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第1章-12

夜になり、めぐは指定された中野のスタジオに向かった。ここへ来るのは初めてだ。

ギターと機材を持ってトビラを開けるとミキシングルームがあり、ガラス越しに

アイアン・メイデンのメンバーが見えた。あの憧れのミュージシャン達が実際に目の前にいる!

めぐは予定より早めに来たのだが、彼らはそれ以上に早く来ていた。よほど心配なのだろう。

まだ音は出していないようだったので、めぐはスタジオの鉄扉をゆっくり開けた。

そこは広い高級なスタジオで、椅子はもちろんソファーまで室内に用意されていた。


「こんにちは。。。ハ、Hello!Nice meets you!」


「What?」メンバーは人物像をまったく聞いていなかったので、ファンの女のコが

スタジオに乱入してきたと思ったのだろう。しかしギターを持っている。。。


通訳の女性が間に入ってきて段々とお互いの発言が通ってくる。


「ところで本人は一緒に来なかったのか?ユーはマネージャー?それとも彼女?」

ヴォーカルのブルース・ディッキンソンが怪訝そうに尋ねてきた。


「いえ。。。私が本人です。石原って言います。宜しくお願いいたします」


「え。。。?本人って、キープしたギタリストってユーなの?ガール?」


「そうです」


ブルースは事態を自分なりに解釈して段々とこめかみに青筋が浮いてきた。


「あ〜何てことだ。ウドーはアイドルをとりあえず入れて観た目を良くしようと思ったのか。

そりゃあオレ達の曲はすぐ出来るもんじゃないけど、何だと思ってるんだ。ナメてんのか!」


もう怒り心頭だった。ブルースはソファーになだれ込むように寝そべって完全にふて腐れていた。

冷静なリーダーでベース担当のスティーヴ・ハリスはしばらく考えて、


「こうなっては仕方が無い。とりあえず4人でもやろうと思ったくらいだから演ってみよう」


もう1人のギタリストであるヤニック・ガーズは


「オレがソロをほとんど演るからバッキングに徹してもらおうか。そう演るしかないだろ?」


「とりあえず演ってみよう。今さらイジるのもタイヘンだからそのままでイイよ」

スティーヴはベースを取り出してスタンバイの準備をし出す。それに続いてドラムの

ニコ・マクブレインもセッティングし出した。めぐもそれに続いてギターを取り出し、

アンプに繋ぎヤニックにアンプのセッティングを聞いて大まかな打ち合わせをした。

ブルースはというと相変わらずソファーに寝そべって勝手にしろと言わんばかりだ。


まずはコンサート・オープニングの「撃墜王の孤独」から演ってみることに。

最初からツインリードとなるのだが、ヤニックにピタッとフレーズを合わせるめぐに

隣でめぐの様子を伺っていたスティーヴは目を丸くして驚いた。

「コイツは本物じゃないか・・・」ヤニックもニヤッと笑みを浮かべた。

ブルースが歌わなかったので歌が入る部分はインストとなりいよいよギターソロに!

最初の部分はめぐのパートだが、彼女はデイヴ・マーレイのフレーズそのままで流暢に

弾いてみせた。ヤニックもそれに続いて熱いプレイを見せた。

メンバーの中で一番驚きのリアクションを見せたのは、他でもないブルースで、

ソファーに上を向いて寝そべっていたのが、イントロが始まるやいなやガバッと

上半身を起こし、めぐの方を凝視!「何だコイツは・・・」とあっけにとられた。


曲が終わるとスティーヴとヤニックは満面の笑み。もはや言葉はいらない。

2曲目は「明日なき戦い」で、この曲で息が合えばまったく問題が無いという難易度の高い曲だ。

スタジオテイクより早いテンポにもかかわらず、めぐはヤニックにピタッとフレーズを合わせる。

あまりのイントロの強烈さに、さすがにブルースも静観していられなくなり、サッと立ち上がり

マイクスタンドを斜めにして歌い出した。リハだというのに全開モードで歌いまくった。

曲が終わるとメンバーはめぐに握手を求めてきた。これはOKというサインだ。


「ところで明日のキョートから大丈夫かい?」スティーヴが尋ねてきた。


「はい、大体覚えましたけど、明日のリハまでに頑張って完全にします!」


「いや〜、ここまで出来れば徐々にでイイよ。何たってメインはブドーカンだからね」


この後メンバーは音楽雑誌の取材ということでスタジオを後にし、めぐも六本木へ。

仕事の予定で来れなかった有働と、いつもの小料理屋で落ち合い結果報告する為だ。

めぐが暖簾を潜って顔を出すと女将がいつものように笑顔で出迎えてくれた。

それから30分くらい経って有働が落ち着かない顔つきで店に入ってきた。


「で、ど、どうだった?メンバーは納得した?」


「はい、何とか私を使ってくださることになりました!」


「あ〜良かった。それを聞いてホッとしたよ。いくら実力があっても外部の人間を入れると

いうのをイギリスのミュージシャンは極端に嫌うからね。いや〜良かった!」


「ところで有働社長、ひとつ相談というか心配があるんですけど。入っていた仕事の方は

問題無くキャンセル出来たんですけど、衣装をどうしようと思って。。。マネージメント側は

黒っぽいコスチュームだったら急に用意出来ないだろうから何でも良いと言われたんですが。。。

私服っぽいモノしか無くて。。。」


「私もさすがに女性用は調達出来ないね〜。とりあえずこだわらなくてもイイんじゃないか?」


そう言いながらも腕組みをしてしばし考え込んだ。そこに高橋がなりが入店してきて

2人を見るや、めぐの隣に座ってきた。有働は事の成り行きを高橋に伝えると、


「そりゃ〜凄いコトだよ!おめでとう!世界に駆け上がる、またと無いチャンスだよ!」


手放しで喜んでくれた。更にコスチュームの問題を高橋に伝えると、


「何だ、そんなことで悩んでいたんですか。AVメーカーはコスチュームが命なんですよ!」


2人は「えっ!」と驚きの表情を見せ、言っていることがよく理解出来なかった。


「黒っぽいコスチュームでしょ!ヘヴィメタでしょ?SMっぽいのが合うんじゃないですか?

とりあえず出来るだけ何着か用意しますよ。明日の昼には京都に届くよう手配いたします!」


めぐは怪訝そうな表情を見せながらも「は、はいありがとうございます。宜しくお願いします。」


有働は「そりゃ〜良かった。いや〜話してみるもんだな〜」と安心しきった笑顔。


しばらく談笑したのち3人は店を出て、めぐは帰路についた。明日の朝は東京駅で

待ち合わせて京都に移動。それまでは練習しなきゃ。。。足早に自宅に急いだ。

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