を紡ごうとする。


――咎人よ、名を告げよ。


「俺の、名前は……」


やめろ。言うな。

俺の名前は宵詠ルウトだ。それに間違いはない。

けれど、俺の喉から別の名前が出そうになる。


俺は固有魔法を使用するとき、詠唱を無意識に紡いでいる。詠唱内容は魔導書を開けば書いてあるのだが、全て古代語のため読むことは出来ない。にも関わらず、詠唱中は無意識にその文字を読んでいる。その中で、必ず自分の名前を告げるのだ。

我が名はルウト・ドゥ・レイ、と。

この名前に聞き覚えはない。けれど何故かしっくりくる。


この名前を誰にも教えないのも、お兄ちゃんとの約束だ。


「くそっ……」


俺は唇を噛んで、自分の口が勝手に声を出すのを必死に抑えた。

その途端、急激に自分の中から魔力が吸い取られていく。俺の身体は急激な魔力の消費についていけない。そのために昨日魔物討伐の後に気絶したくらいだ。


「ひぃ……っ」


誰か助けて。


無意識に心の中で叫んだ。

するとその思いが通じたのか、腕にビリビリとした刺激が伝わり、魔道具から手が離れた。

俺は肩で息をしながらふらふらと後ずさる。足に力が入らず、倒れると思った矢先誰かに背中を支えられた。ふわりと香るどこか懐かしい薔薇の香り。支えてくれたその人は、俺をゆっくり近くの椅子に座らせると、俺の前まで来て腰に手を当てた。


「ルウト、これは一体どういうことなのか説明してくださる?」


頭の上でツインテールに結わえた艶のある金髪。穢れを知らない澄んだ青い瞳。その薄っぺらい胸。スパンコールが散りばめられたワンピース。

俺がよく知る女の子だった。


「シェム……何で……」


俺は疲れきった情けない声を出す。

舞廻(まいめぐり)シェム。彼女がここにいるわけがない。彼女は俺の幼馴染で、リュウと出会うまではたった一人の友達だった。魔法の才能はない。だから、この学園に入学することは不可能だ。ここに入ってくる方法で考えられるのはただ一つ。彼女にしか使えない特権を使用したから。


「質問しているのは(わたくし)でしてよ?」


部屋の中にあった机や椅子は全部真っ二つになっているし、窓にはヒビが入っているしでかなり悲惨なことになっていた。


「相手がいくらお前でも説明できない」


「まあ、期待はしていませんでしたが。私達を引き合わせてくれた貴方のお兄さんも、秘密ばかりの方でしたから」


そこで俺は、周りが異様にざわざわしていることに気づく。何事かとそちらに目を向けると、まだ部屋の中に残っているクラスメイト達がこちらを見て何か話していた。佐久原先生と桜木春咲先生は慌ててどこかに連絡を取っている。生徒の中にリュウの姿はなかった。外に避難するのが間に合ったのだろう。


魔道具の方を見ると、粉々に砕け散っている。その向こうにはアインの姿が見えた。何故か服はボロボロで、目のやり場に困る状態だ。しかし勿論、アインには羞恥の感情がないため表情一つ変えずそこに棒立ちしている。


「え、何でアインが?」


「アレが魔道具を破壊しましたのよ。とても高価な上、造るのが大変な代物ですのに。やはり機械人形には物の価値が分からないのね」


「シェム、俺のアインを馬鹿にしないでくれ」


「あら失礼。あの子がルウトの機械人形だとは思わなかったわ。だってあられもない姿をしているんですもの。ああいうのが好みなのかしら?」


長年の付き合いから、シェムが俺をからかっているのだということは簡単に分かった。そして、彼女はもう聞き飽きた質問を俺に投げかける。


「ところでルウト、私の夫となる意思はありませんの?」


「無い」


俺はいつもの通り即答する。

彼女の夫になるということは、王家に仲間入りするのと同じ意味を差した。

ここは人類最後の都市、王都。王都というからには王様がいる。彼女はその一人娘、つまり王女なのだ。


「アイン、服の修復を最優先にして。あと魔道具を壊した理由を教えて欲しい」


「了解。マスターの急激な魔力変化を検知、原因を検索。結果、魔道具の強制的な魔力吸収能力が判明。シェムによる魔力吸収強制終了後、尚魔道具がマスターを狙っていた為破壊」


説明を終える頃には、アインの服はほぼ完全に元通りだった。

シェムによる魔力吸収強制終了。

シェムの体質は、魔法使いにとってかなり厄介なものだった。それは触れたものが放出している魔力を強制的に遮断させる、ある一種の能力とも言えるものだ。だから、彼女に触れられている間は魔法が使えない。

そんな体質を持っていて、且つ魔法の才能がない彼女が一時的でもここに入れてもらえたのは、王女という特権を使ったからだろう。


あのビリビリする感覚は恐らく、シェムが俺に触れて、魔道具に流れる俺の魔力が、強制的に遮断されたときのものだ。


「宵詠さん」


どこかへの連絡を取り終えた佐久原先生がこちらに歩み寄ってくる。


「もうすぐここに生徒会長が来ます。あなたの機械人形や王女殿下と一緒に付いて行ってください」


「私もですの?」


「はい。お忙しいとは存じますが、お願いします。重要なことなので」


佐久原先生がシェムに頭を下げたちょうどその時、妙に廊下の方が騒がしくなった。ネオが部屋に入ってきたのは、何事かと俺がそちらに視線を向けたのとほぼ同時だった。


「ルウちゃん、昨夜ぶりだね。また君に会えて嬉しいよ」


ネオは冗談めかして語尾にハートや音符が付きそうな口調で言ったが、目は全く笑っていない。それには流石に恐怖を感じずにはいられなかった。


「じゃあ、行こうか。ちょっと廊下が騒がしいけど」


アインを連れた俺とシェムは、クラスメイト達の視線を痛いほど感じながら廊下に出た。部屋からの避難が間に合った人たちはまだ廊下に待機させられていたようだ。更に、騒ぎを聞きつけた生徒達で人混みが出来ている。

どこに行くのかは知らないが、ネオの後について歩き始めると、すぐに人混みの中から声をかけられた。


「ルウト……っ」


「あ……リュウ」


リュウは俺に駆け寄ってこようとしたが、ネオとシェムの姿を見ると立ち止まった。しかしそれも一瞬で、何故かリュウはネオの方に歩を進める。ネオはスッと目を細めてリュウを見据えた。


「……(きみ)は?」


「…滝本リュウ。生徒会長さん、お前が偉いのも強いのも知ってる。でも、ルウトをいじめたら許さねぇから」


「怖い怖い、そんなに睨まないでよ。別にいじめる気は無いけど、こいつは逸材なんだ。君に扱えるような魔法使いじゃない」


「それは俺がルウトの友達として釣り合わないってことかよ」


「さあ、どうだろうね」


どうしてリュウがネオに突っかかるのか分からなかった。けれど一触即発の空気が流れていて、俺が介入すれば一瞬で跳ね除けられそうだ。

その中、空気を読めないのか怖いもの知らずなのか、シェムが歩み出て二人の間に割って入る。


「喧嘩はやめてくださる?ルウトは私の夫になるのですから、私のものです」


その言葉に、リュウやネオは硬直せざるをえなかった。二人が黙って凍りつくのを見て満足したのか、シェムはさっさと歩き始める。


「さあ、早く行きましょう。ネオ、貴方が案内してくれなくてどうするのかしら」


「ああ、そうだね。……じゃあまたね、滝本リュウ君」


「……」


リュウはネオに向けて何も言わなかったが、俺が横を通ると''早く帰ってこいよ''と笑って言った。




今思えば、これが始まりだったのだ。



俺は、お兄ちゃんと同じ道を行く。



同じ道を歩いていることに、もっと早く気付けばよかった。



魔物に侵食され、取り返しがつかなくなった王都を見て後悔する。



――お兄ちゃんは死んだ。



同じ道を行く俺は――?

こんにちは、昼夜逆転状態の作者です。

規則正しい生活習慣は家出しました。


自分が書く小説はほとんどが主人公目線で進みます。それはこの小説も例外ではないので、ルウトが見て聞いて感じたことしかここには書かれていません。例えば、裏で巨大な陰謀が動いていたとしても、ルウトが疑問を抱かなければその描写は出てきませんし、リュウやネオの内心の描写も無いに等しいのです。

完結はまだまだ先ですが、終わってから読んでみると見えてくるものもあったりします。


さてさて、何が言いたいのか分からない後書きになりましたが、一つだけ確実に言えることがあります。

読んでくださって、ありがとうございました!!!!!!

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