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第1章-8

3月より松岡直也グループのライヴ活動も本格的となり、めぐにとっては柳ジョージバンド以来の地方公演も行なうようになった。もっとも柳の時はホール中心だったが、松岡直也グループの場合はライヴハウスやイベントでのコンサートが主だった。

しかしめぐのプレイが全面に出ている現在の音楽は、観に来たオーディエンスをおおいに沸かせ、

彼女の存在感を強く印象付けた。

矢野が書くミュージックジャーナルの記事も添削指示を受けない限りは、めぐについて紙面を割き

彼女の存在はマニアックであるにせよ知られていった。


ちょうど金沢公演が終わった時、次の京都まで中1日の余裕があったので彼女は思い切って実家に立ち寄ることにした。約3年ぶりに見る家は何も変わっておらず、静かな佇まいを見せていた。ドアを恐る恐る開けると母が台所から顔を出し、お互いビックリ!何も告げずに来たからだ。

「どうしたの?元気そうで良かったよ〜」

母の優しい気遣いが何よりうれしく、内心いきなり怒られたり無視されるのではないかと危惧していたのでホッとし

涙が出そうになった。

「とりあえず今日はずっといるんでしょ。お父さんもすぐ帰ってくるからキチッとまた話そうよ、ネッ!」

母は穴があくほど、めぐの顔を見つめて言った。大学教授である父は仕事が終わると真っ直ぐ帰っていることが

ほとんどなので、ほぼ定時の6時に帰宅した。

台所で母と食事の支度をしているめぐを見て「おっ!」と小さく驚きの声を上げたが、すぐ険しい顔になってリビングに行ってしまった。

今日はエビ天、かき揚げなどの天ぷらづくし、そして本当に久しぶりの3人での夕食。質問するのは母ばかりで、めぐは香坂に御世話になっていて姉のように慕っていることや、小料理屋の女将が東京の母だと冗談半分に答えていた。

その横で父は無言で天ぷらを口に運んでいた。食事が終わるとリビングで家族会議のごとく3人が顔を付き合わせる格好になった。ここで初めて父が口を開き、

「大学は休学ということになってるなら今からでも遅く無い。復学しなさい」

とめぐに促した。母は心配そうな顔つきで口をキュッと結んだ形で無言。


しばらく時間をおいてからめぐは

「段々と自信が出てきたし、今やっていることは止められないの。中途半端では絶対終わりたくない...」

と言って言葉が詰まってしまった。父はフッと吐き出すようなため息をついて書斎の方に行き、結局もう出てくることは無かった。

「お父さんの気持ちはよく解ってる、自分でダメだと思ったらすぐお父さんの言う通りにするから」

めぐは母を説き伏せるように言った。

2階にある自分の部屋にいくと、全てが出て行った当時のまま。それが逆に両親の愛情を感じ、めぐは感謝と懺悔をしながら就寝した。

朝になり台所に降りると、早朝にもかかわらず朝食が用意してあった。

めぐが朝の列車時刻を伝えていた為ではあったが、高校時代は深く感じなかった母の愛に

感謝しながら朝食をとった。

そしてまだ仕事に行くには時間が早く、朝刊を読んでいる父に「それじゃ行ってきます」と言い、母には

「心配しなくても助けてくれる人が沢山」いるからと言って家を出た。

京都に向かって乗った列車は、奇しくもプロになるため東京に行った際に乗った列車と同時刻だった。

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