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依頼内容その12: ヒトのカタチと借り物の心

カズトとニーナはトレーラーに運ばれて目的地『ロージーランド』へとたどり着く。

この町は地上からはそこまで栄えているようには見えないが、町の中心部にある建物や比較的大きな商業施設には地下へと続く昇降機がある。

地下には、作物を育てる機能を備えた区画、ストライカーギアの整備施設、医療用の設備や入院が可能な施設が揃えられていた。

それは、いつだれがどのようにして用意したのか不明だが、前世代の人類が利用していたのだろうと考えられていた。

地下で動物を飼育することは考えられていなかったようで、地上では牛や豚、鶏の飼育を行っている。

関連する加工施設や倉庫も地上にあるため、ロージーランドは食肉生産を行い他の都市と交易をおこなっている都市となっていた。


「なぁ爺さん。」

「ん、なんじゃ?」

「いいのかよ、部外者の俺たちにこんなもの見せちまって。秘密にしてるんじゃないのか?」

「おー、そのことか。お前さん警戒すべき部分には鋭いな。悲しいが良いことだ。安心せい、口封じなどは考えておらんよ。」

「そうか。」

「まぁ、もうちょっと頭を使ってみろ。知られて困るなら、そもそも助けたりせんよ。」

そうはいっても、何かに利用したり、罠にはめたりする可能性は捨てきれないとカズトは思う。

「わしを警戒するのは、まぁ、かまわん。だが、この町の人を疑うのはやめてくれ。窮地を救った恩人の願いじゃ。」

そう言われてしまえば、そうするほかにない。

「あ~、ん~、言うなと言われておったが、お前さんがそういう性格なら言っておいたほうが良かろうな。」

「?」

「お前さんたちが来ることは前もって連絡を受けておったんじゃよ。」

「は?」

「ん~、危険以外にはあまり頭が回らんようじゃな。薬を取りに来たんじゃろお前さんたちは。」

「え、どうしてどそれを。」

「わしが薬の提供者だからじゃよ。まさか、聞いとらんのか・・・?」

「え?」

「え??」


関係者が一堂に会し、話をまとめれば簡単なことだった。

ただ単に連係ミス。

言っただろう、聞いただろう、必要に応じて聞いてくるだろう、教えてくれるだろう。

まぁ、人間関係の慣れから発生するそういったちょっとの甘えというか、そういった油断的なものだ。

誰と誰の間でという事になるが、当然片方はツトムとカズトたち依頼を受ける側。

では、もう一方はというと当然依頼を出した側となるが、この場合依頼を出したのはニーナになる。

ニーナが原因なのかというとそんなはずはない。

実はカズト達とニーナの間にその依頼を仲介した存在がいる。

そうエージェントである。

今回の場合、エージェントである彼「ブラン」が手に入れるものと目的地は伝えていたが、それをどうやって受け取るのかについて追って伝えるとしたまま連絡していなかった。

「ま、そういうことだ。いや~悪い悪い。」

と、呼び出され状況の説明を求められたブランは開き直っていた。

ブランとは、ドクター・マイヤーの家にある通信回線を使って会話をしている。

モニターとつながっていて、モニターにはブランの姿が映っている。

そこにはツトムとコルトも合流していた。

「確かに、確かに誰から薬を分けてもらうのかを伝えてなかったのは悪かった。でもさぁ、そっちから連絡してくれてもよかったんじゃない? 持ちつ持たれつじゃないこういうのって。ね。」

「そうは言うけど、君いつもこちらからの連絡は断ってくるじゃないか、情報漏洩につながる可能性あるから、問題のない手段を確立してそのチャンネルでこっちに通信するって。」

「あれ? そうだったっけ・・・。僕の話ちゃんと覚えててくれて嬉しいなぁ。あはは。」

「こっちは襲撃された挙句、僕のスケアクロウがまた壊れちゃったんだよ。修理代もろもろ君に請求していいんだよね! っていうか請求するからね!!」

謝っているんだかおちょくってるんだかわからないようなブランの態度に、ツトムのイライラは限界寸前だった。

それを察してカズトがツトムを落ち着かせる。

そんなやり取りをよそに、今度はドクター・マイヤーがブランに話しかけた。

「おまえさん、相変わらず適当な仕事をしとるなぁ。」

「ドクター、そんなこと言わないでくださいよぉ。ある程度ぼかして情報を伝えるのは万が一にどこかの誰かにバレても何とかできるようにするためなんですって。」

「またそうやってその場しのぎの適当なことを・・・、お前さんは本当に口だけは回るのぉ。それで、この子に薬を渡せばいいんじゃな?」

「はい。」

「念のための確認じゃ、その患者の原罪の容体は?」

「熱や頭痛といった症状は今もなく、とにかくせき込みが激しく呼吸が満足にできなくなる場合があるようです。」

「それは、頻度的にはどうだ?」

「頻度自体は症状が発生した時よりは収まっているようで、日中帯はそこまで酷くはなく、朝晩の冷えたときに多いようです。」

「わかった。お嬢ちゃん、申し訳ないが少し教えておくれ。いつ頃から弟はそういう状態になった?」

「2週間くらい前に、いつものように畑仕事を手伝っていたんですが、少しづつ咳が止まらなくなって・・・」

「ああ、そのくらいでいい。よくわかった。おそらく、畑仕事の際になにか細菌を体に取り込んでしまったんだろう。体が強ければ入ってきた菌を体内で対処できる場合もあるが、そうはいかなかったようだ。直接診察して薬を調合してやれないのが申し訳ないが、おそらく何とかなるじゃろう。咳こむのは苦しいかもしれんが、ウイルスの毒性も弱まっておるようじゃな、無理をしなければ死ぬことはないじゃろう。」

それを聞いたニーナは「ありがとうございます。」と感謝の言葉をやっとの思いで伝え涙を流す。

コルトがニーナを優しく抱き寄せ「良かったわね。大丈夫よ、安心していいの。頑張ったわね。」と慰めていた。

ドクター・マイヤーがブランにあとは任せておけと伝え、彼との通信は終わった。

ツトムは回収されたスケアクロウの修理を見に行くというので、カズトはスケアクロウの状態を見たツトムにあれやこれやと文句を言われるのを避けたい一心でドクター・マイヤーと共に薬の調達に同行することにした。


「さて、そういえばお前さんのケガは、ちゃんと見てなかったな。診療所に付いたら治療をしてやろう。どうせお前さんのストライカーもそうそう簡単には治らんだろうからな。パーツのスペアはいくつかあるがそれがそのまま使えるとも限らん。期待もお前さんも万全の状態でニーナを送り届けてやるといい。」

カズトは複雑な心境になった。

医者と呼ばれる命を救う人たちの対極に自分は居て、自分の復讐を果たすために誰かの命を奪っている。

そんな自分が治療を受けていいものだろうか。

「遠慮しておく。治療代が払えないから・・・さ。」

「ストライカーの修理代なら、ブランの奴から貰うわい。もともとそういう話じゃ。」

「うそだろ? ストライカーの修理代だぞ??? それにそんなの戦闘が起きることは織り込み済みだったのか!?」

もともとニーナを危険な目に合わせるつもりだったのかと、カズトは憤った。

「落ち着け、万が一に備えてだ。仮に戦闘が起きてストライカーが故障したらあの嬢ちゃんが薬を安全に持って帰ることが困難になるじゃろ。それに備えてストライカーの修理が必要になった時は、自分に請求してくれとアイツは言ったんじゃよ。」

「そうか、そういう事か。でも、なんでアイツがそこまでするのかさっぱりだ・・・」

「まぁ、ブランの奴からこういう事は言わんじゃろうなぁ。診療所で治療しながらなら話してやってもいいぞ。ほれ、そこじゃ。」

ドクター・マイヤーが指さした先には、機能性を第一に追求しましたと言う感じの四角い大きな倉庫のような建物だった。

中に入ってみると、小さな待合室があり、その先は診察室へとつながっている。

誰かほかにいるのかと思ったが、診療所には誰もいなかった。

「診療所と言ってはいるが、ここはもう使われておらん。今は地下の医療施設で対応しとる。そこに座れ。」

言われた通り、カズトは椅子に座る。

ドクター・マイヤーは、カズトの包帯を外し患部の確認を行いながら話をつづけた。

「さっきの話じゃが、ブランはニーナの父親と組んで仕事をしておった。そしてワシもな。」

「まさか、爺さんもデスペラードだったのか・・・?」

「はっは、さすがにそれはない。この町の自警団があるじゃろ? そのまとめ役をやっておったんじゃよ。そのころは、ストライカーギアを満足に動かせる者もおらんくてな。」

「それが今じゃあの対応かよ・・・」

「ニーナの父親が、戦い方を叩き込んでくれた。地下の施設を見つけたのも奴じゃ。」

「ニーナの父親が?」

「そうじゃ、不思議なことを言っておった。『俺たちは自分たちのことを人間だと思っているが、本当はそうじゃない。人間を真似て生きるように作られた別の何かだ。だから俺は、俺たちが人間になるための戦いをしているんだ。自由と責任を取り戻すための戦いをな。』最初にあった時もそんなことを言っておったよ。」

「なんというか、とんでもない妄想にでも取りつかれちまってたとしか思えないな・・・。笑い話にもなりそうにない。」

カズトはそういいつつも、『人間を真似て生きるように作られた別の何か』という言葉が引っかかる。


人間を真似て生きる、人の形と借り物の心で動くヒトガタ。

命のふりをした出来損ないの命、そんなもののまま俺達は終わるわけにはいかない。

そういえば、いつだったかロム兄さんがそんなことを言っていた気がする。

あれはいつだったか、ストライカーギアの操縦を習っていたときか?

思い出せねぇなぁ。

だけど、なんか妙に引っかかる。

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