依頼内容その9:小さな冒険の話
間が空き過ぎて(約2年)、イロイロ忘れてしまったのでつじつま合わなかったりします。
お許しを・・・
「なぁ」
そう話しかけてくる声は、いつだって優しかった。
姉ちゃんにはよく怒られたけど、俺はこの声に怒られたことがあっただろうか。
ロム兄さんは、暖かい人だった。
もう聞くことのできない声だ。
そうか、これは夢か。
その日は確か、ロム兄さんが町に食料の買い出しへ行く日で、俺は一度ストライカー
に乗ってみたくて、連れってくれとだだをこねたんだっけか。
見かねたロム兄さんが「しょうがねぇなぁ」って、姉ちゃんに掛け合ってくれて、
それでついてけることになった。
「お前も、ストライカーが好きか?」
「うん。」
そのころの俺は、ストライカーを兵器ではなく俺たちの暮らしを助けてくれる、
そんな仲間のように思っていた。
ロム兄さんは、ストライカーの操縦が凄腕で、ちょくちょく用心棒とかもやってたけど、
嵐の後で道路の整備をしたり、家屋の修復とかにもストライカーを使えるレベルだった。
それの何がすごいかって?
ストライカーには、戦闘用の動きがプログラムされていて、ほとんどの操縦者がその
プログラムを使用することで、銃を撃ったり回避を行ったりしている。
つまり、半分くらいはオートなんだ。
オートのプログラムを組み合わせて戦闘を行っている。
もちろん、マニュアルですべてを動かくことも可能だ。
ただ、普通に考えて、ほんの一瞬の間違いが致命的になる戦闘中に、操作が複雑なマニュアル
操作を好む奴なんて普通は居ない。
ロム兄さんは、その辺を全部マニュアルでこなせてしまう。
何故かって?
さっき話したように、家の手伝いだったり土木工事みたいなことをやろうとしたら、
そんなプログラムは用意されていないから、やろうと思ったら手動でやるしかなくて、
そうやってやっているうちに体がなじんだそうだ。
マニュアルで操縦ができれば当然、プログラムにはない動きをストライカーに行わせる
ことができる。
ロム兄さんが用心棒としてかなりの信頼されているのはこの辺の事情がある。
「そうか、なら、覚えてみるか?」
「何を?」
「そりゃお前、ストライカーの動かし方に決まってんだろ」
ロム兄さんは、察しの悪い奴だなぁといった感じだけど、いつもより楽しそうに笑っていた。
当然俺の答えは決まっていて、ロム兄さんは「姉ちゃんには内緒だぞ。絶対反対するはずだからな」
そして、その日から、俺とロム兄さんで秘密の特訓が始まったんだ。
特訓の合間に、ロム兄さんは色んなことを話してくれた。
主に用心棒で見聞きしたことだ。
ロム兄さんの行っている用心棒は、盗賊まがいのストライカー使いを撃退するのもあったけど、
ほとんどの依頼内容は、町から別の町へ移動する人の護衛だった。
だから、いろんな町に行くことが出来たし、護衛の道すがら旅の目的を聞くこともあった。
中には、人の恨みを買って、逃げ出すために護衛を依頼したりした人もいたようだ。
いろんな話が聞けて俺は楽しかった。
ただ、そういう話をするロム兄さんが、いつかその人たちのように、どこかへ旅立ってしまう
んじゃないかと、言いようのない不安を感じることは多かった。
そのくらい、楽しそうに話していたから。
一度、その人たちのように、ロム兄さんもどこかへ旅に出たいと思うことがあるのかと聞いたことがある。
「旅か、、、それもいいな。」
ああ、やっぱり、いつかはロム兄さんがどこかへ行ってしまうんだと、そう思ったんだけど
「いつか、お前がストライカーで冒険をして、たくさんのものを見て、たくさんの人と出会って、
楽しかったことや、悲しかったこと、嬉しかったことや、悔しかったこと、そんなたくさんの話を
聞かせてくれよ」
そういって、ポンポンと俺の頭をなでるロム兄さんは、珍しくちょっとだけ寂しそうな、悲しそうな、
そんな表情だった。
俺が「自分で行かなくていいの?」と聞くとロム兄さんは、空を見上げながら「いいんだ、俺の冒険は
もう終わっているから」とつぶやいた。
ロム兄さん、ロム兄さんの冒険ってどんなだった? どこを目指したの? 何を見つけに行ったの?
そんなことをまくしたてて聞いたけど、ロム兄さんは困ったなぁって感じの笑顔で
「そうだな、いつかお前の大冒険が聞けたら、俺の小さな冒険の話を聞かせてやるよ」
と言ってくれた。
俺は、もう、その話を聞くことはできないんだな。
夢が次の場面へと進もうとする。
やめてくれ、その先を見せないでくれ・・・
黒い羽が、あいつが来る、あいつが何もかも燃やしてしまう。
貴重な時間を割いていただきありがとうございます。
次はいつ書くかわかりませんが、またお会い出来たら幸いです。