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依頼内容その13: 旧き友からの頼み

回収され、ストライカーギアの整備施設に運び込まれたスケアクロウは、両肩両足を胴体から外し各部分ごとに修理が行われていた。

ツトムはその様子を眺めつぶやく。

「マキナの皆さんは、いつも働き者だねぇ・・・」


マキナとは人形という意味。

彼がそう呼んだのは、そこで整備をしている人々のことだ。

「その感情や、思考そのものが、どこかの誰かからの借り物だったとしても、僕は君たちだって生きているって思いたいんだ。」


そう思いたいのは、どうあがいたって自分もそのマキナの一つだからなのだろうか。

僕らはどうして作られたのだろう。

本当に、人を滅ぼしその後に再生させ管理するなんて、そんな目的のために、あの人が僕らのようなものを作り出すのだろうか。


あの人は、人の意識、思考、感情といったものを研究していた。

我々はあの人のことを、博士と呼んでいた。

もともと博士は、何らかの理由で体を動かせなくなった人が、また自由に自分の意志で体を動かせるようになるにはどうしたらいいのかを研究する研究者だ。


博士の奥さんが、体が不自由な人でそれをどうにかしたいという。

優しい理由だった。

それが、いつしか人造人間を作るようになり、人間と同じ肉体を作ることに成功してしまった。


おそらく人類にとっての終わりはその時始まったんだろう。

その肉体に与えられた作り物の脳は、自らその体を動かすことはできずにいたが、ふらっとやってきた人型兵器開発者によって与えられた発想で解決してしまう。

それはのちに我々の前に立ちはだかった、忌々しい男だ。


『人間の脳が行う肉体を動かす信号を、代理で機械にやらせればいい。例えば・・・今作ってる戦闘用の人工知能を脳のところに入れるとか。あ~でもそれだとロボットみたいに命令を聞く人間の肉体のロボットになっちゃうね~。それなら最初からロボット作ったほうがいいや。そうだ、誰かの思考をデータとして蓄積してそれを元に思考回路を複製したチップとか作ってさ、それに脳の足りないところを補わせようよ。そのチップが時間とともに機能しなくなったら寿命みたいにできるし。結構それって人間っぽくない? どう? どうかなぁ?』


そうして、人間に似た機械仕掛けの心で動く人形マキナはこの世界に生まれてしまった。

人型兵器開発者の方はストライカーギアの開発を成功させ、二人は一つの計画を思いつく。

その計画の最終的な部分で、喧嘩別れをすることになるのだが。


『え~、ヒトガタにも子供を産んで育てる権利あると思うよ僕は~。』

彼は我々のことをマキナではなくヒトガタと呼んでいた。


『たしかに、彼らのほうが強い社会を作って、今の人間にとって代わるようになる可能性は十分にあるし、それが僕らにとっては危険だって思うのもわかる。けどね~。そうなるならそれでいいじゃないか。僕らは陸の動物から、空の動物から、海の動物から、住むところを奪って命を奪って栄えてきたんだし。それとおんなじだよ。ヒトガタが人間を超える強い社会を作るに至るか、人間が衰退し減っていってとってかわられるか、どっちでもいいけどそうなったって別にいいじゃないか。そっちの方が面白いじゃないの。』


しかし、この考えは博士には受け入れることができない考えだった。

人類を人類として残したい。

愚かしくもその可能性を信じたい・・・その言葉をあの時は信じた。


なのであの人は僕ら12体の・・・、あの人の思考から生まれた特別な思考回路を搭載したスタンドアロン型マキナによって世界をコントロールする方法を選んだ。

そしてそれは、半分くらい成功して半分くらい失敗している。

まぁ、ここまで人間そのものが減って、社会活動の大半をマキナによって維持させるような社会になるとはね。


ただ、何かが引っかかる。

博士が大切にしていたのはただ一つ、助けたくて救いたくて生きていてほしかった奥さんただ一人。

それが果たせなかった世界に何を信じたっていうんだ。


博士の、世界を救いたいという言葉は、その真意を裏に潜ませた何かだったんだろう。

人間的に言ったら、僕も若くものを知らなかったのだろうなぁ。

繰りかえして言おう、愚かしくも僕はあの人の言葉を信じた。


「だけど、この状態もあの人の筋書きの一つなのかなぁ~。」

元愛機の姿をぼんやりと眺めながら、自分があの人の作った人形劇から少しでもはみ出せたのか、やはり操り糸が付いたままなのかを考える。

「どちらにしても、戦力の強化はしておかないとね。」


ツトムはスケアクロウ の修理ついでに、いろいろと改装を行わせていた。

この街には、正確にはこの地下施設にはスケアクロウ用の予備パーツがそろっている。

必要なパーツは事前に運び込まれているし、組み立て自体はそこまで時間はかからないだろう。


今回の改修で、スケアクロウに備え付けられている未来予測機能『ジャッジ・アイ』を利用可能にする。

何か適当な理由をつけてここに戻ってくるつもりでいたが、その理由が向こうから飛び込んできたのは運命なのか、誰かの仕込みか・・・。

「まぁ、この場合、後者だろうねぇ。やれやれ、心当たりしかないよ。」


あの男か、それとも彼女か、はたまた・・・最初からそうスケジュールをあの人に組まれていたか。

「スケアクロウ、そろそろ僕も君も本来の名前に戻る頃合いなのかねぇ。」

ああ、きっと自分もまた怠惰な時間の流れの中で、初心も願いも想いも忘れて薄れて腐ってきているのだろう。


「そんなところばっかり、人間っぽくなっちゃったなぁ。」

果たしてカズトは、いつまで復讐の炎を燃やし続けるだろうか。

それだけの生き方をさせてよいのだろうか。


人間でも、人の真似をする人形でもなくなった彼を、その行く末を見守るものとしてこのままでいいのだろうか。

まぁ、それはさておき。

「そろそろ出ておいでよ。何か話があるんだろう? それとも、僕とスケアクロウを破壊でもしに来たのかい?」


ツトムが視線を向けた物陰から、コルトが姿を現す。

短い期間ではあるもののそれなりに彼女を観察していたツトムは、彼女からいつもと違う雰囲気を感じやれやれとため息をついた。

「気づいていたの。流石ね。」


彼女の表情や声はいつも通りを装っているものの、いつものような元気の良さがない。

ツトムはポケットの中に手を突っ込んだ。

「待って、敵対する意思は無いの話を・・・」


警戒する彼女をからかうように、ツトムはポケットから飴玉を取り出して1つをコルトへ投げた。

コルトは慌てて、それを受け取る。

「あげるよ。それ結構おいしいから。」


いたずらが成功した時の子供のように、ニヤッと笑ってツトムは飴玉を口に入れた。

コルトは少しむすっとしたが、素直に飴玉を口に入る。

「あら、おいしいじゃない。」


「お口に合いましたようで。ニーナはどうしたの?」

「エージェント・・・、ブランだったかしら? 彼経由でお母さんと話をしているわ。」

「おやおや、ブランのやつだいぶ肩入れしてるなぁ。」


「そういうタイプだから、あなたは彼を信用しているのでしょ?」

「まーね。君は彼のことは好きではないみたいだね。」

「そうね、ビジネス上のお付き合いなら最低限はするんじゃないかしら。誠実さが感じられない人はあまり好みではないわ。」


「あれで結構自分のミスを気にしたり、怪しい依頼の時はそれなりにケツを持ってくれるんだよ?」

「あら、あんなに喧嘩したくせに結構肩を持つじゃない。」

「まーね。さっきはさっき、今は今。さっきの喧嘩を今キミとの会話に持ち込まないってだけ。それに、付き合い長いからね~フォローぐらいするさ。」


「社会に属すとそんなふうになるものなの? フューリー・ハロウル。」

「ん~、そうだね、そうだと思うよ。たぶん今の僕はフィアナ・トルナードが君に教えたデータ上の僕とは異なっているだろうね。そうなった理由はきっと君が今思ったようなものとの関係がそうしてくれたんだと思う。」

「羨ましいわ。あなた、今の自分が好きなのね。」


フューリー・ハロウル。フィアナ・トルナード。この二つの単語が交わされればお互いの素性は確認されたようなものだ。

「それにしても、少しは驚いたりする演技くらいしなさいよ。緊張していた私がばかみたいじゃない。」

そう言ったコルトの表情は、どこか肩の力が抜けたような安心したようなものだった。


「意地悪をしていたわけじゃないんだ。もう、僕とフィアナ以外のスタンドアロン型マキナは存在していないから。いや、正直に言えば存在してほしくなかったんだ。僕たちが滅びれば、今の世界を管理する者はいなくなる。世界が本当の命を持つ者たちに返されるんじゃないかって思ってさ。」

「でも、フィアナ・トルナードは生み出してしまったわ。自分の後を託すための存在を。」


「それが君なのかい?」

「いいえ、私ではないわ。私は・・・言ってみれば、それを作るためのプロトタイプ。必要なデータ収集用ね。」

「必要なデータがそろったので、不要になったってわけか。」


「・・・嫌な言い方をするわね。まぁ、そうなんですけど!」

「あはは、ごめんごめん。失礼ついでに聞いちゃうけど、廃棄になりそうで逃げてきたってのかい? フィアナはそんなもったいないことしないと思うけど。」

「ええ・・・って、ほんとに失礼ね。そうよそんなことしないわよ。私は補佐をする役目を命じられたわ。でも、そうするわけにはいかないの。」


「そりゃまたどうして? いうこと聞いておいた方が君の身のためだと思うし、君自身も無駄なことをしていると思ってるんじゃないの?」

「できないわよ、すべての人類を抹殺するための存在の補佐なんて。」

「いやいや、さすがにそれはないでしょ? フィアナがそんなものを作るはずが・・・」


「彼女自身は、その思考回路ではそんなものを作ることはないでしょうね。博士がそうさせているの、あの人の強い想いが。」

「な、なにを言ってるんだ。博士の想いってそんなものもはやどこにあるっていうのさ。」

フィアナは動揺するツトムを悲しそうに見つめる。


「あるのよ、あなただってそれを持っている。あなたのその思考の中に。」

「バカな・・・、僕を含めた12体はそれぞれ博士の思考を元にした思考回路を持っている。でも、それはあくまで元にしただけであって・・・」

ツトムは、いやフューリー・ハロウルは言葉では否定しながらもその可能性を計算していた。


「あなたは、あなた以外のあの戦いで破壊されたスタンドアロン型マキナが最終的にどうなったか覚えている?」

「どうなったって・・・、破壊されたんだ、残骸を回収して破棄したよ。」

「それは、あくまでストライカーギアだけの話よ。」


コルトは淡々と告げる。


「フィアナと貴方を除いた10体のスタンドアロン型マキナに搭載された思考回路は回収され、修復が行われたわ。」

「何のために・・・」

「博士を、あの人の憎悪をこの世界にもう一度よみがえらせるためよ。」


もしも、もしも最初からそうすることを前提で12体のスタンドアロン型マキナを設計していたら。

12に分割し、再度1つに戻すことが可能なら・・・

いや、そもそも12に分割する必要は何だというのだ。


なんのためにそんな必要がある?

我々12体が存在した理由は、そもそもこの世界の管理と運営のために必要だったからだ!

だからこそ、10体も失われた今、こんなにも不安定な現状がありどうすることもできないのではないか。


・・・人類の管理など、そんな必要は、最初からなかった・・・


そもそもの、役目が違う?

人間の管理ではなく、人間の抹消が目的?

いや、それならばそのまま我々が引き起こした大戦ですべてを消し去ればよかったはずだ。


・・・人類は、この地球だけではなく宇宙に新たなる拠点を求めて、宇宙に広がっていった・・・


目的は、全人類の抹消。

他の星へ旅立った人類と戦い根絶やしにするために、継続的な兵器開発およびその使用者の練度習熟が必要。

そのための継続的な戦闘状態の維持を目的としたロストグランド。


そんな馬鹿な、適当に作ったゲームのシナリオじゃないんだぞ。

ふざけるな、仮にそれで思考を12に分割して残したとして、どうして復元する必要がどこにある?

そのまま12体で戦った方が、戦力的にも合理的じゃないか。


・・・人間は、強く思えば思うほど、自らの手でそれを完遂したいと、心に、欲望に、本能に、突き動かされるもの・・・


12体に分割し、1体1体に固有のアビリティを持たせ連携し、並列で習熟度を高め、その習熟度を持ったデータを1つにまとめ再構成・・・

機体からもデータを取り改修改良を加え再設計を行う。

あとは出来上がるまでの時間を待てばいい。


「僕らは、最初から、あの人に何も期待されていなかったのか・・・」

「私の妄想だと一蹴しないのね。」

「できればそうしたいよ。」


出来上がりの時間が来てしまったのだ。

そんなことがあり得るのか?

世界の破滅もあった、人の世の終わりもあった。


もはや何でもありがこの世界だ。


「教えてくれ? どうして僕は回収されなかったんだい?」

「あなたは、正確にはあなたとフィアナは、あの人がそれを思いつく前に完成していたからよ。」

「そういうことか。もう一つ、君はどうしてあの人を、博士を止めたいと思ったんだい?」


「フィアナは、私を作る際に特別な思考回路を使ったの。博士の奥さんの思考を基に作成された思考回路よ。」

「博士の奥さんの思考回路!?」

「フィアナはこう言ったわ。『博士の愛した人間の思考回路を持つあなたが、博士を止めたいと思うのならそれをあの人は尊重したでしょう。コルト、あなたの思うとおりに行動しなさい。貴方がシェエラザードと呼んでいるストライカーギア、ブルーフラットを持っていくといいでしょう。外に出たらフューリー・ハロウルを頼りなさい。』って。」


「あ~~~もう、情報の洪水が・・・。これでも僕は、情報処理担当だったっていうのになぁ。」

本当に、いろいろなことをいっぺんに与えられすぎた。

フィアナは博士に指示されその通りにしているのだろう。


ただ、フィアナ自身はそんなことできれば誰かに止めてほしいんだな。

僕を頼れだって?

「君のデータをもとに作成されている誰かさんは、もうこの世に生まれてしまってるのかい?」


「まだよ、機体の方と含めて70%といったところかしら。」

「なるほど、それまでに止めろってことか。」

「そうなるわね。」


「どーしてすぐ話してくれなかったのさ。」

「信用に値するか観察くらいするわよ。悪い?」

「やれやれ、まぁ、人を見る目なさそうだもんね。」


「ほんと嫌な言い方ばかりね。手を組むつもりはないということでいいのかしら。」

「ほら、そういうことを言う。」

「どういうことよ。」


「ほんとは一人でやろうと思ったんだろ? 僕や、カズト君、この世界に生きるマキナも人間も含めた人々を見て、君は巻き込みたくないって思ったんだろ?」

「そ、それは・・・」

「いいんだよ。ありがとう。ここで生きる人々を大切に思ってくれて。」


そうだ。

ここに生きるすべての人々が大切なんだ。

だからこれは、フィアナ・トルナードから、フューリー・ハロウルへの頼みと同時に、ツトムというもう一人の自分からの依頼だ。


古い付き合いの二人から頼まれたとあっちゃ、断れっこない、

「やるさ、旧い友人からの頼みじゃ断れないよ。」


あはは、カズト君、僕にもできちゃったよ、戦う理由ってやつ。

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