第2章-2
オーディションは終了し、意見は分かれたが矢野はどうしても最後の日野麗を抜擢したかった。
写真を見せて似ていることを強調し、半ば強引に意見を押し通して彼女が採用されることとなった。
麗はぶっきら棒な様子で矢野の前に現れた。
「アンタがウチを押したそうやけど、何でやの?ウチそんなにやる気無いさかいな!」
いきなりこんなことを言われたものだから、呆気にとられてしまった。
「それじゃどうして、このオーディションに参加することになったんだい?」
「友達がラジオ聴いてて勧めてきたのにノッた感じやな。仕事も無かったしな」
めぐに顔は瓜二つ似ているものの、しゃべり方がどうしても気にいらない。それにやる気が無い?
仕事が無かったから?普通、初対面でこんなこと言う人間がいるのだろうか?初めて彼女を見た時は
胸がときめいたが、それも一気に失せてしまった感じだ。
「とにかくギターがマネだけでも出来るようになるのが最低条件です。社にギターがありますから、
それをお貸ししますので、練習してください。解らないことがあったらいつでも聞いてください。」
矢野はこんな彼女であっても出来るだけ丁寧に話すようにした。
「ギターが用意されているなんて、さすが音楽雑誌やな。でもどう弾いていいかさっぱりやねん。
それにウチ、大阪戻っても住むところがあらへんのや。東京で何処か用意してくれんやろか?」
矢野はやれやれという感じで、とにかくミュージックジャーナル社に麗を連れていくことにした。
編集長に相談し、とりあえずウィークリーマンションを彼女にあてがうことになった。
しかしながらすぐに住めるわけではないので、カプセルホテルで当座をしのいだ。
翌日になって、めぐと親交が深かった高坂みゆきに当時の思い出を聞くという取材があったので、
彼女と対談することとなったのだが、行き場の無い麗も矢野についていくということとなって、
矢野にとっては不本意であったが、高坂と彼女を逢わせて反応を見たいという期待もあって連れていく
こととなった。麗には出来るだけおしとやかな振る舞いに徹してくれと要望を言い、それは今から
役作りという仕事の一つだということで納得させた。待ち合わせのホテルロビーで2人は高坂の前に現れた。