依頼内容その1:新兵器開発阻止
遠い昔、どこかの独裁国家が、どこかの超大国に喧嘩を吹っかけ挑発したことを皮切りに、ギリギリのところで保たれていた表面上の平和が崩壊。
世界各地で争いが繰り広げられ、人々は戦うことでしか生きられなかった。
そんな中、争いの最大の戦力となったのが、超大国が開発に成功した有人機動兵器「ストライカー・ギア」だ。
そして、それを操るものはデスペラードと呼ばれ、それらは一気に時代の主役となる。
全長15mの鋼鉄の巨人は圧倒的な力を見せ付け、争いは終結するかのように思われた。
しかし、人の欲望はただ新しい時代を迎えることを許さない。
戦いが終わった後の利益を求め、もしくはその利益を餌にして仲間を貶め敵に寝返り、ストライカー・ギアはいつしかゲリラ組織までが運用できるほど普及した。
そして、最終的に最も多くのストライカー・ギアを保有するにいたった勢力が2つ残った。
一つは、ネイションと呼ばれ、以前は国家だったものたちが集まって一つとなった勢力だ。
かつての超大国やそれに連なる国が合体している。
もう一つは、ソシエートと呼ばれ、かつての大企業や巨大な研究機関だったものたちが集まった勢力だ。
彼らは、お互いにお互いの存在を認めず、世界地図がまったく別物になるくらいの大破壊を繰り広げる。
そして、戦禍によって荒れ果てた大地はロストグランドと呼ばれるようになった。
このロストグランドを挟んで北と南に世界は分断され、北をネイションが、南をソシエートが支配し、両組織はロストグランドで暮らす人々を"アウタード"と呼称して、ストライカー・ギアや食料を与えて自分たちの代わりに戦わせるようになった。
こうして世界はネイションとソシエートの争いを、ロストグランドで代行することでようやく膠着状態となる。
そして、人々にとってそれが当たり前と思われるほどに時は流れた。
エージェントの話はこうだ。
ソシエートの新兵器の実験がロストグランドで進行中との情報を入手した。
どうやらもうすぐ完成するらしい。
そのため、新兵器の評価を行い有益であれば奪取せよ。
奪取が不可能もしくはガラクタであれば、兵器の破壊。
報酬は確認できた評価項目によっては上乗せする。
「めんどくせぇ」
ぶっ壊すとか、ぶんどって来るってだけなら簡単だってのに。
カズトは、自身が操縦しているストライカー・ギア"スケアクロウ"のモードを自動移動に切り替えてため息をつく。
することもないのでしかたなく問題の評価項目に目を通すことにした。
「有効射程距離、、、リロード時間、消費エネルギー、発熱量、あ、ダメージ!? 当たれってか。。。」
『修理費は出してくれるってさ、カズ君』
「いや、おまえ、問題はそこじゃねぇよ~」
無線の向こうから話しかけてきたのは、ツトムというカズトの仲間だ。
とにかくしゃべるのが好きなので、ミッション直前だろうとお構いなしで話しかけてくるし、ストライカー・ギアの整備をしているときもあーだこーだと一人でしゃべりながらやっている。
本人曰く、しゃべりながらやることでリズムを良くしているらしい。
『まぁ、項目が全部取れなきゃ報酬出してもらえないわけじゃないし、余裕があったらでいいんじゃない?』
「それもそうだな」
『最初の1発目を確認するまではレーダーは索敵で戦闘モードに移行しないでね。レーダー範囲外じゃ距離測れないからさ』
「わかってるよ」
『そう、それじゃ、解析はこっちでやるからよろしくね』
そう言ってツトムは無線を切った。
カズトはレーダーの索敵範囲を最大まで広げる。
自動移動から手動に切り替えるが、火器制御システムのロックはまだ解除しない。
コンピューターの演算能力を解析に回すためだ。
現在、峡谷の中を進んでいるがおそらくそろそろ敵のレーダー網に引っかかると考えられる。
なんの用意もなくロストグランドでの実験など行わないはずだ。
それ相応のお出迎え(自動迎撃)を用意しているか、あるいは。。。
できればもう一つのほうが嬉しいけどな、とカズトは考えていたが、レーダーに捕らえたのは固定砲台と小型の戦闘ヘリ。
どうやらヘリは固定砲台の射線上を警戒しているようだ。
あぁ、歯ごたえはなさそうだ。
やる気をなくしつつ、カズトは岩肌に設置された固定砲台の四角となるコースを割り出す。
固定砲台とヘリを打ち落としてもいいのだが、目標に逃げられては元も子もない。
新兵器のテストを行っている現場までは事を起こさずにたどり着く必要がある。
しばらく進むとようやくお目当ての場所にたどり着いたようだ。
ロストグランドには似つかわしくない、文明的な施設。
今回の兵器を輸送してきたであろうトレーラー。
ここまでくればもう隠れる必要はない。
こっちを見つけてもらうとしよう。
「それじゃ、始めますかね!」
勢いをつけて峡谷を駆け上がる。
一気に上空まで飛翔すると、早速あちらのレーダーが捉えてくれたようだ。
「さて、ミサイルか、ライフルか、レーザーか。。。」
コクピットに相手からロックされたことを告げる警告音が響く。
だが、こちらのレーダーには警告を送ってきた相手は表示されない。
『カズト、索敵範囲外からロックされているんだ。おそらくこっちの行動は読まれてた。相手の意図通りにおびき寄せられたんだよ。だから』
「わかってる。正面だろ。」
カズトはツトムにそう告げると、機体を右に水平移動させた。
すると、先ほどまでの場所を細いレーザーが通過する。
「ビンゴ。ツトム、ちゃんと計測してくれよ」
そのまま機体を前進させる。
「悪いなスケアクロウ、ちょっと痛いが我慢してくれ。」
進行方向から、先ほどのレーザーが再度飛来する。
致命傷とならないことを祈りながら、レーザーに当たると軽く機体が揺れ被弾箇所の耐久が危険となったことが表示された。
どうやら右肩が狙われたようだ。
ストライカー・ギアの武装は方に装備する武器に強力なものが多く、レーダーなどの補助装置を格納している場合が多い。
それを封じる為に肩を狙ったと思われる。
いい腕だ。カズトはそう感じた。そしてようやくターゲットをスケアクロウのレーダーが捉えた。
『カズト! ダメージ、有効射程、リロード時間は今ので取れた。消費エネルギーは相手との距離とダメージから計算できる。発熱量と弾数については考えなくていいから、全力でやれ!!』
ツトムの声が荒い、あのヤロウ、自分の作ったスケアクロウが傷つけられて頭にきやがったな。
だから、問題はそこじゃないといったんだぞ。
まぁ、なんにせよ、お許しが出たんだ。
カズトはニヤッと笑うと、火器制御システムのロックを外し、索敵の範囲を絞って戦闘モードに切り替え、着地したスケアクロウの態勢を整えると最大速度で加速した。
それに合せて、レーザーが飛んでくるが左右にステップして速度を落とさず軽やかに交わす。
どうら相手はこちらをロングレンジで仕留めることは難しいと判断したようだ。
こちらに向かって真っ直ぐに突っ込んでくる。
カズトは堪らず歓喜の声を上げた。
「好きだぜ、そういうの! 久々のストライカー戦、楽しませてくれよ!!」