第12話:次の行き先 -2-
その後、行き先で少し論議があった。西の砦を攻略する前に、オウルは大神殿に向かおうと提案したのだったが。
「それはいいんだけどさあ。その前に一度、トーレグの町に戻りたい」
とロハスが主張したのだ。
「戻って、あの封印をあの町にもやってあげてよ。何しろあの町はオレの大事な金づる、いやいやあの町の人たちにはとてもお世話になったから。気休め程度でもいいから魔物の害を少しでも取り除いてあげたいんだよね」
「本音がダダ漏れてるぞ」
ツッコみながら、オウルは考えた。
確かに、あの町の人たちは魔物のために大変な目に遭った。少しの間でも魔物の害を遠ざけてやることが出来るなら、そうしてやった方がいいかもしれない。
が、問題はアベルの封印にどの程度の実効力があるのかということである。
「そこんとこ、どうなんだよ先達」
オウルはバルガスに直接聞いてみることにした。
「そこのところと言うと?」
バルガスは不審そうに問い返す。
「だからさ。アベルのアレってどの程度効果があるんだ、って話だよ」
オウルは食い下がった。
「とりあえず魔物を遠ざけておくことは出来るんだろうさ。だが、どのくらいその効果がもつ? 維持管理しなかったら効力はどのくらい続くんだ。俺たちがここを離れたら何の意味もないとかだったらお笑い草もいいところだろう」
「あれは元々威力の強い魔法陣だ。一日二日で効果が消えるようなことはない」
バルガスは肩をすくめて言った。
「失礼ですなオウル殿。神の力は無限にして、私の術は完璧ですぞ! 効果は永遠に決まっているではないですか」
アベルが言い立てるが、オウルはその発言も無視した。
「そうだな」
バルガスも涼しい顔で言った。
「彼の基礎魔力からすると、普通の状態で三か月と言うところだと思うが。ただ」
黒い、表情の読めない瞳でチラリとアベルを見やる。
「彼の放出魔力は変動するからな。変動値が高い時にどれほどの効力を発しているか、この目で確認していないのだから言及は難しい」
「ああ。あのけったいなルーレットな」
オウルも苦い顔になる。
「けったいではありませんぞ。『ビックリドッキリルーレット』です」
アベルが口をはさむ。
全員がまた無視した。
「プラス率が高い時なら結構な力を発揮するってことか」
「あくまで可能性の話だが」
「じゃあ先達」
オウルはバルガスを見据える。
「アンタがやった方が確実なんじゃないのか。そこのバカより腕は確かだと見たが」
「オウル殿。何をおっしゃっているのです」
アベルがため息をついた。
「あの神言は私にしか扱えないのですぞ。あれは大神殿が独自に研究し到達した、神の力による神聖なものであり、失礼ですが闇に身を落としたバルガス殿などにはとても扱えますまい」
ホントに失礼だな、とオウルは思った。
本人の目の前で、しかもあれほどの魔術の冴えを砦の戦いで見せられておきながら、よく平気でそういうことが言えると思う。
バルガスはアベルに底意ありげな視線を向けたが、それについては何も言わなかった。
「神官の言うとおりだ。今の私にあれは扱えない」
ほーら言ったでしょうとアベルは得意げだが、それも黙殺する。
「どうしてだよ」
「昔の私のことについては答えないと言ったはずだが。まあ、今回は特例として答えてやるとすると、あれを発動させるには特殊な条件が必要だった。それはもう失われた。そういうことだ」
大変上から、かつ恩着せがましい言い方である。
イラッとしたが、とりあえずその発言内容だけに意識を集中する。
「あの魔法陣か」
砦でバルガスが破壊した、あの魔法陣のことを考える。
バルガスは無言で肩をすくめた。
あそこでバルガスが何をやっていたのか。彼は断片的にしか語らないが、その端々から感じ取れるのは組織的に『何か』を行おうとしている者たちの存在だ。
何者かの一員としてバルガスはあの場所を乗っ取り、魔法陣を作り、何事かを為そうとしていた。
理由も目的も彼は語りはしないけれど。
『魔王を倒す』という夢物語のようだった旅の目的の前に、現実に存在する影が差し始めたような気がして。
オウルは厭な気分になった。