依頼内容その3:物資輸送開始
今回の輸送列車は、険しい山道を進むルートを通ることになる。
切り立った崖の山肌や、自然に出来上がった空洞を進む予定だ。
そのため、奇襲はしやすく守り辛い。
対応策として、どこを通るのかが分からないようにするのが最も良い。
方法としては、3パターン。
1.嘘の情報を流す、2.ダミー用の列車を用意する、3.その両方を実施する。
当初は襲撃を逃れることが可能だったが、嘘もダミーも盗賊組織の拡大によってどの情報にも、どのルートにも張り込みをされるようになり、利用目的は敵の回避ではなく、敵戦力の分散として扱われるようになった。
そして、敵に対する対策は敵戦力の殲滅。
つまりストライカー戦によって相手を撃墜するということだ。
相手がどこを本命と睨んで戦力を配置するかは不明だが、ネイションやソシエートに所属している部隊でもなければ、数はあってもたいした装備や性能ではない。
カズトは今までにこなした用心棒のような依頼の経験から、時間を稼ぎながら個々に数を減らす事で目的を達成できると考えていた。
ただ、今回は敵の情報の他に同僚の情報も今はまだ不明という点が懸念となる。
それについては、これから多少なりとも判明するはずだが、、、、、、どうなることやら。
一足先にストライカー・ギア輸送用のコンテナに向かっていたコンチェルトが、スケアクロウを見てなんというか。。。
過去の経験から、気が重くなってきたがこれは避けて通れぬ道というもの。
意を決して、コンテナの中に入っていった。
コンテナの中には、少々窮屈な状態ではあるがスケアクロウともう一機のストライカーギアが格納されていた。
藍色を基調としたその機体からは、操縦者であるコンチェルトの持つ気品のようなものを感じる。
背中のブースターや飛行補助のパーツが組み込まれていることから、空中戦を主体とした機体のようだ。
武装は、、、、、、シールドと見たことの無いロングレンジタイプのライフル、それに対応した増弾用と思われるカートリッジ。
シンプルすぎるくらいの武装だ。
「驚いたでしょう」
カズトが振り向くと、コンチェルトが歩いてきていた。
「私の機体、シェーラザード。見てのとおり武装は少ないけど、スナイパー仕様の機体で撃ち合いではそうそう遅れを取ったりしないわ」
よほど自信があるようだ。
コンチェルトは少し得意げに腕を組んで彼女の機体、シェーラザードを見上げた。
やっぱり、他の人と違うようだ、とカズトは思った。
「あなたの機体、スケアクロウの事は、あなたのパートナーに聞いたわ。」
「ただの、近接特化仕様のストライカーですよ。」
ふふ、っとコンチェルトは口元を和らげこう言った
「そうね、何も知らない人がこの武装だけで判断したらそうなるわね」
「・・・・・・というと?」
「ストライカー同士の戦いとなった場合、言ってしまえば数が多いほうが勝つ。それなのに、あなたの機体は多対一をまず最初に想定してる。他の装備に制限をかけてまでレーダー範囲を限界まで広げるのは、敵の数と遠距離攻撃の位置を正確に知る為」
「それだけなら、ただ的になるだけですよ」
「避ける自身があるのでしょう。だから、加速性能より細かい姿勢制御や旋回性能を優先している。実際、壊れて交換しているのは肩や武装をつんでいない腕だけよね」
あいつ、本当に美人に弱いな・・・・・・、ドコまでしゃべったんだ。
カズトは相棒の口の軽さに不安を覚えた。
仮に、俺たちに恨み持ってる依頼人から送り込まれてたらどうすんだ『騙して悪いけど、ごめんなさい。仕事なの』とか後ろから撃たれたらそうするんだっての。
「カズトくーん。僕なーにも話してないからね。全部コルトさんの情報収集と分析の結果だよ~。そっちで聞いてて驚いちゃった」
カズトの思考を読んだかのように言い当てて、ニッコニコと鼻の下を伸ばしながら、ツトムが現れた。
「ツトムからのお墨付きが出たということは、私の推測は当たっていた、、、、、、ということでいいかしら」
カズトは参りましたという意思を込めて両手を挙げ降参の意思を示した。
しかし、なんとなく主導権を握られっぱなしのように感じるのがなぜか少々癪に障る
「シャントナーゼさんの機体、シェ-ラザードも見た目で判断したら痛い目を見る気体ですよね」
少し突っかかるように言葉を発したカズトにツトムが止めとけばいいのにとう視線を送るが、カズトはそれに若干のやってしまったと思いつつ続けた。
てか、お前、"コルトさん"ってどんなけ短時間で仲良くなってんだ。
「高出力のブースターで上昇して、補助バーニアで滞空しながら遠距離狙撃で撃墜専用のスルスタイルと見せかけて、インファイトもやれるんでしょ?」 「へえ、どうしてそう思うのかしら?」
「装備してるシールド、傷跡がブレードを受け止めたものだったり、ショットガンの弾の痕でした。それと、あのライフル、レンジの切り替えできるんじゃないですか」
後ろのツトムから送られる『お前、それ、全部ハッタリじゃねぇか。。。』という視線が痛い。
「あなた、よく見ているのね。驚いたわ」
彼女は、組んでいた腕を崩し、右手を顎に当てて感心したという視線をカズトに向けた。
「なるほど、互換性のないジャンクパーツ同士でここまでのストライカーを組み上げるツトムの技術と、自機の特性をしっかりと掴み的確に相手の分析を行えるカズトが合わさっているのね。これなら、私一人で護衛を完遂しなくてすみそう。頼りにさせてもらうわ。」
カズトは、割とおしゃべりだなこの人と思いながら、記憶の中のある人物を思い出していた。
かつて、自分を育ててくれた母と呼べる人にコンチェルトは似ていた、そして一緒に暮らしていた家族たちのことを思い出す。
「そう言ってもらえると、その、嬉しいです。それじゃ、俺が敵をひきつけてシャントナーゼさんが狙撃するスタンダードなスタイルで行きましょう」
「了解したわ。あなたの背中守らせてもらうわね」
「それじゃ、よろしく」
カズトは拳を突き出す。
デスペラードの流儀で、お互への激励みたいなものだ。
コンチェルトも「こちらこそ、よろしく」と拳を合わせる。
カズトはコンチェルトと別れスケアクロウに乗り込んだ。
そして、あの光景を、暗い夜の中、激しい炎に包まれていった故郷と炎の中に佇む黒い翼を持ったストライカーことを思い出す。
さて、今度の依頼ではアイツに、、、あのストライカーに関係する情報は得られるだろうか。
あいつは最後にう言った『追いかけて来い、これはお前という存在の正体を確かめる為に行われた事だ。"私"にたどり着ければこの意味を教えてやる』
意味などどうだっていい。
「待っていろ、必ず、必ず破壊してやる」
そして、輸送列車は出発の時間を向かえ目的地へと動き出した。