第12話:次の行き先 -1-
数日後、ティンラッド、ロハス、アベルの三人が野営地に戻ってきた。
アベルは得意げに、ティンラッドはいつも通り眠そうに、ロハスは疲れた顔で。
「どうだった」
とオウルが訊ねると。
「もちろん大成功でしたとも」
アベルは得々と語る。
「神のご加護で、あの村はこれからも平穏を享受できることでしょう。村の善男善女も神言の威光に感心しておりましたぞ」
「マイナス1が一回出た。あとゼロが二回」
ぐったりした顔で横からロハスが言う。
「アベルちゃんは平気な顔してるんだけどさあ。オレ、焦ったよ。村の人の目も段々冷たくなってくるし」
「おいおい。ちゃんと封印してきたんだろうな」
後ろで眉を吊り上げているバルガスの分も代弁して、オウルがあわてて確認する。
「やったよ。だから時間かかったんじゃん。最終的には3と9が続けて出て、何とか華やかな感じで終わったから良かったけど。寿命が縮んだよ」
ロハスはやれやれ、と言って焚火の前に腰を下ろす。
「オレはさあ、堅実な商売が信条なわけ。こんな綱渡りみたいなの向いてないんだよ。アベルは大神殿の威光をかさに着て、あのおじいさん神官から祈祷書だの数珠だの巻き上げてるしさ。あんなの強盗のやり口だよ。オレ、ホント身の置き所がなかったって言うか。船長はいつもどおり女の子はべらせてヘラヘラしてるだけだし」
オウルはティンラッドに目をやる。船長はのんびりした顔で野営地を見回している。
戦っていない時の彼はいつも茫洋として、つかみどころがない。
「失礼な。大神殿の特使たる三等神官として、当然の待遇を地元神官に要求したまでのこと」
アベルが反論した。
「ロハス殿こそ。私が神言を唱えている時に、『うまくいったらご喝采』などと言って村の者から見物料を取っていたではないですか。私は不服ですぞ。神言はおごそかなる神の業であって売り物にするようなものではないのです。あれではまるで大道芸人ではないですか」
「お前ら。村で何やって来てんだよ」
オウルはつくづく頭が痛くなった。やはり自分が一緒に行くべきだったろうか。
目を離すとろくなことをしないヤツらである。
そして背後のバルガスの気配が何だか恐ろしげになっているようだったが、オウルは関知しないことに決めた。自業自得である。自分の行いの報いは自分で受けてもらおう。このごうつくばりとクサレ神官が闇の魔術師に呪われようが、彼の知ったことではない。
「ああ、そうだ」
ティンラッドが眠そうな目を上げて、バルガスに言った。
「君のことを聞かれた。殺したのかと言われたから、君は元気だと答えておいたが。フリージアとか言ったかな。君の幼なじみとかいう女性だ」
バルガスは意外そうに眉を軽く上げた。
「さあ、覚えていないな。誰だったか。あの村にはいい思い出がなくてね、忘れることにしている」
それだけ言って背中を向ける。
その後ろ姿を見てオウルは見え見えなんだよ、と思った。照れ隠しにもなっていない。
本当に付き合い辛いオッサンだ、と彼は肩をすくめた。