依頼内容その6:フューリ・ハロウル
かつて、我々は世界を滅ぼした。
それは、12体のストライカー・ギアとその操縦者デスペラードを使用した世界の再生であり、人類への正しい管理の執行。
そのはずだった。
国家という枠組みを破壊し、新しい秩序によって人類を管理。
その中身自体はいたって単純と言って良い。
ロストグランドという大地をつくり、人類をそこに隔離。
食料などの必需品については、こちらで支給するがかつての時代のように人口の増加の心配はない。
かつての時代、人は争うことを遠ざけていた。
それが、この星の上で人類があふれかえった要因だろう。
新しい秩序、そこは争いが許容されている。
質の悪いストライカー・ギアの模造品、我々が呼ぶところのレプリカを渡しておけば、人類は勝手に数を減らしてくれる。
ロストグランド以外で自然が回復すれば、人類以外には住みやすい環境が戻ってくるだろう。
私に与えられた担当区分は人口の調整と、人類の生活圏をロストグランド内にとどめることだ。
だから、私はロストグランドにアウタードとなった人々と共に生き、人がこのロストグランドから外へ出ないよう管理者として、番人として、彼女の介入を防ぐ、それが、かつて、この世界を破壊しロストグランドという大地を作り出した12機のストライカー・ギアの一つ、スケアクロウの操縦者であったこの私、フューリ・ハロウルの役割。
そして、それが私と彼女、私と同じように12機のストライカーギアの一つシュリヒターの操縦者にして我々の代表、フィアナ・トルナードとあの戦いの後に交わした約束だ。
計画はほぼ順調だった。
あの機体、あの時代にあって我々以外のストライカー・ギアが現れるまで。
そう、13機目のストライカー・ギアは本来存在しない。
ネイションとソシエートの監視者として、我々も2つに別れ行く末を見守ろうとしていた段階になって、アレは現れた。
大胆にも、我々12機のストライカー全員に対しての宣戦布告とともに。
「この世界に、管理者など不要なんだよ、全ての人間が等しく己のエゴによって生きて良い。自由であって良い。そして、その行動の責任を背負い対価を支払うべきだ」
まず、危険なにおいがした。
淡々とした口調だったが、狂人じみた空気を感じる。
「この世界を破壊した君達の行動には賛同するが、正しく人を導き管理するなんて、お勧めしないよ。僕のオススメはね人間が居ない世界」
そう告げると、自らの居場所を送信してきた。
考えるまでもなく、我々は12機のストライカー・ギアで殲滅を行うべく通信の発信源、ロストグランドの中心へ向かった。
相当の自信があっての行動だろう、戦いは容易ではないと想像できた。
だが、我々が敗北することはないと皆思っていた。
そして、言葉の通り13機目のストライカー・ギアは我々を待ち構えていた。
「ようこそ、パーティー会場へ。自己紹介をしよう。私はニヒト・ヴァンホーデン。君達と君達のストライカー・ギアを開発した男の、、、何だろうね。友達、ライバル、今となってはよくわからないな。好きに空想してくれたまえ。プログラムたる君達にそれが出来るのなら。そして、私が操縦しているこの機体の名はサライ(裂雷)。私の生まれた国の言葉で、雷を裂くという意味を込めた名前だ。では、はじめようか」
戦いは、半日ほどで決着が付いた。
あの男のストライカー・ギアは、高機動と急旋回、高火力のライフル、肩には連射性能に優れたエネルギーキャノンを備え猛攻を仕掛けてきた。
その戦闘能力の高さは、10機のストライカー・ギアとその操縦者である我々の仲間が破壊され、私のスケアクロウが下半身と右腕を失った状態で行動不能、フィアナのシュリヒターがどうにか行動可能だったが、とても戦闘を継続できる状況ではなくなるほどだ。
つまり、そこまでの代償を支払ってようやく、あの機体の戦闘継続力をなくすことが出来たといえる。
「引き分けってことか、結局、また決着は付かなかったな。」
なぜだろうか、あの男の言葉はそれまでにはなかった、寂しさと喜びの入り混じった感情のようなものを感じた。
そんなことを思っていたということは、やはり私は当時からプログラムとしての欠陥を抱えていたのかもしれない。
「さて、認めたくはないが、こういう結果だ。しばらくこの世界を君達にゆだねるとするよ。でも、油断しないことだ。君達の前に"次の僕が"必ずこの機体とともに現れる。そのときに、人類の自由と責任を返してもらうよ」
そう言って、奴は機体と共にどこかへ行ってしまった。
その後、残されたフィアナと私の二人でプランの大幅な変更と縮小を行いそれぞれの道を行くことにした。
私は、アウタードとして生きることになり、名前を捨てツトムと名乗ることにした。
ツトムという名は、偶然手に入った大昔の漫画に出ていた脇役から取った名前だ。
1コマか2コマ位の出番しかなかったが、これからの私にはふさわしいと思った。
そう、これからの私はこの世界の脇役で良い。
フィアナは「人は自由を欲するけど、人類という生命体に本当の自由を与えたところで、もてあまして不安になり他者を信じられなくなるだけ。生きる事への大義名分として不自由を与えてやったほうが彼らには幸せなのよ」と言ったが、すでに私は、その言葉の全てを肯定できない程には人類に興味を抱いていた。
==================================
輸送任務を無事に終えて、カズトとツトムはストライカーを修理に出し夕食をとっていた。
カズト達が食事をしているのは、デスペラードが依頼の打ち合わせなどをする際に利用するタイプの食事処と言うよりは、酒場に近い場所だ。
情報収集がしたいと二人に伝え、コンチェルトは単独行動中のため夕食には参加していない。
コンチェルトの依頼についてはツトムとの話し合いの結果正式に受けることになった。
「で、どうしたのカズト君、無事に依頼を達成できたんだし、なんでそんな思いつめた顔してるのさ」
「お前がわかんねぇからだよ」
「え、なにさっきの件? えー、聞かれたことに答えただけじゃん」
「いや、お前、警戒しろって言っただろ、なのに何で依頼を受けたんだよ」
「ん、そりゃ警戒はして欲しいけど、それで目的に近づくチャンスを避けてどうするのさ、少しは頭使いなよ」
諭されて、カズトはさらにヘソを曲げる。
そんなカズトの様子を楽しそうに見ながら、ツトムはこう言った。
「でも、僕の言葉を素直に受け入れてくれているのは嬉しいな~、保護者としては大変光栄だよ」
「あー、そーですか」
カズトは食べ終わった皿をテーブルに置き、背筋を伸ばした。
なんとなく店の入り口のほうを見ると、およそその場には似つかわしくない少女が現れた。
キョロキョロと周りを見渡し、何かを聞いて回っている。
どうやら、こんなところで何かを聞いて回るなど、たいていの場合飛び込みの依頼が相場と決まっているが、依頼人が年端も行かぬ子供というのは流石に驚きだ。
そもそも、報酬が払えないだろう。
と、そこに、エージェントからの連絡が入る。
カズトはなんとなく嫌な予感がした。
「ああ、いつものエージェントさんだね。はて、さっき依頼の状況報告はしたはずだけどなぁ。なーんだろ」
ツトムがエージェントからの呼び出しに出るのと、その少女がカズトに話しかけるのはほぼ同時だった。
少女は丁寧にお辞儀をするが、よく見ると怯えていた。
だが、その恐怖を超える強い意思があるのだろう、ハッキリとした口調でこう言った。
「間違っていたら申し訳ありません。カズトさんとツトムさんでいらっしゃいますか?」
薄々感づいてはいたが、どうしてこういう時しか予感は当たらないんだろうか、とカズトは誰かに愚痴りたくなった。
「どうか、弟を、リクを助けてください」
さて、そんなこんなで、エージェントの話はこうだ、、、
実はな、お前達のいる街から少し離れたところに小さな集落があるんだが、そこに済んでいる男の子が、病気で苦しんでいるらしい。
通常配達される中の薬では治せないものらしくてな、お前達の居る街にも取り扱っている場所がない。
だが、こちらで調べたところ、そこから北に行った街に取り扱っている場所を見つけた。
定期便で行くとなれば、ダイアの都合上、帰ってくるのは一週間後だ。
でもな、こと、ストライカー・ギアだったらどうだ?
俺の言いたいこと、分かってくれるよな?
すまんが、頼まれてやってくれ。
ほ、報酬の方はだな、、、その、あれだ、今度、埋め合わせに良い依頼を回すから、な、な。
少なからず日ごろから世話になっているエージェントのお願いを断るつもりはなかった。
だから、カズトは少しカッコつけてこう言った。
「お譲ちゃん、そっちの席に座りな。ここじゃ、依頼を受けるときは飯を食べながら、詳しい話をするモンなんだ」